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リィンカーネ ~ 転生マッチングアプリ  作者: 等々力 至
第1部 転生マッチングアプリがもたらす世界
7/19

第7節 ヤミキ保安部長とロッシー保安部員

 十真(とうま)はテントを張ろうとしていたところ、いきなり人型乗用機(エクゾ)が現れたことに驚いていた。

 目の前には立っていたのは、身長2メートルを優に超える金属製の巨人だ。アニメやSFでしか見たことのないようなロボットを前に、彼は混乱していた。そのロボットが火器を携行していることも、十真の混乱を加速させていた。

(何これ?ロボット?それとも中に人間が入っているのか?まさか、こういうロボットが支配した世界だってことはないよな)


『私はトウキー市保安部ヤミキだ、貴下は何者か?』


 金属製の巨人から聞こえてきた音声はとても人間らしいものだった。これは中に人間が乗っているロボットだと十真は思った

 十真はとっさに自分の名前を言いかけたがやめた。


『…どこから来た?』

「ヘベルの凍土を抜けてきました」

『目的はなんだ?』

「届け物です」


 十真は自分の答えが答えとして正しくないことを自覚していた。しかし、これ以上のことは何も知らなかったので何も言えなかった。この身体の元の名前「エダルド」を使うのは思いとどまった。幸い、この身体を通してなら言葉は理解できる。なんとか話し合いで解決するしかないと考えた。


『ついてこい、壁の外は冷える』

 十真はエクゾに付いて行く。とにかく、トウキーの街に入れるのであれば、形はどうあれ、これで良しとするしかない。


『中に入れ』

 そう言われたのは、頑丈そうな扉の部屋だった。ヤミキはエクゾから降りることなく、荷物チェックも何かセンサーのようなものをかざしたきり、荷物チェックや身体検査のようなことはせず、中身を改めることもしなかった。

 十真はそれに従った。


 一方、ヤミキ保安部長はエクゾに乗ったまま夜勤者への引き継ぎ内容を急いで入力していた。

(名前はなんていったか、タザアだったかな?もう一度聞くのも面倒だし、もうタザアでよい。ヘベルの凍土を抜けてきたというなら、住んでいたのはガリサヤかガリディアだろう)

 ヤミキ保安部長は「保護」した人物の出身地を「ガリサヤ」と、職業を「行商人」と全くの推測で入力した。


 かくして、ヤミキ保安部長は、十真を拘置室に収容すると、最低限の事務処理を済ませ、拘置室の自動管理モードのスイッチを入れると、後を夜勤の者に任せることにした。ヤミキ保安部長はやってきた夜勤の者といつものように一言二言交わすと急いで帰っていった。

 さぞかし、この夜のウイスキーは美味いことだろう。


 部屋に入れられた十真は扉から出られないことをすぐに理解した。これは独房の類だろうと思ったが、壁の外をうろついている余所者への対応としては、かなりマシなほうだと考えた。室内で寝具に眠れるのであれば御の字だ。部屋の片隅には食器が置かれており、水差しと簡易食も置かれていた。今までのテント暮らしがカプセルホテルであれば、今夜はビジネスホテルに格上げされたのだと十真は考えることにした。部屋も寒くなく一晩寝るのには十分だ。


 十真は横になった。ひさしぶりのベッドは心地良かったが、気になることが二つあった。

 まず、未だに生身の人間に会えていないことだ。

 頭の中でエダルドと会話したのが一回、そして、さっき保安部のヤミキという男(たぶん男だ)に尋問?されたが、あまりにも雑だった。警官の職務質問だってもうちょっと詳しく話を聞く。これがこの世界の標準なのかもしれないが、彼はそろそろ生きた人間に会いたくなっていた。


 次にこの異世界のレベルである。

 さっきのロボットみたいな機械を見る限り、日本より科学水準が上だ。そうなると、転生先に異世界(このせかい)を選んだのは大失敗ということになる。

 自分の知っている転生では、転生先の時代はだいたい中世レベルで、現代日本の知識を使って、その世界で全知全能のような振る舞い、無双できるのがお約束のはずだ。しかし、さっきのロボットやこの部屋を見ると、こちらの時代の方が進んでおり、自分が遅れている、今後生活する上で困ったことになるかもしれない。


 十真はスマホを取り出して、久しぶりに電源を入れた。

 画面には何の変化もなかった。フッセの数値の7のままも変わっていない。この値が増えないとアプリが動かせないようだ。

 そして、フッセの増える条件が何なのかわからない。一方、電池は残り3分の1になっていた。そのうち電池が切れるかもしれない。画面の確認だけすると十真は電源を切って、ベッドサイドにスマホを置いた。



――トウキー保安部

 保安部員のロッシーは25歳のランブ族の男性だ。

 週二回のペースで保安部の夜勤を担当している。この季節は繁華街もそんなに荒れることもなく、外から人がやってくることもない。ロッシーは情報板(ディスプレイ)を見る。自動警官による巡回では特に異常のないことを示していた。


 今夜も暇に違いないとロッシーは考えた。それでも、この若者は保安部の仕事にやり甲斐を感じていた。

 人口、10,000人の街では事件らしい事件はそれほど起こらない。2年前に家庭内の問題で子供が父親を殺害する大事件があったが、それ以上の事件は起こっていない。ただ、ロッシーは外部からくる人間には注意が必要だと感じていた。トウキーは人口こそ少ないが豊かで良い街である。そこになんとか潜り込もうとしている輩がいるのは確かだ。

 そういう輩を防ぐのが、自分の一番の仕事だと彼は思っている。少なくとも、自分の担当日に侵入者案件は発生させまいと決意していた。


 しかし、ロッシーは情報板(ディスプレイ)に見慣れない表示があることに気づいた。そして、それが独房に収容されている人間がいることを意味していることに気づくと、ロッシーはあわてた。


 何があった?

 ロッシーは情報板(ディスプレイ)をなれない手で操作した。情報板の操作は久しぶりなので、随分時間がかかったが、独房に「タザアというビアサの行商人男性」を収容していることがわかった。

 収容レベルは[観察]となっている。収容者はヤミキ保安部長だった。


「何もしていねーな、あのクソ部長」

 ロッシーは悪態をついた。とにかく、取り調べをしなくては、ロッシーはこの街の外敵を排除すべく席を立った。

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