イヴの山へ
「おはようございます!ヒロキさん!」
「あぁ…おはよー」
眠い目を擦りながら体を起こすと、部屋の真ん中で準備運動をするエイラが元気よく挨拶をする。どうやら冒険に行く準備は万端なようだ。
「早く準備しないと日が暮れちゃいますよ!」
「えっと…そのことなんだけど、今日は休みにしないか?」
「休み…ですか?」
エイラは休むだなんて予想もしていなかったようで、少し固まってしまった。そこで俺は補足するように話を続ける。
「だいぶ戦闘にも慣れてきて、一日の稼ぎが増えただろ?そのおかげで金には少し余裕ができたし、たまにはゆっくりしようぜ」
「なるほど…確かにそうですね!」
というのは建前で、本来の目的は『イヴの山』の頂上に行ってオレンジインゴットを取りに行くことだ。俺は一人で出かける準備を始め、宿屋を出ようとする。
「ヒロキさん?どこか行くんですか?」
「えっ?あー…まあ個人的に行きたいところがあってさ…」
「私は連れて行ってくれないんですか…?」
子犬のような顔で俺を見つめるエイラに、断りにくくなってしまった俺は返答に困ってしまった。かといって一緒に行って手伝ってもらっては意味がない。
「えっと…た、たまにさ…一人になりたい時が来たりしない?わかる?」
「そう…ですかね?私は一人は嫌いですけど…。あっ!」
「ど、どうした?」
エイラは突然何かを思い出したかのように、目を見開く。何かあったのか気になり、俺はエイラに話を振った。
「あ、別に大したことじゃないんですけど…最近バタバタしてたから、お父さんとお母さんに会ってないなぁと」
「そ、そうなのか?まあ…いい機会だし、今日会いに行ったらどうだ?」
思わぬタイミングで訪れたチャンスに、俺は逃すまいと必死にエイラを会いにいくよう促す。そして説得の末、エイラは両親に会いに行くことに決め俺は1人、外の世界に繋がる門の前に立った。
(さて、まず『イヴの山』がどこにあるか聞かないとだな)
俺は門のカウンターに向かい、兵士に地図を見せてもらいながら『イヴの山』の場所を聞く。すると兵士はマップの一部に指を置く、そこは今いる『冒険の国メンクス』から遥か遠くを指し示していた。
「えっと…確かモンスターって、ここから離れるほど強くなるんでしたよね…?」
「そうだね、『イヴの山』くらいになると…無事に帰還できる冒険者は数少ないよ」
「……」
そんな危険な場所に俺なんかが一人で行けば、間違いなく無事では済まないだろう。こんな足止めを食らうとは思っても見ない俺は、どうすればいいのか頭を抱える。
(…てか、そんな場所に行ってオレンジインゴットをとったエイラのお母さんって…一体何者なんだ…?)
「あれ?ヒロキくんか、これから冒険かい?」
誰かは既にわかっているが声の方を向くと、そこにはアレンが笑顔で立っていた。突然現れることには恐怖を感じるが、今回ばかりは本当に嬉しい登場だ。エイラに聞いた話ではアレンは最強の冒険者らしい、一緒に来てくれれば心強いなんてものじゃない。
「そうなんだけどさ、一個お願いがあるんだ…いい?」
「お願い?いいよ、俺にできることなら」
「実は『イヴの山』に行きたいんだけど…」
「なるほど…護衛か。よし、じゃあ行こうか」
俺の話を途中まで聞くと、アレンは話の内容を汲み取ったのかあっさりと快諾する。そしてニコッと笑うと、先行して門の外へと歩き出した。




