エイラ復活
「ヒロキさん…」
俺は今、小鳥が囀ずる朝の宿屋でエイラにまたがられている。突然のことで困惑していると、エイラは腕を交差させて上着の下を持った。
「お、おい…なにしてるんだ…!?」
「昨日…助けてもらったお礼をしたくて…」
そう言いながらエイラは上着を少しずつ脱いでいき、そして脱ぎきった上着をベッドに置いた。そして俺から少し視線を逸らしながら、腕を背中に回す。
(まさか…!?)
上着だけでなく下着も脱ごうとしているエイラに驚きを隠せず、俺は咄嗟に顔を背けて視界から外した。そして覚悟を決めてゆっくりとエイラの方を見る。
「…あ、あれ?」
そこにエイラの姿はなかった。どうやら夢を見ていたようだ。エッチな夢を見てしまい唖然としていると、コンコンとドアをノックする音が部屋に響く。その音で正気を取り戻した俺はすぐに返事をする。
「あ、どうぞ…」
扉が開くと、宿屋のおばあちゃんがエイラを連れて部屋に入ってきた。俺が声をかけるよりも早く、エイラはベッドに座る俺に駆け寄ってくる。
「ヒロキさん…!体は大丈夫ですか…?」
「あ、あぁ…俺は平気だよ、エイラこそ大丈夫か?」
「はい!私はもうなんともありません!」
エイラは笑顔でそう言ったが、言い終わったあと視線を落とした。そして少し困ったような顔で俺を見つめ直す。
「あの…私のせいでこんなことになっちゃって…ごめんなさい…」
申し訳なさそうなエイラを見て、俺は改めて自分の不甲斐なさを感じた。しかしここで俺も落ち込んでしまい、エイラをこれ以上心配させるわけにはいかない。
「平気だよ、仲間なんだから助けるのは当然だろ?それより、早く金稼ぎに行こうぜ!」
「…!」
俺が笑顔でそう言うと、エイラも同じように笑顔で返事をして俺の後を着いてくる。
そして宿屋を出てエイラと軽く雑談をしながら、『ナナクスの森』に向かった。
「…よし、始めるか」
俺は森を前に気を引きしめて、剣を抜こうと腰に手を伸ばした。しかしそこに剣は無く、俺は慌てて記憶をたどり始める。そしてハンスとの戦闘で放り投げたあと、拾い忘れていたことを思い出した。
「エイラさん…」
「はい?どうしたんですか?」
「…剣が…無いです…」
エイラは俺の腰元に視線を送り、剣がないことを確認した。するとポンと胸を叩いて、任せなさいと言わんばかりに胸を張る。
「じゃあ、今日は私が稼ぎます!ヒロキさんは周りに敵がいないか見ていてください!」
「わ、わかりました…!」
頼もしい限りのエイラに感動を覚えつつ、俺は周りを『警戒心』で確認しながらエイラの後を着いていく。我ながら女の子に守られるとは情けない。
「『サンダー』!」
「ギャアァ…」
手際よくゴブリンを討伐していくエイラに敵の位置を教えつつ、俺は放り投げた剣の行方を探していた。しかしエイラを探してただひたすらに森の中を走っていたせいで、昨日何処で戦っていたのかも覚えていない。
(…見つからないか…)
そんなことを考えていると、エイラが金の入った袋を手に俺に近づいてくる。中を開けてみると、今日生活できる分の銅貨が入っていた。
「凄いな!もう集め終わったのか!」
「ふふん!当然です!」
エイラは自慢気にそう言った。正直俺はもう少し剣を探していたかったが、金を稼ぎ終わったならすぐに森を出た方がいいだろう。エイラがいるとはいえ、一人お荷物を抱えて剣を探しにいくのは得策ではない。
(買うしかないか…いくらするんだろう…?)
自分でなくした剣を仲間に買ってもらうのは流石にダサすぎる。かといって拳で金稼ぎも危険だ。大きな悩みを抱えながら、俺はエイラと宿屋に向かった。
「…あ、そうだエイラ。俺ちょっとやることあるから、先に部屋に行っててくれ」
「そうなんですか?わかりました!」
エイラが部屋に向かうのを確認した俺は、ギルドの方に向かって歩き始めた。用があるのはギルドではなく、その隣の鍛冶屋だ。
「暑…!」
中に入ると、熱い鉄を打つ音が鳴り響いていた。デカいハンマーを叩き付ける大柄の男達は、皆揃って薄着で汗を流している。いかにも鍛冶屋という感じだ。
「いらっしゃい!何の用だ?」
野太い声で話しかけられ、そちらを向く。そこにはムキムキのマッチョが、腕を組んで俺を見ていた。用件を尋ねられ、俺はポーチからエイラのペンダントの欠片を取り出す。
「これが何処で採れるか知りたいんですけど」
「ん?どれどれ…?」
男性は欠片を受け取ると、覗き込むように見つめた。
これが採れる場所を聞いたのはもちろん直すためだ。エイラの大切な宝物を壊されたままにはできない。
「これは…オレンジインゴットだな。『イブの山』の山頂で採れるぞ」
「『イブの山』の山頂…ありがとうございます」
場所の名前を復唱して覚えたあと男性にお礼を言い、俺は欠片を受け取って外に出た。すぐに宿屋に戻ろうとしたのだが、
「…ストーカーなんすか…?」
鍛冶屋の外には、まるで待っていたかのようにアレンが立っていた。
「ストーカーだなんて、人聞き悪いな…これを渡しに来たんだよ」
「…!」
アレンの手には、俺が放り投げた剣が握られていた。驚きつつもお礼を言って剣を受け取ろうとした時、アレンはその手を引いて剣を遠ざけた。
「と、その前に…少し話でもどうかな?」
「話…?」
「そう、昨日できなかった、この世界の話」
そう言うとアレンはニコッと笑った。




