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リィンカーネ ~ 転生マッチングアプリ  作者: 等々力 至
第1部 転生マッチングアプリがもたらす世界
13/19

第13節 エピローグ/十真とエダルド

――初冬のある朝

 田室(たむろ) 十真(とおま)が目を覚ましたのは、自室のベッドの中だった。

 隣には見覚えの無い女が寝ている。

 顔はスッピンであったが、その割にはきれいな顔をしていた、そして、ちらりと見えるパジャマの襟柄が、自分が着ているパジャマと同じ柄だった。

(お揃いのパジャマを着ているとは…エダルドが言っていた女か?)

 そんなことを考えながら、彼は隣の女を起こさないよう気を遣いながら、ベッドを抜け出すと、スマホを手に取った。

 日時を見ると、あれから一ヶ月が過ぎていた。

 時刻は6時前、まだ外は暗い。

 パスコードを入力すると、見慣れたメニュー画面が表示された。前はメニューが全て消えていたが、ここではメニューが全て元に戻っている。それでも「リィンカーネ」を見つけるのに、あまり時間はかからなかった。

 開くかどうか不安を感じながら、彼はアイコンをタップした。


――――――――――――――――――

 転生マッチングアプリ

<<リィンカーネ Ver.β2>>


 以下の転生は「取消」されました。

 1.時代:おまかせ

 2.場所:異世界

 3.転生前の記憶:引き継ぐ

 4.強さ:人類最強

 5.好感度:100

 6.財力:100

 7.魔力:100


 ステータス:転生取消

 フッセ:0

――――――――――――――――――


 表示された画面を見て、確かにその通りに動作していると彼は思った。やはり、これはとんでもないアプリだ。


 だが、彼には大きな疑問があった。

 このアプリは、転生マッチングアプリと銘打っている。

 マッチングということはお互いの要求を突き合わせている筈だ。

 つまり、自分だけではなく、相手のエダルドも元に戻りたいと思ったから、アンドゥ機能が使えるようになったに違いない。

 あの時、自分は銃撃され命の危険を感じていた。

 だから、無意識のうちに戻りたいと思ったし、それしか生き延びる道はなかった。しかし、エダルドの側にも俺のように元に戻りたいと願うような危ない事態が勃発したのだろうか。


 となれば、俺にも同じくらいの危機、つまり命にかかわるほどの危機が迫っているかもしれない、ということだ。


 幸い、今日は日曜日だ。

 エダルドがどんな仕事をしていたかは知らないが、今日の出社は無い…はずだ。

 念の為、スマホで彼は最近1ケ月分の会社メールを斜め読みした。

 メールで見る限り、仕事上の大きな失敗は無い。それと今日は休日出勤する必要もないことがわかった。


 すると金銭(カネ)か?

 まず、財布を見る、紙幣や硬貨がそれぞれ数枚で、特に所持金が増えているとか減っているとかはない。今までも所持金はこんなものだった。


 では、莫大な借金でもあるのだろうか?

 銀行通帳の置き場所は変わっていなかった、開くと通帳記入は一週間前に行われていたが、特に残額が減ったわけでもなくむしろ増えていた。殆ど引き出しておらず、総額としてはむしろ増えていた。それほどの貯金額ではないにしろ、貯金が増えれば嬉しいものだ。

 仕事や金については、エダルドはうまくやっていたようだ。


 じゃあ、友人・恋人関係だろうか?

 彼は個人メールやメッセージアプリを見た。

 ちょうど入れ替わった一ヶ月前から複数の女性とのやり取りが始まっている。一番多いのは「マリ」だ、ずっと遡って読んでみると、どうやら、自分とエダルドが入れ替わったときに倒れていたのを助けたのは、この女性のようだ。

 最新のメッセージは「今から行くね」だった。だから、こうして来て泊まっているのだろう。


 自分に恋人が出来ないのは、女性ウケしない見た目が理由だと十真は思っていた。

 だが、中身がエダルドに変わっただけで既にお泊りまでする彼女ができている。わずか一ヶ月でこんなに変わるものなのか、と半ば暗然たる気持ちになっていた。

 誰かが十真に直接告げたわけではないが、自分の人格を否定された気になり落ち込んでいた。


 俺はモテない性格・魂なのかも知れないな、と彼は考えた。

 とにかく、俺では実現困難な手続きをすっ飛ばして、俺のベッドでマリはお揃いのパジャマを着て眠っている。取りあえず付き合いは続けてみよう、どうなるかは成り行き次第だ。


 すると、エダルドが戻りたいと思った理由が十真にはわからなくなった。

 カーペットの上に座って十真が思案していると、急に寒さを感じくしゃみをした。

 エアコンが切れている。

 いや、最初からつけていないのだ。エダルドの温度感覚ならありうる事だろう。

 彼は凍土を歩いたときのことを思い出した。

 リモコンを取り、「暖房」のボタンを押す。ほどなく、温風が吐き出され、部屋が暖かくなってきた。


 十真は考えた、もしかして、エダルドは一時的なホームシックにでも罹ったのだろうか。

 誰だって故郷を懐かしく思うときはある。

 たまたま、今がその時だったのだろう。

 そうだとしたら、エダルドには本当に済まない事をした。あんなふうに銃撃されたところで交代するなんて、人としてあまりに卑怯な行いだ。

 彼は心の底からエダルドに謝罪した。


 すると、インターフォンの呼び出し音が鳴った。

 こんな時間になんだと思いながら、ドアの覗き穴から見ると、見知らぬ女が「どうだ、来てやったぞ」と言わんばかりの表情で立っている。

 彼はどうしていいかわからないまま待っていると、女は酔っているのか、勢いよくドアを叩き出した。

「おらぁぁぁ、十真の愛するマリちゃんが急いで来てやったぞぉぉぉ」

 慌ててメッセージを確認すると「今から行くね」は、わずか一時間前に送られてきたものだった。


 そして、さっきの声で目を覚ましたのか、お揃いのパジャマの女がベッドの中で大きく身じろぎをした。

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