『異能』の使い方
「い、痛い…!」
ハンスは乱暴にエイラの襟元を掴み、歩幅も合わせず無理矢理俺の方に連れてくる。縄で縛られているエイラは恐怖で震え、悲しげな表情を浮かべていた。
「は、離してください…!」
「チッ…『ショック』」
「ぐぅ…!」
掴まれた手に『ショック』を使われ、エイラは苦しそうに顔を歪める。そして『ショック』が終わると、頬に涙を流しながら抵抗をやめた。
「うぅ…っ…」
(…くっそ…俺がもっと、強ければ…)
俺はさっきの『ショック』と腹への蹴りのダメージが残り、その場から動けずにいた。俺は全くまともに戦えず、エイラを傷つけてしまっている自分を恨むことしかできなかった。
「あっ…!」
足元にあった小さい石に躓き、エイラはバランスを崩す。それにイラついたのかハンスは舌打ちをして、無理矢理エイラの襟元を引っ張りあげて姿勢を直した。
その時ハンスの手がエイラのペンダントに引っ掛かり、古くなった紐が切れて目の前の地面に落ちる。
「チッ…ったく、どんくせぇな」
「おい…と、止まれ…!」
エイラを力ずくで連れてくるハンスは、地面に落ちたペンダントなど気付かずに歩き続ける。そして綺麗だったそれは、踏み潰され小さく音を立てた。
「あ…?なんだこれ?」
ハンスはようやくペンダントに気付き、足を持ち上げる。そこにはバラバラになり、土にまみれたオレンジ色の破片が散らばっていた。
「あー…これエイラのやつか。ハハッ、懐かしいな。これ付けて冒険者になるんだーとか言ってはしゃいでたなー……でもよ?」
「…!?やめろ…!」
そう言って醜く笑いながらハンスは足を下ろし、もう一度それを踏み潰した。そしてエイラの首に剣を突き付ける。
「ひっ…!」
「こんなもん…オモチャにはいらねーよな?」
「この…クソが!!」
俺は少しずつ回復してきた体を無理に動かし、怒りに任せてハンスに掴みかかった。そしてハンスを蹴飛ばして、エイラをハンスから離して抱き抱える。その小さい体は恐怖に震えていた。
「ヒロキ…さん…」
「ごめんな、エイラ…もう少し待っててくれ…!」
エイラを木に座らせてから立ち上がり、ハンスを睨み付けた。しかしハンスは未だに余裕そうな表情を浮かべている。
「雑魚がいきがりやがって」
「絶対ぶっ飛ばしてやる…!」
「ハッ、やってみな」
ハンスの殺意に注意を配りながら、飛ばされた自分の剣を探した。そう遠くない位置にある、これなら『憑依』も届くだろう。
「『憑依』!」
『憑依』を使った瞬間に解き、自分の剣に近付き手に持った。そしてゴブリンを倒した時と同じようにハンスに投げ、再び剣に『憑依』を使う。
(一撃で終わらせてやる…!)
投げられた剣はいとも容易くかわされてしまった。しかしそれを見て確認した俺は『憑依』を解き、ゴブリンの時のように剣を手にハンスの背後をとる。
「なっ…!?」
完全に不意を突いたと思っていたが、ハンスはこちらを向いて剣を振っていた。運良く剣を持っていた右側から、振られていたおかげでなんとか防ぐことができたが、もし左側から振られていたら防御は間に合わなかっただろう。
「チッ…」
(な、なんで…!?)
その時俺はゴブリンでこれを試した時のことを思い返した。あのとき確かに何者かの悪意を感じ取っていた、あれがハンスのものだとすればこれを知っていてもおかしくはない。
「なんでわかったんだ?…とか思ってるだろ。特別に教えてやろうか?」
「いらねーよ…俺がこれやってるの見ただけだろ」
「ククク…まあ、確かにそれもあるが」
口振りからしてどうやら止められたのは、見た以外にも理由があるらしい。ニヤニヤと笑いながら、ハンスは俺の方を指差した。
「わかりやすいんだよ、そんな攻撃はな。物に乗り移る力を使いながら剣を投げる。そんなの剣を注意するに決まってんだろ?つまりだ…お前は『異能』の使い方が下手くそなのさ」
「下手くそ…?触るだけでいいお前に言われたくねぇよ…!」
「フッ…そうか?」
そう言うとハンスは指差していた手を広げ、何もない空間に『ショック』を使った。その瞬間、『警戒心』が強い殺気を感じ取る。
「教えてやるよ。『異能』の使い方をな!」
「一体何を…っ!?」
突然俺の胸の辺りがハンスの手に引き寄せられていく。どんどん強くなる引力に両足が耐えられず、ついに俺の両足は地を離れてしまう。そして勢いよく体が引き寄せられ、目の前には剣を振り上げるハンスがいた。
「くっ…!」
ハンスの剣を避けるために咄嗟に剣を投げて、『憑依』を使おうとした時だった。俺の投げた剣は俺の手を離れると、一気にハンスの方に引き寄せられていく。
(まさか…!?)
「喰らえ!!」
振り下ろしたハンスの剣は、俺の左腕を切りつけた。左腕に走る痛みと、辺りに散らばる自分の血に動揺しながらも、俺は剣を持って立ち上がりハンスから距離を取る。
「はぁ…はぁ…」
「さて…今のは忠告だ、次は確実に殺す」
『警戒心』が殺気を感じ取った。ハンスの言っていることは本気のようだ、次は腕に切り傷程度じゃ済まないだろう。そしてハンスはニヤリと笑うと、再び手を広げた。




