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子供会議  作者: Anishibe Hideto
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0.入学式までの朝

 朝の六時過ぎ。この時間帯ともなるとまだ肌寒さは残っていたが、それでも真冬真っ只中の頃に比べれば大分暖かくなってきた方だし、日の出が早くなっていくのも肌に感じる日光で実感していた。

 信じられないことに、この時間帯から既に制服を着た人、おそらくこの学校の生徒が校舎内にちらほら見かけた。今日が特別な日だからなのか、それともいつもこんな時間から学校にいるのか。まるで見当は付かないが、後者なら早起きの秘訣と朝早くから学校で何をしているのかを問いただしてみたいものだ。

 「……よし、やるか」

 校門の前で僕の隣に並んで立っている少年が覚悟を決めたかのように呟いた。そもそも僕がこんな時間から学校にいるのは紛れもなく彼が原因なのである。

 「ねえ、本当にやるの?」

 「当たり前だろ。俺達は今日からここでお世話になるんだからさ」

 昔からこういう彼の礼儀正しさというか、誠実さには尊敬に値するところがある。ただ少し、することがいつも大胆なのが頭の悩ませどころなのだが。それに彼自身も予想外だったのか、すでに校舎内で見かける生徒の姿に動揺しているようにも見えなくもない。

 「ほら、いいからやるぞ。セリフはリハーサル通りな。いくぞ」

 「ちょ、ちょっと待って!まだ心の準備が……」

 一回、二回と深呼吸をする。やると決めたんだ。僕も覚悟を決めろ。

 「……大丈夫」

 「よし、いくぞ」

 彼もまた一回深呼吸をする。そして小さな声で「せーの」と呟き、二人で思いっきり息を吸った。



 「「よろしくお願いします!!!」」



 「だーーー、恥ずかしーーー!大体何でこんな時間から学校に人がいるんだよ!?」

 「し、知らないよ。それに(ゆう)も緊張してたんだ。てっきりちっとも平気なのかと思ってた」

 「んな訳あるか!」

 僕は今、幼稚園の頃からの付き合いである幼馴染と、今日入学するばかりの学校の校庭を横切りながら全力疾走している。なんでも彼も羞恥心を隠し切れなかったらしく、早々に撤退しているのだとか。全く、入学式の朝から校門の前で大声で叫んだ入学生二人、なんて噂が流れたらどうしようか。『平穏な高校生活』が目の前から遠ざかっていく光景が目に浮かぶ……もっとも、彼と一緒に生活をして平穏な日々なんて滅多に送れたことなんて無いのだが。でもそんな波乱万丈な毎日に確実に心躍らされている自分がいるのもまた事実。高校生活でもそんな日常を怯えながら期待するとしようか。


***


 君のいない春が来る。

 思えば、君のいない春を過ごすのは二年振りで、つまりは俺が君に出会ったのはつい去年、一緒の時間を過ごしたのもたったの一年というわけだ。改めて考えてみると信じられないものだ。それほど時というものは非情に、そして残酷に過ぎ去ってしまうという事か……

 「なんてね」

 春休み中に新調した制服を身にまとい、リビングに足を運ぶ。仕事に出かけた親の姿はもう無く、机の上には朝食が用意されていた。食卓に座り、テレビの電源を付け、目の前に出されたパンを頬張る。テレビには朝のニュース番組が映されており、過去最近の世の中の出来事が放送されていた。

 傷害事件。

 交通事故。

 政治問題。

 スキャンダル。


 テレビの電源を消す。全く、朝から随分と不愉快にさせられるものだ。ニュースというものは本来世間一般常識を身に着ける上で必要不可欠なメディアの一つのはずなのだが、見ているうちにこの世界の穢れを見ているような気がしてきて気分が悪くなる。こんなもの知らない方がよっぽど吉というものだ。でも、大人になれば嫌でもこの世界の奥底に足を踏み入れなければいけなくなるのだろうか。そんなのごめんだ。何処かに逃げ道は無いのだろうか。そんなものはあるはずがない。時間はひたすらに進む。俺は確実に大人に近づいている。今日の入学式だってその証拠なのだ。人は決して大人になる事から逃げることはできない。

 「ったく、朝から何考えてんだ」

 やめよう。朝からこんな憂鬱気分はごめんだ。あと半日以上今日を過ごす自分に迷惑ってものだ。過去も未来も考えるのはやめよう。難しいことは考えず、見据えるのは今だけでいい。無邪気な子供の様に。

 家を出よう。初日から遅刻は洒落にならない。

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