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03 アンスラックス公爵家

 数日後、アンスラックス公爵の元に王家から手紙を持った使者が送られた。曰く、側近たち抜きに王と王妃、アンスラックス夫妻とアクアオーラの五人で話をするから明日の午後1時に王宮に来るように、とのことだった。その手紙をロードライトから渡されたアクアオーラは、自分と同じ色をしている父の瞳を見つめた。



「お父様、どういたしますの?」


「公爵家としては従うべきなんだろうね。でも、アクアオーラが行きたくないなら行かなくても良いよ。もし何か言われてもお父様とお母様が黙らせよう。そもそも内密な話だから厳密に言えば王命ではないし」



 公に王に呼ばれてしまえば、それは王命として機能する。王の言葉を聞いた人間が必ずいるからだ。王命というのは、王と命令された者以外の人間が王の言葉を知っておかなければならない。でないと、命令されても知らぬ存ぜぬの一点張りで押し通せてしまうからだ。

 それでも処罰することはできるが、公にせず呼ばれるということは王にも何かしらの事情があり、人に知られたくないのだ。それを隠して理由もなく処罰すれば瞬く間に暴君という不名誉な称号を手に入れることになる。



「何か有益な情報を得ることが出来そうですもの。なによりお父様、アンスラックス家の家訓の一つは『報復は容赦なく徹底的に』ですわ。そう定めたのはお父様とお母様ではありませんか」


「そうだね」



 アンスラックス家は、ディヤメント王国において最も新しい家である反面、最も古い家の一つでもある。

 ディヤメント王国は、他国から宝石王国という名で呼ばれることがある。その理由は、宝石が国の柱であるからだ。

 ディヤメント王国の神話に出てくる神々は宝石の化身とされ、国ができた際に王家と公爵家にその宝石の名が与えられたとされている。

 王家は万能の神ダイヤモンド、王家を支える三つの公爵家は、知識の神ルビー、商売の神サファイア、武道の神エメラルド。これらの四大神からディヤメント、アンスラックス、サピロス、スマラグダスという名前を授かった。

 その話の真偽はともかく、ディヤメント王国はずっと昔からディヤメント王家が治め、それをアンスラックス家は国政、サピロス家は外交、スマラグダス家は国防と、それぞれの得意分野で支えてきたことは事実だ。

 しかし二百年ほど前、アンスラックス家はなくなった。何故か当時のアンスラックス家に関する記述は多くなく、なくなったとしか形容できない。取り潰されたのか、血が途絶えたのか、それとも他に何か原因があったのか。その辺はわからないが、アンスラックス家は一度無くなった。

 それなのに何故アンスラックス家があるのかと言うと、最近王家の分家としてアンスラックス公爵家が出来たからだ。



「ですのでわたくし、当事者以外の家族も巻き込むつもりですのよ。その為にはまず、情報が必要ですわ」


「我が娘ながら末恐ろしいよ。殿下も馬鹿な真似をする」


「あらお父様、そんなの今更ですわよ。殿下はいつもわたくしに勝負を挑んでその全てに負けてきたというのに、小娘一人を味方につけたくらいでわたくしに勝てるつもりでいるのですから」


「そうだったね」



 娘の言葉に、ロードライトはそう言えば陛下からもう少し落ち着きを持たせろって言われたなあ、と昔のことを思い出していた。



「さて、アクアオーラ」


「はい、なんでしょうか」


「使えるものは全て使って良いし、他の貴族たちの対応は気にしなくて良い。全力でやりなさい」


「ええ。助かりますわ、お父様」



 二人が浮かべる妖しい笑みは、背筋が凍るほど怖い。なまじ顔の作りがいいだけ、物恐ろしさは増していく。



「ロード、アクアオーラ、ここに居たのね」


「おやローズ、どうかしたのかい?」


「殿下がアクアオーラを出せと言っているの」



 ローズオーラの言葉に、ロードライトとアクアオーラは固まった。まさか、シャーマナイトが来るとは思っていなかったのだ。いくら王子と言えど、婚約者でもない貴族の令嬢や婦人を男性が訪ねることはマナー違反だ。パーティー前なら許されていたが、もう許されない。また、婚約者でもない男を女性が招き入れることもご法度だ。



「僕が相手をするよ。アクアオーラ、ローズと裏口から別荘へ向かってくれ。続きはそこで話そう。ローズ、アクアオーラのことは頼んだよ」


「もちろんよ。ロードも気をつけて」


「ああ、君たちのためにも気をつけなくてはね」



 ロードライトはそう言って、ローズオーラとアクアオーラの額にキスを落とした。二人もロードライトにキスを返して、裏口からそっと抜け出した。

 それを見送ってから、ロードライトは正門に向かう。

 そこには、明らかにイラついているシャーマナイトがいた。

 後ろには、護衛が申し訳なさそうに立っていた。



「殿下、何事ですか?」


「アクアオーラを出せ」


「なぜアクアオーラを出さなければならないのでしょうか、殿下」



 シャーマナイトの言葉に、ロードライトは心底不思議そうに返した。実際、シャーマナイトにアクアオーラを会わせる必要は全くない。



「アクアオーラを出せと言っている」


「何をする気ですか、殿下」


「王宮に引っ張って行ってアリスに謝らせるに決まっているだろう」



 ロードライトは、シャーマナイトの頭はおかしくなったのかと本気で疑った。

 そもそも、貴族は自分より下の身分の人間に、滅多に頭を下げない。貴族の世界は縦社会だ。本人か王が罪を認めない限りは、黙るしかない。

 シャーマナイトは第一王子であるが、王ではないのでその権限はない。アクアオーラも、してもないことの罪を認めたりしないだろう。さらに、公爵令嬢であるから、圧力に屈することもない。



「申し訳ありませんが殿下、それは出来ません。アクアオーラは只今留守にしておりますので」


「嘘を吐くな。アクアオーラを早く出せ」


「なぜ私が嘘をつかねばならないのでしょうか」


「あいつがここに居ないはずがないからに決まっているだろう」



 シャーマナイトは心底馬鹿にしたような口ぶりと表情で言うが、ロードライトからすればそれは自分が浮かべたい表情である。



「いいえ、私の娘はここにはいません。私も仕事があるので、お引き取りを」


「なんだと、この俺に逆らうと言うのか?」


「言っておきますが殿下、殿下は王太子でもなんでもないただの『第一王子』ですよ。公爵家当主に命令する権限はありません。そのことを、ゆめゆめお忘れなきよう」



 ロードライトの力強い目に睨まれて、シャーマナイトはたじろいだ。アクアオーラにも受け継がれた鋭い目つきは、瞳に怒りの色がなくともそれなりの迫力がある。その目に怒りの色が乗れば、小心者は固まってしまうだろう。



「では王子、私も仕事があるので、お引き取り頂けますね?」


「アクアオーラを出すまで帰らないぞ!」


「お引き取りを、王子。私は暇ではないのです。門の前に居座っていても良いですが、王には報告しておきますので」



 ロードライトは、そう言って完全に固まってしまったシャーマナイトに形だけの礼をして門番に門を閉めさせた。

 ロードライトは、屋敷の中を通り裏門から用意していた馬車に乗ってアクアオーラたちの待つ別荘に向かった。



私たちの愛娘(アクアオーラ)に何をしようとしていたんだろうね。…うん、私も報復に参加することにしよう)

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