表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と魔導  作者: ---
4/4

B面 後編

 バンと激しい音が鳴った。それは危険を呼びかける間もない束の間の出来事であった。クモの悲鳴を気にせず俺は急いでクモへ駆け寄り彼女を探した。胴体の上、胴体周り、脚の陰、全て確認したが彼女の姿は無かった。他に考えられる場所は探していると弱った声が聞こえた。胴体の下からだ。

 嫌な想像をしてしまう。クモの胴体と地面との間で、彼女がどんな姿で助けを呼んでいるのか。でも生きているならと俺はクモの腹をかきわけながら様子を確認した。すると彼女は思った以上に無事な状態でそこにいた。


「情けない恰好ですみません」


 マレットの柄で腹を押し上げて僅かな隙間を作っていたのだ。それで圧し潰されることは阻止したようだが、それでもダメージはあるようでふらふらとしている。


「勢いよく落下したのによく助かったよな」


「触らないでください」


 引っ張り上げようとすると彼女はそう言って拒絶した。そしてマレットを持って助けるように仕向けるので俺はマレットを引きずりながら彼女を救出した。


「爆発したときに脚から飛び散った液体がどうやら毒だったようで満足に動けないんです」


「え、それじゃあのクモはどうやって倒せば……」


「……応援が来るのを待ちましょう。それまで申し訳ありませんが被害が最小限になるよう時間を稼いでください」


「時間を稼ぐってあんた毒受けてるのにそんな時間ないだろ」


「私なら大丈夫です。魔導士として戦って死ぬことができるなら本望です」


「……ガキが偉そうなこと言ってんじゃねぇよ」


 彼女の言葉に無性に腹が立った。俺はその怒りのまま彼女のキューブを奪ってクモの体を登り始める。


「ちょっと待ってろ。あんなやつ速攻で倒してやるから」


「待ってください。さっき魔道具使えなかったじゃないですか」


「うるせぇな、何とかしてやるから大人しく待ってろ」


 ガキと言ったり大人しくと言ったり、自分で滅茶苦茶言っているなと笑えてくる。だが昔から駄目なんだ。ヒーローが負けたり死んだりする話は。だからどうしてもそうなるっていうなら俺が無理やりにでも勝たせてやる。


「まったく手こずらせやがって」


 クモの頭上までたどり着くと俺は下に突き刺すような構えでキューブをマレットへと変換させた。


「武器が重すぎて使えないならこうやって上から落としてやればいいんだよ」


 狙い通りマレットはその重さのままクモの頭を直撃した。しかし痛がってはいるが全然やられてはいない。さらに不味いことに頭をぶんぶん振り回された振動で俺は頭上から振り下ろされてしまった。


「あれ、一発頭を殴れば倒れるんじゃないのか」


 聞いていた話と違い、俺は落下しているショックも含めてパニックになっていた。そのとき信長が名前を呼んできた。


「明智、その武器を儂によこせ」


 何が何やら分からず俺は夢中でキューブを信長へ放り投げる。すると信長はキューブを口に加え、マレットに変換させてグルグルと回り始めた。そしてその勢いのまま信長はマレットをクモの頭上へ叩きつけた。

 ダメ押しと言わんばかりの攻撃。それを受けるとクモは糸の攻撃と同じようにスーッと透けていきやがて消えていった。




「全く、お前はいつも締まりが悪いな」


「うるせぇな。そもそも魔道具が使えるんなら先に言えよ」


「先に言うも何も儂も初めて扱う武器だ。まあ儂にかかればどんな武器も軽々という話だな」


 クモ討伐後、俺たちは少女がやってきたという「ゲート」を目指して帰路についていた。信長曰く彼女の受けた毒は一時的に体を麻痺させるもので命に別状はないらしい。そのおかげで俺は信長に散々バカにされて再び彼女の足代わりに抜擢された訳だが、その程度で事が済んだのだったらひとまずは良かったといえる。

 ちなみに応援部隊というものはとうとうやって来なかった。後で連絡を取ったところ、人手不足ではなく連絡ミスが原因だというのだから上がしっかりした場所に就職しないとと良い教訓になった。


「……明智さん。先ほどは軽率なことを言ってしまってすみませんでした」


「え、いいよいいよ。俺も怒って悪かったよ。えっと……」


 そういえば少女の名前を知らないことにここで気づいた。歯切れが悪くなってしまったので仕方なく信長に目配せを送る。


「……女子よ、こいつが貴様の名を聞きたがっているぞ」


「お前……助けるにも気の利かせ方ってもんがあるだろ」


「私の名前ですか。私の名前はハウプトケルン・ベルゲンブルクと申します」


「え、なんて言った」


「ベルクでいいですよ」


 こんな会話をしながらベルクを送っていこうと思っていたのだが、その道中でおかしなことに気づく。


「……なあベルク、お前の案内に従ってたら俺の家まで来ちゃったんだけど」


「そうなんですか。でもこの中にゲートがあるんです」


 冗談だろとも思いたいが鍵が開いている。俺は出かけるとき鍵のチェックを欠かさないし、魔導士のことを詳しく知った今では自ら開けっ放しにしてたと推察するよりも俺が出かけた直後にゲートが生成されたと考えた方が自然だ。それ以前に今日は慣れないことをし過ぎて疲れた。もう何も考えずに扉を開けたら、ベルクの言う通り異次元の入口のような感じのゲートらしき穴が存在した。


「あれがゲートです。あそこから魔導士たちは現場に派遣されるんですよ」


「あれってベルクが帰った後も残るのか」


「そうですね」


「人の家になんてもん設置してくれてんだ……まあいいや。毒が治ったら気をつけて帰れよ」


 俺はベルクを降ろして彼女が帰るまでの間コンビニにでも行って時間を潰していようとしたが、ベルクは何か言いたげな表情をしていた。


「まだ何かあるのか」


「……あの色々考えたんですけど、明智さん達も一緒にゲートへ帰りませんか」


「え、嫌だけど」


 あんまり物事をハッキリ言い過ぎるのは苦手だが、厄介なヤツがその気になる前にと俺はすぐに断った。

 ここで首を縦に振ったら十中八九また魔導体と関わらないといけなくなるだろう。強敵だったとはいえ、たった一匹でもこんなに苦労してるんだからベルクのように何匹も倒すなんてことになったら命がいくらあっても足りない。


「そこをなんとかお願いできませんか。我々にとって明智さんも信長さんも貴重な存在なんです」


「悪いけど、俺は今卒業研究のテーマを考えなきゃいけない大切な時期だから――」


「良いではないか明智」


 厄介なのがその気になってしまった。


「貴様の愛しの娘も何事も挑戦だと言っていただろう。それに儂もそろそろ貴様の根性を叩き直したいと思っていたところだ。ベルク、儂たちも喜んでついていくぞ」


「おい勝手に決めるな――」


「ありがとうございます。それでは早速向かいましょうか」


「ベルクお前毒はどうした」


「あ、とっくの昔に治りましたよ。それでは行きましょう」


「明智よ、人生とは挑戦してこそ輝くのだ」


 ――ここから俺は魔導士を目指すことになるのだが、それはまた先の話。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ