『憑依』
『ナナクスの森』に着いた俺とエイラは、金稼ぎのためにゴブリンを狩っていた。相手の攻撃は単調なものばかりとはいえ、2日目にしては戦闘にも少しは慣れてきた気がする。
「ふむ…」
今の俺の戦闘は『警戒心』で敵の攻撃を避け、その隙を叩くといった感じだ。かなり有効だと思うが、せっかく2つ『異能』があるのに1つしか使わないのは勿体ない。『憑依』も戦闘に使えるよう工夫したいところだ。
(物に乗り移って…その物の近くに移動する…)
「ヒロキさーん!」
考え事をしていると、エイラが俺を呼びながら近づいてくる。ゴブリンを倒して金稼ぎが終わったのだろう。
「おー、帰るか」
「あ…それがですね…」
「…?どうした?」
何やらどもっているエイラに、俺は何かあったのか聞いた。するとエイラは不安そうな顔で俺を見る。
「ペンダント…見ませんでしたか?オレンジ色の…」
「ペンダント…?うーん…見てないな…。落としたのか?」
「う…はい…すみません…」
別に責めているつもりは全くないのだが、エイラは申し訳なさそうに頭を下げる。そんなエイラを見て俺は、心配させないように笑顔で話を続けた。
「謝らなくていいよ、一緒に探して早く帰ろうぜ!」
「はい…!」
エイラが通った道を2人で通りながらペンダントを探していたが、それらしいものは見つからなかった。辺りをどれだけ見渡しても、周りには木かゴブリンしかない。
「…あれ?今の…」
俺の目には木陰で座り込んでいる、3匹のゴブリンが映っていた。その1匹の手の中には、オレンジ色に輝く何かが握られている。
「あれか…?」
「あ、ありましたか!?」
「ああ…多分あいつが持ってる」
ペンダントを持っていたゴブリンを指差すと、エイラは一歩前に出て手を広げた。魔法を撃つつもりだろう。そんなエイラを止めて、俺は腰の剣を抜く。
「…ちょっと試したいことがあるんだ、俺にやらせてくれないか?」
「…?わ、わかりました…!」
深呼吸をして集中力を高め、俺はゴブリンに狙いを定めて持っていた剣を投げつけた。
(『憑依』…!)
そして投げると同時に剣に向かって『憑依』を使った。俺の体はその場から消え、乗り移った剣は一直線にゴブリンの頭に突き刺さる。
(よし…!)
俺の視界には突然仲間がやられ、驚いた様子のゴブリン2匹が映っていた。そしてそのゴブリン達は、剣の飛んできた方向に体を向ける。しかしそこに俺の姿はもうない。完全に後ろを取った俺は『憑依』を解き、前の2匹を一振りで同時に斬った。
「おお…完璧だな!」
予想通りいったことに満足しながら、俺は地面に落ちた銅貨とペンダントを拾う。そしてそれをエイラに渡そうと立ち上がったその時だった。
(…!)
『警戒心』が発動し、背後からの悪意を感じ取る。
(なんだ…?)
悪意の感じる方を向いたがそこには何もいないし、もう悪意も感じ取れない。俺はあまり気にしないようにして、エイラのところに戻った。




