ゼウスの謎
「お、おいエイラ…!もう少しゆっくり行こうぜ…!」
エイラは俺の話を聞かずニコニコしながら、ギルドから宿屋までの道のりを俺の手を引いて走っている。その元気について行けない俺は、何度か転びそうになりながら息を切らす。
「あ、そういえば!」
ついさっきまで全力疾走していたエイラは、思い出したようにそう言うと突然立ち止まった。その急停止に足が間に合わず、俺はついに転んでしまう。
「痛た…急にどうした…?」
「ヒロキさんってアレンさんと知り合いだったんですね!」
「え、あぁ…まあ色々あってな」
俺は起き上がりながらアレンと出会った経緯を話そうかと思ったが、話せば長くなるしエイラは思い出したくないだろうと思ってエイラにはあえて有耶無耶にした。
「…てか、エイラこそアレンのこと知ってるんだな?」
気絶していたからアレンのことは知らないだろうと思って聞いてみると、なぜかエイラは驚いた顔で俺を見つめた。
「ど、どうした?」
「どうしたって…そんなの知ってるに決まってるじゃないですか!なんたってアレンさんは最強の冒険者ですから!」
「最強…?あの人が…?」
確かにあの時アレンは赤子の手をひねるように、楽楽とハンスを倒していた。しかし、考えなしなところがあったり、マイペースだったり、貧乏だったりとどこか抜けている印象が強い。
「ええ!『異能』を5つ持つ天才…それがアレンさんです!」
「『異能』を5つも…!?」
「…未来を見る『未来視』、見たものの動きを止める『蛇眼』、強力な回復魔法が使えるようになる『シルフの瞳』、空間を操る『次元の目』です!」
エイラは一つ一つポージングしながら、格好つけて俺に説明した。しかし聞く限りどれも強力そうな『異能』だ、最強と言われる理由もわかる。
「…って、あれ…?あと1つは?」
「それがですね…教えてくれないんですよ。教えても意味ないって」
「ハハ…なるほどな…」
アレンなら言いそうだななんて思っていると、エイラは再び俺の手を取り宿屋に向かい始めた。
「さあ、ヒロキさん!私達も負けていられないですよ!」
「わ、わかったからもう少しゆっくり…って聞いてないな…」
終始エイラに振り回されながら、俺とエイラは宿屋に着き部屋のベッドに横になっていた。エイラはというと、既にグッスリと眠り幸せそうな寝顔をしている。
「……」
その一方で俺はなぜか目が冴えてしまい、ふと思い立ったようにポーチから蒼い石を取り出してゼウスのところに向かった。、
「あら…何の用かしら?」
ゼウスは相変わらず偉そうに高い椅子に座っていた。俺はひとまず前の椅子に座り、それから要件をゼウスに伝える。
「いや、アレンって人から転生者を倒すように言われたんだけどさ…今の俺の『異能』で勝てるのかな…なんて…」
「…残念だけど最初に言った通り、『異能』を増やしたり変えたりするのは無理よ」
「…で、ですよね…」
正直なところ無理な相談な気はしていた。予想通りの返答をされ少し残念がっていると、ゼウスは少しニコニコして俺の方を見る。
「そんなのよりも、それが無くても頑張ろうとする努力の方がよっぽど凄い。でしょ?」
「なんでまだ覚えてるんだよ…やっぱりバカにしてるな…?」
「そんなことないわ、本当にいい言葉だと思ってる。私は好きよ」
「へいへい…」
ゼウスの話を流すように相槌を打つ。それを見てゼウスは鼻で笑うと、一息つき真剣な表情で俺を見つめた。
「…それで、転生者を倒すことにしたのね」
「え?あぁ、元々世界を救う…みたいな話だったし…?」
「そう…でも最悪死ぬかもしれないのよ?それでもやるの…?」
まるで心配するかのような表情を俺に向ける。初めて見る顔に俺は少し動揺したが、世界を救う目標から逃げるつもりはない。俺は改めて決意を固めた。
「もちろん、やってみせるよ」
「そう…まあ、頑張りなさい」
ゼウスは視線を落としながらそう言った。悲しげな表情をしていたのが気にかかった俺は、心配するように声をかける。
「ど、どうしたんだよ?」
「…別になんでもないわよ」
「いや、でもなんか様子が…」
「なんでもないって言ってるでしょ、用が済んだならもう戻りなさい」
「えぇ…」
さっきまで心配してくれていたはずなのに、突然突き放されたような発言をされてしまった。何か気に触るようなことをしてしまったようだ。これ以上ここにいても火に油を注ぐだけだと感じ、俺は蒼い石を使って宿屋に戻った。
その後、あのなにもない空間ではゼウスと、前にもめていた何者かの声が話をしていた。
「…彼と無駄な関係性を作るなと忠告したでしょう、彼では転生者は倒せないのですから」
「…はい」




