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県立防衛幼年学校  作者: 茅野平兵朗
第3章 風雲校外実習
76/108

76 モンロー伍長に敬礼!

今回、少しグロな表現がございます。

耐性ない方はご避難を。

 昼食を終えた俺たちは、再びヘルメットと装備を着けて、射場に入った。

 そこで俺たちを出迎えたのは、屋根がない檻に入った丸々と太ったどこか愛嬌のあるメスの豚だった。その尻尾には赤いリボンが結んである。


「可愛いだろ? 近くの養豚場で一番の器量良しを買って来たんだ。今の時点よりこの豚をモンロー伍長と呼称する。敬意を払え!」

「つけっ! モンロー伍長に敬礼!」


 野分軍曹の号令。一糸乱れぬ動作で俺たちは豚のモンロー伍長殿に敬礼する。


「なおれっ! やすめっ!」


 俺たちが休めの姿勢になると、朝霧中尉は絵に描いたような回れ右をして、モンロー伍長に向き直り、太腿にくくりつけてあるポーチ(ピストルを入れるホルダーっていったっけか?)から、やたらとでかいピストルを抜いた。

 嫌な汗が背中を伝う。

 朝霧さん! あんた何するつもりだ!

 そして、流れるような動作でやたらとでかいピストルを構える。

 その先には尻尾の赤いリボンをフリフリと揺らしているモンロー伍長殿がいた。

 やめろ!


「あ!」

「う!」

「うぐ!」


 朝霧中尉の行動が予想できたヤツの口から呻き声が漏れた。


 だぁん!


 ものすごくでかい風船を破裂させたような音が射場内に鳴り響く。

 同時に、愛らしいモンロー伍長の頭が破裂して、血と、ピンク色した何かの塊が飛び散った。

 なんてことしやがる!

 たしかに俺はスーパーで売っているようなパックされた肉しか知らないが、パックにするためにどういう作業が必要かということはわかっているし、菜食主義者じゃないから家畜を殺して肉にすること自体は否定しない。ってか、むしろ推奨だ。俺は肉が大好きだからな。

 つい最近だってステーキやろーすとぶびーふをウマウマと食ったしな。

 だからって、目の前で尻尾に赤いリボンを結んだ愛嬌のある豚を射殺されて平気なわけないじゃないか!

 それに、梓や陽や響や子ノ日さんみたいに、ついこないだまで小学生だったやつらに見せるようなことかこれは!


「うぷ!」

「ぐ!」


 何人か女子がえずいた気配がする。


「吐くな! 目をそらすな! お前たちが今手にしている物は、こういう結果をもたらす物だ!」

「不用意に引き金に指をかける。不用意に銃口の前に味方を置く。そういうときにかぎって不意になにかがぶつかって引き金にかけた指に力が入る。その結果、今、お前たちの隣にいるヤツの頭がこうなるんだ! 竜洞辰哉生徒! 今お前が持っている小銃は安全か?」


 当然だ、安全だ。さっき指導された通り、安全装置はかけてあるし、薬室に弾を装填していない。指だって用心金に入れていないし銃口を誰かに向けているということだってないはずだ。

 俺は自信を持って答える。


「安全です!」


 朝霧中尉がニヤリと笑う。


「では聞くがキサマの小銃の銃口はどこを向いている? 見ないで答えろ」

「え? あ……それは……」

「答えられないか? バカヤロウ! それは安全とは言わない! 竜洞辰哉生徒、捧げ筒! 他の者は銃置け! 腕立ての姿勢をとれ」


 くそ、またこれか。

 俺のヘマのせいでみんなが腕立て伏せをさせられる。

 基本教練の早朝補習で、バディを付き合ってくれたみんなにさんざん迷惑をかけて懲りたはずなのに俺はまた繰り返してしまった。

 小桃や楓、太刀浦や美洲丸ならともかく、梓や響、陽たちに年下のガキどもにまで迷惑をかけるなんて、俺は一体何をしてるんだ!

 悔しさの余り、俺の目には辺りの景色が滲んで見えていた。


 ※※※※※


「信濃生徒! キサマの小銃の銃口はどこを向いている」

「はい! 自分の左足つま先の二十センチ前方です」


 野分軍曹が細長い棒を小桃のライフルの銃口に突っ込む。

 その棒の先が小桃の左足先二十センチ位を指す。


「二十一センチ!」


 野分軍曹の太いアルトが定規の数値を読み上げた。


「いいだろう合格だ。次、太刀浦生徒!」


 そうして、三十分後、全員が自分の銃の銃口がどこを向いているかを見ないでも言えるようになっていた。

 その課程で、全員が最低二回は捧げ筒をしてみんなに腕立て伏せをさせていた。

 俺たちが銃口の向きを見ないで言えるようになるまでの間、ずっと、モンロー伍長の亡骸がそこに有り、否が応でも万が一の事故が起こったときを想像させたのだった。


「ようし、なんとか、様になったな。いいか、今覚えたことは、生きている限り忘れるな! では、これより弾薬を支給する。支給する弾数は二百十発。受領したら直ちに弾数を確認して弾倉に全装填、三十発入り弾倉を七個作る。これは、一般的な陸軍歩兵が携行する弾数だ。そして、我が軍の陸軍歩兵、海軍陸戦兵が一年間に十数回行う実弾射撃訓練で使用する弾数の実に三分の一である。この弾数を一日で撃てるなんて贅沢極まりないことである。したがって、キサマらには、今日、二百十発を撃ち尽くすまでに一級射手になってもらう」

「銃を置け! 回れ右ッ!」


 野分軍曹の号令でライフルの脚を立てて、地面に置く。後ろを向くと、入ってきたときにはなかった長机がそれぞれの後に並んでいた。

 その上にはティッシュの箱を二つ並べたくらいの大きさの木箱が置いてある。

 たぶんその中に、弾と弾倉ってのが入っているんだろうな。


「弾薬受領ッ! 全員前えぇッ!」


 一歩前に進むたびに箱の中のキラキラとした弾がよく見えるようになってくる。

 先っぽ1センチちょっとくらいまでが新品の十円玉みたいな色で、そっから下が金色だ。まさか純金ってことはないよな……。あ、新品の五円玉の色だ。


「弾薬二百十発、弾倉七つ! 確認ッ! 手にとって、声出して数えろ!」


 野分軍曹の指示通り、弾数を声に出して数える。それを前にいる俺の担任助教が監視するようにじっと睨んでいる。


「弾薬二百十発! 弾倉7つ! 異常なし!」


 数え終わり正面を向いて報告する。


「竜洞生徒、弾数確認ヨシ! 回れ右! 前へ! 弾込め始め!」


 元いた場所に戻り、木箱を置いて弾倉を取り、パチンパチンと一発一発弾を押し込んでいく。

 弾数を確認したときに、弾倉への弾の込め方は担任助教がお手本に三発込めて見せてくれていた。

 数発弾を込めたところで俺はハッと気がつく。


(モンロー伍長がいない!)


 摩訶不思議なことに、飛び散ったはずの脳味噌や、血が一滴も残っていなかった。

 つくづくこの人たちは特殊部隊なのだと感心してしまう。

 数分前にそこで何が行われたのかもわからなくなってしまうほど鮮やかに、後始末をしてしまうなんて、な。


 ※※※※※


(くッ! おもてぇ)


 十発目くらいまではパチパチとお気楽に詰めることができた弾倉への弾込めだったが、十三発目くらいから徐々に押し込み辛くなってきた。

 二十発を過ぎると、もう、そこからは気合で押し込むような感じになってくる。そうして、ようやく三十発を詰め終わるころにはびっしょりと汗をかいていた。


(おいおい、これをあと六回もやるのかよ……。やれやれだな)

「弾込めが終わったら、マガジンのケツを叩いて薬きょうのケツが壁面にくっつくようにしておけ! ジャムるからな!」


 俺たちの背後でうろつきながら弾込めを見ていた野分助教が、大声を響かせながら、ヘルメット越しに俺の頭を叩く。

 マガジン? ジャム? ここにきて新しい単語が出てきたぞ。マガジンと言ったら漫画雑誌のイメージしかないんだが……。

 新しい言葉に手が止まる。

 すると、俺の左隣で弾を込めていた太刀浦の方から「ちッ、ちッ」と、いう舌打ちのような音が聞こえてくる。

 そちらを見ると太刀浦が弾を込め終った弾倉を右手に持った太刀浦がチラリと俺を見て口角を上げ、弾倉の後面を左手の平にパンパンと打ちつけた。

 なるほどそうか! マガジンってのは弾倉のことだったのか!

 一瞬だけ太刀浦に向かって拝むように左手をかざし、謝意を伝える。

 太刀浦はマガジンを軽く振って、応えた。


(おおッ、なんかこれ、戦争映画のワンシーンみたいじゃね?)



 そうして、俺はダラダラと汗を流しながら、三十発装填の弾倉を作っては木箱に並べていく。


「美洲丸生徒、弾込めオワリッ!」

「太刀浦生徒、弾込めオワリッ!」

「大和生徒、弾込めオワリッ!」

「紅黄生徒、弾込めオワリッ!」

「野間生徒、弾込めオワリッ!」

「須崎生徒、弾込めオワリッ!」

「塩屋生徒、弾込めオワリッ!」

「信濃生徒、弾込めオワリッ!」

「子ノ日生徒、弾込めオワリッ!」

「鈴縫生徒、弾込めオワリッ!」

       ・

       ・

       ・

       ・


 あちこちから弾込めの終了を宣言する声が聞こえる。

 太刀浦や美洲丸、そして、陽はまだしも、男で年長の俺よりも、女子の小桃や楓、そして、響や子ノ日さんといった女子や、年少者が俺よりも早く弾込めが終わっていくとはなんとも情けない。


「竜洞辰哉生徒、弾込めオワリッ!」


 やっとこさっとこ三十発詰めて、薬きょうの底を弾倉の後壁面にくっつけるようにした弾倉を七個作り終わり、終了を宣言する。

 俺の担任助教が弾倉を睨みつけ、弾の込められ具合を確認する。


「竜洞辰哉生徒! 弾込めヨシッ!」


 担任助教から弾込めの合格を出される。


「ふう……」


 俺は思わず溜息をついてしまう。

 そんな俺の頭をガツンと言う衝撃が襲う。

 またもや俺の後ろを通りかかった野分軍曹殿が小突いたのかと思いきや、


「バカモン! 気を抜くな! 本番はこれからだ!」


 と、いう朝霧中尉の声が降って来た。

 幸運にも“反省”は申し付けられなかった。


「これより、基本射撃を実施する。まずは二十五メートルで十発ずつ伏せ撃ち、膝撃ち、立ち撃ちを実施、しかる後、距離を三百メートルにして伏せ撃ち二弾倉、五十メートルで二弾倉、再び二十五メートルで四弾倉を撃ってもらう!」


 ドキンと心臓が脈打つ。


「伏せ撃ちの姿勢をとれ!」


 いよいよ銃を撃つのだという実感がひたひたと地面から這い上がってきて、俺は思わず身震いをした。

毎度ご愛読誠にありがとうございます。

並びにブクマご評価感謝であります。

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