自称魔王
ギルドの二階ベランダで、アレンは柵に寄りかかり沈んでいく夕日を眺めている。話を聞くべく、俺もその隣に立つ。
「それで…この世界の話って?」
エイラを待たせていることと、剣を早く返してほしかった俺は自分から話を振った。するとアレンはギルドで買った一番安いパンを、袋から取り出して食べ始める。
「…あの…?」
聞こえていなかったのかと思い、アレンの顔を覗き込みながら近付く。しかしアレンは黙々とパンを食べ続け、全て飲み込むとようやく俺の方を見た。
「よし、じゃあ…まずは質問しようかな」
「…はあ」
マイペースすぎるアレンに若干戸惑いつつも、俺は軽く相槌を打って返事をした。
「ゼウスからこの世界のことは聞いた?」
「えっと、確か…悪魔のせいで悲しい運命を…とかなんとか?」
「他には特に聞いてない?」
ゼウスから聞いた最初の説明を思い出してみるが、聞いた覚えはないので俺は首を横に振った。
「そっか…じゃあ『異能』についてはどう?」
「うーん…与えられた運命って…」
もう一度説明を思い出したが、『異能』についても特に詳しく聞いた覚えは無かった。アレンは頷きながら聞くと、少し考え込んでもう一度俺の方を見る。
「じゃあ…まずは『異能』について話そうかな。ってことで…あれを見て」
アレンはそう言うと、ギルドの中を指差した。言われた通りにギルドの中を見ると、その指の先には大きな女神像が立っていた。
「この世界の人間は皆、ゼウスみたいな女神様を崇めてるんだ。宗教みたいな感じでね。…そして数百年前のある日、その信仰心を称えて女神様が1つだけ願いを叶えてくれた」
「それが…『異能』?」
「そう、彼女がみんなに『異能』を与えたんだ。でも…女神様が創ったのは『異能』だけだった」
アレンは夕日の方に向き直るとそう言った。何が言いたいのかわからない俺は、首をかしげながら話の続きを促す。するとアレンは真剣な表情をした。
「…『異能』の中には使うだけで簡単に人を殺せるようなものもあるんだ。そんなものを女神様は何の制度もなしに、この世界に振り撒いた」
「…!」
真剣な表情で話すということは、既に何人もの人が死んでいるのだろう。確かに『異能』は便利だ、ハンスのように悪用する輩が多いのも納得できる。
「そして…そんな『異能』を真っ先に悪用した人間がいたんだ。そいつの『異能』は…何かを代償に、それと同価値のものをなんでも創り出せる『創造』。…そいつはその『創造』を悪用し、人の命を代償にして様々なものを造ったんだ」
そう言いながらアレンは、柵に立て掛けていた俺の剣を手に取って俺に渡した。
「今、君がその剣で戦ってるゴブリンとかいるだろ?それもそいつが創ったダンジョンとか魔物の一部なんだ」
「へー…」
集中してアレンの話を聞いていたそのとき、突然『警戒心』が発動した。背後から悪意を感じとり振り返ると、そこには緑髪の女性が立っていた。後ろから俺を驚かせようとしていたのか、両手を広げて前に出している。
「あれー…?バレてた…?」
「い、いや…急に何ですか…?というか誰ですか…?」
「…そいつは自称魔王のエリー、今話してた『創造』の人だよ」
アレンの紹介に驚きながら、俺はもう一度その女性を見つめた。とても悪いことをするような顔には見えない。今も明るい笑顔で俺に手を振っている。
「えぇ…この人が…?」
「ふふん…君がヒロキくんかー、アレンから聞いてるよ。これまた若いねー」
「は、はあ」
「私は自称魔王のエリー、よろしくー」
「…自称魔王って…?」
アレンの説明にもあった自称魔王という紹介文を疑問に思った俺は、エリーに直接聞いてみることにした。
「ただの自慢だよ。ダンジョンとか魔物を創るなんて魔王みたいでカッコいいでしょ。」
「な、なるほど…?」
カッコいいからなどという、強力な『異能』を持っている人からは想像もつかないようなしょうもない理由に、俺は反応に困ってしまった。
「ていうか、人の命と引き換えに『異能』使うようなヤツを放っといて大丈夫なのか…!?」
俺がそう言うとエリーは気まずそうに頭を掻いた。
「あー、実はもう『異能』は持ってないんだよね…」
「持ってない…?どういうこと?」




