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”小説家になろう”

「落ち着いてくれて、良かったよ。

 貴弘が置いて忘れてった頓服薬が役に立ったってことだね。手に負えないと踏んで、水を薬を溶かして飲ましておいて良かった。・・ちょっと半信半疑ではあったけどね、まぁ俺の両腕が尽きる前に、お前が先に眠りについてくれて良かったよ。

 それとも何?やっぱり、死にたかった?

 じゃぁ、もう一度・・縄を渡すかい?

 でも今度は、ちゃんと自分で。」


私は震えた。

恐怖を感じたからではない。優太の眼は悪魔を制するに私に十字架を描いている。それに私は応戦するかのように気の向くままに、手の届いてしまった優太の歯ブラシで身を守る。笑い話ではない、いつもの二人でもない、そしてこれまでのない胸騒ぎを声になって表れて”ここぞ”とばかりに無茶苦茶な言葉が部屋に反響する。優太も生まれたばかりの赤ちゃんを取り上げるかのように、耳なじみのいい誰にでもわかる言葉で私に威圧してくる。優太、それは私にとって呪文にしか過ぎない・・。

私の手にする歯ブラシは立派な凶器だ。今まで付きかって生まれた関係も思い出も人生も、家族も大切なことも何もかもダメにする。そして今は一番失くはない優太すらも、僕は殺そうとしている。


”自己防衛”

それは時として、残酷だ・・・。






「・・・たかひろ、」「貴弘・・。」

耳元で声がする。

目を澄ます。

何も見えない。

私はやっぱり居てはイケない人間なのか。

身体が熱い。

この手のぬめりはなんだ、血なのか。この鉄臭い気持ちはなんなんだ。


「泣けよ、良いから泣けよ。

 俺の前だけは、泣けよ。もう、いいから。

 そんな死んだような目、俺にだけは見せる必要ないだろう・・?」


殴られたような顔でいる私を見つめ、優太は真剣に伝えてくる。なんのために”小説を書き始めた”のか”なにを伝えたい”のか伝わってほしい”のか・・、”背負う覚悟もないのに、つらつらと書くな”と。


そうであるならば、『和紙を買い、それで無駄話を書け』『シャープやパソコンを使うのではなく、自分の字で鉛筆も使え』『ネットでたやすく本として、出版するな』と。

そうやって『身近なものを使い、ちゃんと人に伝えろ』と。

ネットをそんな『吐け口のゴミのように使うな』と。


『買えぬなら、働け。』

『気に食わくて炎上動画を出すぐらいなら、自分で正当に戦え。』

『誰これと叩く暇があるのなら、弱い人たちの肩を優しく叩け。』


悔しいなら、また『奥野鷹弘に戻れ』と。ただし、「鷹弘としてでなく貴弘としてだ!」と。

優太はそう声を張り上げて、私が気になっていたお店の”ミルフィーユ”を冷蔵庫から取り出した。


貴弘の奥が、何かが震え立たせた。

『もう一度、小説を書くチャンスが欲しい。』と――――――。



冷蔵庫から出てくるミルフィーユはまるで、長年生きてきたこの地球を連想させた。自分はおろか、そんなデカいモノを思い起こされて懐かしい。

私の代わりに働きに行く前の、共に話す余裕も時間の余裕もあった、お袋が作った…。大きく晴れた口腔内とクレープのクズのお弁当が物語を綴る、

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