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県立防衛幼年学校  作者: 茅野平兵朗
第1章 並行世界転生
22/108

22 安全確認及び開封作業

「坊ちゃま、失礼いたします」


 車椅子に乗せられた梓が……、いや、ロボ梓が、鳳翔さんと暁さん、そしてロボ梓の洗浄消毒安全点検に志願した三人のメイドさんたちと一緒に部屋に入ってきた。

 俺が運び込んだときと違い、テカテカした生地のパジャマを着ている。生まれてこの方、触ったことすらないが、あれ、絹ってやつだよなきっと。


「現在、我が方ででき得る安全確認は全て実施いたしました。全身の洗浄消毒、口腔内及び採取器周辺部の消毒は完璧です」


 ピシリと後ろ手に組んで脚を肩幅に開いた姿勢で鳳翔さんがロボ梓に施したことを報告してきた。

 ロボ梓は車椅子に座ったまま微動だにしない。だけど、その頬はうっすらと紅が差し、本当に血が通った人間みたいだ。今にもパッチリと目を開け、微笑み、動き出しそうだ。


「現状、お嬢様に、お坊ちゃまに対する外科的及び内科的脅威は存在しないと判断いたしました」


 どこからか電池を入れてスイッチ入れるんだろうな。俺がガキの頃に読んだ古典的ロボット漫画じゃ胸のパネルがバカッと開いてエネルギー補給してたっけ。


「後は採取器内部の洗浄及び消毒ですが、お嬢様はまだ未開封の状態ですので、実施しておりません」


 鳳翔さんに続いてメイドさんたちが口々に報告をしてくれる。ロボなのにお嬢様なんて言ってくれている。なんかうれしいなあ、そういう心遣い。ああ、『竜洞生徒』への羨望がどんどん積み重なっていくな。


「で、ございますので、坊ちゃまに、お嬢様の開封をお願いしたいのでございます。お嬢様の開封をしていただきましたら、この場にて採取器内部の洗浄及び消毒を実施いたします」


 なるほど、開封ね。それにしても、未開封なんていつ確認したんだ? それに開封済み未開封なんてどこで判断するんだ?


「どうすれば、いいんですか?」


 何気なく尋ねた俺に、その場にいる俺以外が頬を染める。

 俺の脳裏に、小一時間ほど前の玄関先での鳳翔さんの行為がよみがえる。

 かあっと耳の端から血液が沸騰し始め、瞬時に顔面の血管を流れる血流が沸いた。


「り、両足の付け根に、再生使用不能な透明シールが貼られております。これを剥がす際に、自動的にユーザーの指紋登録が行われるシステムになっているのです」


 耳まで赤くなった鳳翔さんが説明してくれる。


「い、いや、しかし……」

「私達は退出して、待機しておりますので、開封を済まされましたらお呼びくださいませ」


 いや、さすがにロボとはいえ、妹の股間に手を触れるわけにはいかないでしょ。てか、そういう目的のアンドロイドを所有していることを、家中の人が知ってるってありえないし。


 あからさまにうろたえる俺に鳳翔さんが助け舟を出してくれた。


「では、坊ちゃま……」


 鳳翔さんがスッと手を上げる。

 すると、ロボ梓が大きな白い布で覆われた。

 よくよく見ると、ちょうどロボ梓の股間にあたる部分に、手を入れられるくらいの切れ目が入っている。


「お手を……」

「はい、よろしくおねがいします」


 跪き差し出された鳳翔さんの手に、俺は右手を預け、顔を背け更に目を閉じた。

 いくら目隠しで覆われているとはいえ、数ミリの隙間から中が覗けてしまうラッキースケベな状況が発生しないとは限らない。

 だから俺は目を閉じ顔を背けた。


「では、僭越ながら私が坊ちゃまに指示をいたしますので、そのようにお手を動かしてくださいまし」

「は、はい、わかりました。お願いします」


 鳳翔さんは、下から俺の手首を支えるように持って、指紋登録システム(つまりはロボ梓の股間だ)へと導いていく。

 こういう雰囲気って、初めての夜伽を教導する奥女中と若殿みたいで、体の一部分が微妙にムズムズする。

 以前読んだ萌え系の青少年用小説に、そういうギリギリな描写があったのを思い出す。

 あれは、かなりきわどい描写だったな。作者は別名義で官能小説を著していたと噂されていたしな。ああ、そういえば元エロ漫画家だったって噂もまことしやかに流れていたって聞いたな。もちろん元の世界のエロ師範太刀浦圭輔からだ。

 まあ、それは今はどうでもいいことだなんだが。


 ぷにゅ!


「おわっ」

「坊ちゃま、お心静かに。暁! お嬢様のおみ脚を」


 小指に柔らかな感触。太腿に触れたようだ。


「失礼いたしましたお坊ちゃま。若葉、潮、お嬢様のおみ脚をもっと……」

「かしこまりました」

「お嬢様、失礼いたします」


 暁さんの指示に、応えるメイドさんの声。


「ふぐッ……っくは!」


 メイドさんたちが二人がかりでロボ梓の股をひろげている絵面を想像してしまい、鼻の奥がじんわりと熱くなってくる。


(くそッ、完全にのぼせ上がってるぞ。いつ鼻血噴いてもおかしくねえ)


 鼻の奥がジクジクと脈打ち始める。いよいよ俺のキーゼルバッハ部位がしんどくなってきた。


「坊ちゃま、後数センチ前に。はい、そのまま真っすぐ……はい、只今、開封シールの直上でございます。数ミリ人差し指を曲げていただければ、お嬢様のそこに到達いたします」


 直接的にロボ梓のどの部分なのかを言及せずに、ぼかした言い方をするのがよけいに生々しく感じる。


(くっそ、堪えろ俺のキーゼルバッハさんッ! ………………ッあ!)


 数瞬の後、ぷにっとした触感が人差し指の先に伝わる。風呂上りのせいか人肌のぬくもりのように温かい。

 こ、ここは、俺みたいなサクランボを背負ったガキが触れるにはあまりにも恐れ多い、しかも、アンドロイドとはいえ、妹の…………。

 鼻の奥がいよいよ本格的にヤヴァいッ!

 と、その時、俺の指先にセロテープに似た感触と、その奥の人肌の柔らかさが伝わってきた。つまり、セロテープを貼った皮膚に触れたような感触が伝わってきたのだった。


「そこから10ミリ上方にシールの端末がございます。それをつまんで引き下げれば指紋登録が完了してお嬢様が開封されます」

「は、はい、わかりました」

 

 目を閉じたまま。指示された場所をつまむ。

 パチッ! っと、冬場に金属に触れた時のような軽い痛みが指先に走る。


「ッつっ、うくッ、じ、じゃあ、いきます」


 シールの端末をつまんだ指先にチカラを込め、手首を折り曲げてゆく。

 静まり返った部屋に、ピリピリという肌に張り付いたガムテープを剥がすときのような音が響く。

 想像していたよりも長い時間を、シールの端末をつまんで引き下げる時間に費やしたような気がするが、それは唐突に訪れた。

 ピッという、軽い衝撃を最後に、指に感じていたテープを剥がすときのような抵抗がふつりと途切れたのだった。


「坊ちゃまおめでとうございます! お嬢様の開封ならびに、ユーザー登録第一段階完了でございます」


 鳳翔さんが俺の手首を開放して、シールを俺の指先から抜き取る。


「「「「「おめでとうございます!」」」」」


 ありがたいけれど、ものすごく恥ずかしい。まるで、初めてエロ本を買えたことを親戚中から祝福されてるような気分だ。

 そんな親戚なんかいなかったけどな。


「お坊ちゃま、少々お待ちを。ただ今、採取装置内部の安全確認をいたします。サニタイズ。二分。かかりなさい!」

「「「はい!」」」

「「「お嬢様失礼いたします」」」


 覆いかけられた白布の中で、メイドさんたちがなにやら作業をはじめた。

 きっと採取器内部とやらの消毒と、異物混入の有無を確認しているのだろう。

 梓の股間にメイドさんが跪いて………………。


「坊ちゃま!」


 鳳翔さんの悲鳴にも似た呼びかけに我に帰る。口元を伝う生温かい流れを感じる。


「え?」


 俺ってば、なんて情けない……。妹のあられもない姿を妄想して鼻血なんて。


「ずびばでん」


 鳳翔さんと暁さんの生暖かい視線が、ザクザクと突き刺ささる。

 この情けなさは、生涯ベスト三に入賞だな。


「「「全部よし!」」」

「一分五十三秒。よろしい。お坊ちゃまお待たせしました」


 銅像の除幕式のように、安全確認作業が終わったロボ梓から白布の覆いが除かれた。

 相変わらず眠っているように、目を閉じているロボ梓の頬がさっきよりも微妙に色づいて見えるのは錯覚だろうか。


「では、お坊ちゃま、これより先はPCも使ってのセットアップとなるはずです。暗証の入力やらプライベートな作業となるでしょうから、私達はこれで失礼いたします。なにか、御用がありましたら、向かい側の待機室に坊ちゃま専属のメイド3名が待機しております。これでお呼びくださいませ」


 鳳翔さんが、ベッドの脇の小さなテーブルから、ベルを持って来て、机に置いた。教会の鐘のミニチュアに取っ手が付いたような形のやつだ。


「ああ、それから、お嬢様のスイッチは左耳の耳珠にございます。では」


 鳳翔さんと、メイドさんたちが出て行って、扉が閉じる。この部屋に存在するのは、俺とロボ梓だけになった。


「もうすぐ……」


 梓が起きる。梓が笑う。梓と話ができる。

 俺の心臓はいつの間にか早鐘を乱打していた。

ご愛読ならびに、ブクマ、ご評価誠にありがとうございます!

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