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無題(Untitled)

貴弘の奥が、何かが震え立たせた。


『もう一度、小説を書くチャンスが欲しい。』と。


私の代わりに働きに行く前の思い出。

共に話す余裕も時間の作る余裕もあった、そんなお袋と作った思い出の味。自分の大きく晴れた口腔内とクレープのクズのお弁当が、懐かしさとともに情けなさを引き立てる。そんな自分が書き収めておきたいと、体中が掻き巡り知恵熱を起こす。


パッと開かれたカーテンを揺らす風、そんな風を迎えるようにベランダに向かい、一呼吸を付いた優太。あいかわらず何もかもが鈴の音になる優太。そんな世界に入り込みたくて、私は気の向くままに、この自分の身体を活用した。

暗黙の境界線に土足で踏み入れたらしい・・。名前とか距離だとか、把握が出来ていなかったらしい。



「なぁ・・、

 優太って呼ぶなってっ、



 俺、そんなに”優れていない”し

 いろんな人に対して”心を開けてる”と思えない。」



返す言葉が見つからなかった。”優しい”という言葉や”厳しい”という言葉の意味が付かなくなった。それらはどれも度を越せば社会問題になってしまう、そんな問題が足元に絡みつく。足枷(あしかせ)のように簡単にどうにかなるようなものではなく、毒蛇が自分の命を守るようにとぐろを巻いて牙を光らせている。毒蛇を殺すか、自分を殺すか…それとも、共に歩くという道を選択するか。


「・・貴弘の言うように、この町では星は片手の数すら見つからない。

 でも、本当にそうか?


 なら、砂漠へ行って来いよ。

 違うか?


 なら、ニューヨークのマンハッタンでも行って来いよ。

 そうか?


 貴弘、お前は3つしか答えを出せないだろうな。」


優太の方から聴こえてくる、幼稚園児の声は、今の私にとってはやかましい。


「お前の小説を読んだ。

 お前は、孫悟空か?

 西遊記の序盤か?

 お経すらも、取りに行けないのか?


 いや、三蔵法師や釈迦にも迷惑なやつだな。


 釈迦の手のひらで、ずっと”キン斗雲”を使って現実逃避している、バカな”サル”だ。!」


とぐろを巻いている妄想の毒蛇を見て、星の王子様の金色の蛇が脳裏から蘇る。自分で勝手に思い描いた王子さまの声で『大切なことは目に見えないんだよ』と囁いている。


「キミは、貴弘は、お前は、

 全部、

 お前で始まり、お前でことを起こらせ、お前で世界を壊している。


 ”事件シリーズ”の内容や”梅雨”・”華”・・・


 俺に見せている”心”や”仕事”の話だって、全部お前の手で作っている!


 だがな、お前の考えなんて

 1㎜も、

 いや

 


 ”ナノレベル”



 ぐらいにしか過ぎないんだよ!!


 だからな、いまのこんな時代にそんな事をやりたいなら、

 この”日本(にっぽん)”にいる数少ない職人さんから、物を相当する値段で買って

 それで自分のことを”書け”。


 お前、ひとりでこの世界が成り立っているわけじゃないんだからな。


 それに、サーバーの量を無駄に使って次世代の子を潰すんじゃねぇよっ。



 そのための、ネットワーク共有じゃねぇんだよ!!」




 私に絡みついていた蛇は、容赦なく噛みついた。

 毒を一滴も残さずに自分の身を守ろうと、肉を裂き、骨の髄まで牙を食い込ませる。


 どちらかの決心がついたわけでもない、きっと。いずれその時が来るのだと、今までの行動に肉付けして胸に仕舞いなおす自分。靴を脱いで、ベランダへ踏み込む―――。

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