最強の冒険者
門の外に出てから数時間馬車に乗ったあと、少し歩いた先に『イヴの山』はあった。危険というだけあって辺りに人影は全くなく、既に『警戒心』が魔物のものと思われる殺意に微かに反応している。
「よし、じゃあ行こうか」
「お、おう」
アレンはそんな中をニコニコしながら歩いていく。その背中を見失わないように俺はゆっくりと付いて行った。
(…!)
そして山を登り始めて少し経った時、『警戒心』がより強く反応した。その瞬間、アレンは背中に背負っていた剣を引き抜く。
俺も戦闘態勢をとろうと剣を抜くと、アレンはそれを制止した。
「ヒロキ君は避けることに専念したほうがいいよ」
「え…そ、そんなにここの魔物って強いの…?」
「そういうこと。もし仮にその剣が当たったとしても、砕けるのは剣の方だろうね」
それを聞いた俺は言われたとおりに剣をしまい、殺意に集中しながら先へと進む。一方アレンは魔物など気にも止めず、街を歩くかのように軽やかに進んでいた。
「そういえば、ヒロキ君は何でこんなところに?」
(それ今聞く…?)
「…オレンジインゴットっていうのを取りに来たんだ」
「オレンジインゴットを?…確かあの鉱石は装備には使えないはずだけど…どうしてそれを?」
そう聞かれた俺は、ポーチから壊れたエイラのペンダントを取り出して見せた。そして弁償と償いをするために必要なことを伝えた。
「へぇ…優しいんだね」
「別にそういうんじゃ…」
「その優しさはいつかきっと君に帰ってくるよ」
「は、はぁ…」
相変わらずマイペースに会話を続けるな、と思いながらも俺は適当に返事を返す。しかしアレンの異能には未来を見ることができる『未来視』があることを思い出し、俺は本当に帰ってくるのかもしれないと感じ聞いてみることにした。
「それって『未来視』で見たのか?」
「いや?ただの持論だよ。そもそも『未来視』はあまり使わないようにしてるんだ」
「へぇー…なんで?」
「…結果がわかると人はそこをゴールにする。もしかしたらそれ以上の結果があるかもしれないのに、目指さないなんてもったいないだろ?」
確かにそうかもしれない。しかしアレンが『未来視』を使って見ようとすれば、俺が転生者を倒すことができるかどうかも分かるはずだ。
「な、なぁアレン…
どうしても気になってしまい直接聞こうとしたその時、『警戒心』が強烈な殺意を感じ取った。その方向を向くと、巨大な何かが飛来して迫ってきているのが見えた。そしてその何かは大きな衝撃と共に俺とアレンの前に着地すると、巨大な翼を広げながら天に向かって炎を吹き上げる。
「ド、ドラゴン…!?」
「ヒロキ君、俺から離れないでね」
「り、りょーかい…!」
ドラゴンが殺意を向けながら、鋭い爪で引き裂こうと前脚を振る。喰らえば無事では済まないだろう。俺がその場に伏せて攻撃を避けようとしたその時、突然ドラゴンの動きが止まった。
「と、止まった…?」
よく見ると、ドラゴンを見据えるアレンの瞳は紫色に変色している。これがエイラの言っていた『蛇眼』なのだろう。これほど巨大なものでも止められるとは、最強の冒険者と言われるのも頷ける。
「さて…」
そう言いながらアレンは手に握った剣を、目の前で止まったドラゴンの前脚に向かって軽く振る。すると前脚は綺麗に切断され、少し離れた場所の岩まで吹き飛ばされた。
「す、すげぇ…」
最強の冒険者と呼ばれるその強さに感動していると、アレンは剣を逆向きに持って地面に突き刺した。するとハンスの時と同じように、黄金色の何かが剣に集まっていく。
「『獄炎』」
アレンがそう唱えると、ドラゴンのいる地面から高熱の炎が現れる。その炎は瞬く間に巨大になり、ドラゴンを包み込んだ。そしてアレンが剣を地面から抜くと炎は消え、そこにドラゴンの姿は無く金貨だけが数枚落ちていた。
(こ、こんな軽々と…!)
「よし、先に進もうか」
「う、うぃっす…!」
「…そういえば何か聞こうとしてなかった?」
あっという間にドラゴンを倒すアレンに、感動すら覚えていた俺はすっかり聞きたかったことを忘れていた。そして俺は思い出したようにアレンに聞く。
「いや…『未来視』があればさ、俺が転生者を倒せるか分かるんだろ…?俺…倒せてる?それとも…死ん
「大丈夫だよ。何かあったら…俺が全部助けるから」
アレンは決意を固めるかのように前を向き、俺の声を遮ってそう言った。




