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04 元婚約者とその愛人

 アクアオーラとローズオーラが別荘へ向かうと、その門の前にはアリスが立っていた。そして、門番をしている兵を脅している。



「アクアオーラ様を出しなさいと言っているの。私の言うこと聞かないわけ?」


「出来ません」


「私は次期王妃なのよ!」


「私は公爵家の兵ですので、公爵家の方以外の命令を聞くことは出来ません。それに、アクアオーラ様はここにはいらっしゃいません」



 アリスの顔など知らない御者は、そのまま正門へと向かう。

 馬車に気がついたアリスが、馬車に駆け寄ってきた。



「この馬車はアクアオーラ様の家のものであってる?」


「危ないですよ、お嬢さん」



 御者は、駆け寄ってきたアリスを貴族とは思わず、世間知らずの商人の娘あたりだと思っていた。

 実際、アンスラックス家の家紋が大きく刻まれている馬車にアンスラックス家の馬車かと聞くのは馬鹿のすることだ。



「平民の癖に私にそんな口きいていいと思ってるの!?ふざけないでよ!シャーマ様に言いつけてやるんだから!」



 平民の癖にと言っているが、喋り方に品がなくまるで貴族とは思えない。纏っている空気や仕草も貴族のものとは全く思えない。貴族教育はされたはずだが、何一つとして身についていないのだろう。

 外から聞こえてきた声に、アクアオーラが窓から顔を覗かせた。



「あら、アリス様。わたくしの家の使用人に何をする気ですの?」


「アクアオーラ様!私に謝ってください!」


「…わたくしに何を謝れと言うのですか?」



 アクアオーラは、心底不思議そうにそう返した。

 アクアオーラに、謝るべきことはない。強いて言うなら取り囲んで注意をしたことだろうか。しかし、それはアリスが逃げるからであり、仕方がなかったのだ。



「私をいじめたこと以外に何があるんですか!」


「わたくしはあなたをいじめていませんわ。つまり、あなたに謝る必要はありませんわね。門兵さん、開けてください」



 アクアオーラの言葉に従い、門が開かれる。

 アリスが追いすがろうとするが、流石に馬車にそれは出来ない。

 馬車を追いかけて門の内側に入ろうとするが、門番が止める。



「アリス様、それ以上入って来られたら不法侵入者として軍に突き出しますわね」



 流石のアリスも、その言葉に足を止める。その隙に門番が門を閉め、アリスを閉めだした。



「開けなさいよ!」


「お引き取りください」



 アリスの言葉に門番は事務的に返す。

 兜で隠された表情は、話のわからないアリスに対しての苛立ちが隠しきれずにいた。



「私の言うことが聞けないって言うの!?ふざけないでよ!!」



 ギャアギャアと喚くアリスを、門番はいないものとして扱い、一切返答をしなくなった。

 しばらくの間ずっと喚いていたが、アクアオーラたちが乗っていたのと同じ紋章のついた馬車が来たことによって一旦は口が閉ざされた。



「おや、エレスチャル男爵令嬢。ここで何をしているのかな?」


「ろ、ロード様!」


「私は君に名前を呼ぶことを許可した覚えはないよ。口を閉じてくれるかな」



 そう言ってロードライトは、家族以外に誰にも許可していない愛称を呼んだアリスを冷たい目で見やる。

 貴族界では基本、家族もしくは許可をもらった相手以外を愛称や名前で呼ぶことは許されない。例外は令嬢同士の会話だ。



「そんな、ロード様は呼んでも良いと言ってくれました!」


「私は口を閉じろと言ったんだよ」



 その言葉を言ったとき、その迫力にアリスは口を閉じるしかなかった。黙ったアリスを、ようやくかとでも言う風に見た後、ロードライトは別荘に入って行った。馬車から降りるときにはもう、アリスのことなど頭になかった。

 そんなどうでもいい小娘のことよりも、最愛の妻と娘の方が重要に決まっている。



「アクアオーラはどこかな」


「お嬢様も奥様もお嬢様の寝室にいらっしゃいます」



 出迎えの執事に居場所を聞いて、早速そこへ向かった。ノックをして声をかけると、侍女ではなくアクアオーラが扉を開けた。



「お父様!」


「アクアオーラ、君は随分と面倒なものを相手にしていたんだね」


「ええ、話が伝わらなくて苦労しましたわ。さあ入ってください、お父様」



 アクアオーラはロードライトを部屋に招き入れ、ローズオーラの向かいに座らせた。



「あらロード、随分疲れているみたいね」


「聞いてよローズ。あの王子話が通じないんだ。本当に王子なの?きっと勉強なんてしてないよね、アレ」


「ええ、していませんわ。特に語学の勉強が嫌いで、王に代わりに違うものを学ぶからと直談判しに行ったほどですのよ」



 うっすらと笑みを浮かべながら、放たれたアクアオーラの言葉に、その場の空気が凍った。



「アクアオーラ、それは本当かい?」


「ええ。わたくし、王子が真面目に勉強しているところを見たことがありませんわ。学院の授業も真面目に聞いているようで聞いていませんでしたのよ」



 いち早く復活したロードライトは、聞いたことを後悔して、どんよりとした空気をまとって頭を抱えている。



「昔は真面目だと思ったんだけどね。思い違いだったかな」


「いいえ、お父様。王子も昔は子供にしては聡明な方でしたわ。しかし、今はもう見る影もありませんわね」


「子供の頃は優秀だったのに、どうしてこうなったのかしらね」



 同じような格好で考え込む妻と娘をみて、ロードライトは笑みを浮かべた。

 くすっと笑うと少しだけむすっとした様子でロードライトを見るところまで似ていて、さらに笑みがこぼれている。

 二人の視線がどんどん冷たくなっていくので、慌てて話題を戻した。



「もしかしたら、王子には伸び代がなかったんじゃないかな」


「…なるほど、一理あるわね」


「だろう?」



 幼い頃は優秀であっても、大人になるにつれて埋もれていったり、人より劣ったりすることはあるが、王族にそれは許されない。どちらかと言うと、幼い頃は平凡だったり人より劣っていたが、大人になるにつれてどんどん優秀になっていく方が良い。

 一番良いのは、幼い頃から優秀で成長しても変わらないことなのであるが。



「それにしても、まさか王子が公爵家当主に脅しを含んだ命令をしてくる程だったとは思わなかったよ」


「どう言うことですか、お父様」


「ロード、詳しく教えてちょうだい」



 同じような表情をしながら詰め寄る二人に、ロードライトはシャーマナイトとのやりとりを話した。ついでに、先ほどのアリスとのことも。



「まあ、この程度気にしなくても良いけれど、それよりもアクアオーラに害をなさそうとしたことが問題だよね。というわけでアクアオーラ、私もそれに混ぜてくれ」


「あら、それなら私も仲間に入れてもらおうかしら」



 本当は自分たちの力だけでするつもりだったアクアオーラだが、両親に頼まれては何かを任せてしまうほかなかった。普段は放任主義であるこの二人だが、アクアオーラを貶められたりすると相手に仕返しをすると言い出して聞かなくなることがあった。

 過去の経験からそれを理解しているアクアオーラは、直接復讐対象には関係なく、しかし今回の作戦において邪魔になり得るものを排除してもらうことにした。



「お父様とお母様には、煩い外野を黙らせて欲しいですわ」


「わかったよ」


「任せてちょうだい」



 どんなことでも、アクアオーラに頼られるのが嬉しい二人は、それを快諾した。そのことを話すと『犯罪でも手伝うのか』と言われるが、二人はアクアオーラが犯罪をするわけが無いし、そんなことをしなくても目標を達成することができると思っている。

 そして、実際それは正しい。

 アクアオーラは、自分から進んで人生の汚点を作る気は無い。だから、法に触れない範囲の仕返しを、正々堂々と自分たちの力でするつもりでいる。



(お礼はしっかり、自分たちで言わなくてはいけませんもの)

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