ピンチ
「ど…どういうつもりですか…?」
すっかり日が暮れて暗くなった『ナナクスの森』の奥で、エイラは太い木に縄でくくりつけられていた。そしてその前の少し広い空間にハンスが立っている。その顔に笑顔はなく、冷たい目でエイラの方を見ていた。
「エイラ…お前には俺のオモチャのままでいて欲しかったんだがな…」
ハンスはそう言うとゆっくりとエイラに近付き、前屈みになってエイラと目線を合わせる。
「はぁ…まさかお前にちゃんとしたパーティができるとは思わなかったよ、エイラ」
「…?あ、ありがとうございます…?」
「…褒めてねーよ」
話が噛み合わず、ハンスは大きなため息をついた。そして話しても仕方ないと言わんばかりに首を降り、右手をエイラの首もとに当てる。するとエイラは、か細く声をあげて震える。
「黙って俺の言うことだけ聞いてりゃ…こんな事せず済んだのに…」
「や、やめ
「いや、もっと前からこうしとくべきだったんだな…。『ショック』」
そう唱えるとハンスの右手から光とともに電流が流れ、エイラの体を駆け回る。ハンスが手を離すと強ばっていたエイラの体はグッタリと脱力し、肩を揺らして息を荒げた。
「うぐっ…はぁ…はぁ…ヒ、ヒロキさん…」
「チッ…またアイツの名前を
「おい!」
俺は言葉を遮って、こちらに気付いたハンスを睨み付けた。エイラを探している途中、森の中から尋常じゃない悪意を感じた。どうやら嫌な予感は的中していたようだ。
「ヒロキさん…!」
「フッ…やっと来やがったか」
ハンスは何か企んでいるような笑みを浮かべ、エイラから離れて俺に近付く。『警戒心』が強く反応している、もはや殺意を隠すつもりもないようだ。
「…何でエイラを…!」
「あいつはな、俺のオモチャなんだよ。だから…邪魔者は消そうと思ってな」
そう言いながらハンスは腰の剣を抜き、俺に突きつける。どうやら本当の狙いは俺のようだ。
「くそ野郎が…!」
「んなこと言ってられるのも…今だけだぜ!!」
殺気を漂わせながら俺に走り寄ると、ハンスは剣を勢いよく振り下ろした。俺も腰の剣を抜き、ハンスの剣を受け止める。
するとハンスはニヤリと笑い、一歩踏み出して俺に近付いた。そして左手を剣から離し、俺の右腕を掴む。
「『ショック』!」
「ぐっ…!?」
掴まれたところから強い電流が流れ、体が強張ってしまう。それを確認したハンスは悍ましい笑みを浮かべ、再び剣を振り上げた。
「死ね…!」
(クソッ…!?)
眼前に鋭い剣が迫ってくる。電流によりまともに剣を振れない今の状態では、間違いなく喰らってしまうだろう。
(『憑依』…!)
体に当たる直前、俺は咄嗟に手に持っていた剣に憑依した。俺を狙ったハンスの剣は空を切り裂き、剣は重力を纏い地面に刺さる。コンマ数秒でなんとか攻撃をかわした俺は『憑依』を解いて、再び剣を握って振りかざした。
「おっと」
振った剣は当たりこそしなかったが、ハンスから距離を取ることはできた。
(し、死ぬとこだった…!あれがアイツの『異能』か…!)
「どうした?もう限界か?」
すでに息が上がっている俺を見て、ハンスは勝利を確信したかのように余裕をかましている。とはいえ、今のところ勝ち筋が見えないのも事実だ。ハンスの『異能』は手から電流を流すもののようだ。触れられればそれだけでアウトだ。
(触られずに戦うなんて…できんのか…?)
とにかく気を張りつつ剣を構えるが、どうにかできる気がしない。『警戒心』で攻撃はなんとなく分かるものの、相手は動きの単調なゴブリンとは違う。対人の戦闘がこんなにも違うとは思わなかった。
(来る…!)
「オラァ!!」
ハンスは次々と攻撃を繰り出してくる。なんとか弾いたりかわしたりしているが、剣と『異能』の両方を意識してしまい攻撃に転ずることができない。
「どうしたどうした!!そんなもんか!?」
「くっ…!」
神経を尖らせながら、下がりつつ攻撃を対処する。しかし下がりすぎてしまったせいで、後ろに跳んで避けようとしたとき背中に大木が当たった。これでは避けることができない。
「しまっ…」
「オラァ!!」
「っ!?」
攻撃を剣で受け止めようとしたが、衝撃に手が耐えられずに剣を落としてしまう。ハンスはその隙を見逃すわけもなく、俺の首を掴んで大木に押し付けた。
「『ショック』!」
「ぐぅっ…!」
『憑依』を使う間もなく、『ショック』を喰らってしまい全身に電流が流れる。それと同時に首を絞められ、目の前の景色が霞んでいく。
「…く…」
「いや待てよ…?ヒヒ…良いこと思い付いた…!」
「クハッ…!」
そう言うとハンスは手を離し、俺は力なく地面に倒れこむ。そんな俺をハンスは嘲笑うように見下すと、腹に一発蹴りを入れエイラの方に歩いていく。
「エイラの目の前でお前を殺してやる。そうすればアイツもお前のことを諦めるだろ」
「く、くそっ…」
ハンスは少し離れた木にくくりつけられたエイラを離し、ゆっくりとこちらに歩いてくる。初めは抵抗していたエイラだったが、ハンスが首もとに手を当てるとすぐに体を震わせて従った。
俺はそれをただ見ることしかできなかった。
「やめろ…!」




