第12節 アンドゥ
鳩が鳴くように、乾いた銃声が二度鳴った。
一発目が左耳をかすったと思ったときに金属音もした。エダルドが左耳につけていたピアスに当たったのだ、エダルドがピアスを付けていたことに十真は改めて気づいた。
(ああ、ピアスは二度とできないな、すまない、エダルド)
左耳が飛び散ったことに彼は気付く。手を当てたりしなくても、それがわかってしまった。そして、そんなことに考えを及ぼす間もなく、二発目が胸に当たった。
何秒かの空白の後、気付くと彼は店の天井を見ていた、撃たれて仰向けで倒れたんだ。
緊急事態が起こったからか、天井のディスプレイパネルは赤い光を点滅させている。他の客や店員の声が聞こえる。銃を持っているぞ、保安部を呼べ、という叫び声が何度も聞こえるが、このような事態に対応すべき保安部員であるロッシーは銃撃されて倒れている。
そして、犯人は保安部長であるヤミキだ。
耳と胸が熱い、いくら呼吸をしても、酸素が取り込めない。
息が苦しいくせに、息をする度に熱さと寒さが交互にやってくる。背中が流れた血で濡れている。
[これが大量出血というやつか]
十真は銃撃されるのは(当たり前だが)初めての経験だった。
おかしい、おかしい。彼は自問自答を繰り返す。
十真は蜘蛛の糸にすがるカンダタのように、スマホを取り出した。
画面をタップして、アプリの画面を見る。
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転生マッチングアプリ
<<リィンカーネ Ver.β2>>
あなたが実行した転生は次のとおりです。
1.時代:おまかせ
2.場所:異世界
3.転生前の記憶:引き継ぐ
4.強さ:人類最強
5.好感度:100
6.財力:100
7.魔力:100
ステータス:転生完了
フッセ:7
[アンドゥ](7フッセ)
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十真は『4.強さ:人類最強』の表示を見直しながら、考えを巡らせる。
このアプリは人間を入れ替えて転生させるほどの力がある。神や仏、あるいは高度に進化した宇宙人でもなければ作れないアプリだ。
だから、そのアプリで人類最強の強さを設定できるのというなら、俺は人類最強の強さになったはずだ。人類最強という言葉の定義が曖昧なものであったとしても、そこらのおっさんの銃で撃たれて死ぬ程度の強さなのか?
凍土を歩いてきたのは、ここで撃たれて死ぬためなのか?
俺が何かこの地で罪を犯したとでもいうのか?
くそっ、くそっ
息が切れる、目が霞む。
悔しさや不満しか頭に思い浮かばない。
だが、ある文字が十真の目に留まった。
(アンドゥ…だと?)
彼は画面が少し変わっていることに気づいた。
(こんなの、前は無かったぞ)
「やったか?」
銃をかかえた男が十真を見下ろしている。
彼は失血して冷えた頭で考えた。
こいつがバカ部長か、なんで俺より先にロッシーを撃ったんだ?
本当に馬鹿だな、部下の様子を見るほうが先じゃないのか?
そんな批判が届くわけも無く、興奮に駆られたヤミキ保安部長は銃を構え直すと、引き鉄に指をかけた。
(もう、これしかない)
十真は[アンドゥ]をタップした。