第1節 プロローグ/神々の会話
――かつて地上の人間たちが高天原と呼んだ場所
そこで二柱の神が地上を見下ろしながら話をしていた。
一柱は男神、もう一柱は女神、その姿は人間が見たらそう呼んで区別したに違いない。男神はキタンイニ、女神はアキタマデモという名を持っていたが、人間には知られていない。
「最近、どうだ、アキタマデモ」
男神キタンイニが、「同僚」である女神アキタマデモに仕事の様子を尋ねていた。
「ああ、今、地上では転生が流行っているようで、転生祈念の数がとんでもない数に膨れ上がっている」
女神アキタマデモは心ここにあらずといった風に地上を眺めていた。
「ふーん、転生なんて人間なら誰でもするものなのにな、だが転生を司る神々としては良い時代になってきたわけだ。それなら信者は増えたのか?」
「いいや、全然…」
アキタマデモはポツリと言った。
「…まだだ。まだ地上の人間達には転生神を祭るという概念がまだ無い。神々の名は2、3千年前の書物で止まったままだ」
男神キタンイニは、アキタマデモがまだという言葉を繰りかえし使ったことに興味を持った。
「なあ、地上の人間はかれこれ二、三千年我ら神々を祭っている。それでも『まだ』なのか?」
「ええ、まだよ。最近、人間たちは情報化とか人工知能とか自惚れたことを言っているようだけど、本質は何にも変わってないし、自分たちの知識を更新する気持ちも全く持っていない。彼らが祭っているのは何百年も前からアマテラス様やスサノオ様のような上の方たちばかりで、現場で働いている私たちのことなんて名前すら知らない。そんな人間たちの祈願なんて、とてもかなえてやろうという気にはならないのよね。それでも、転生したいって人間の念が多すぎるから、転生神としては、なんとかしてあげようかなと思っているところ」
男神キタンイニは、女神アキタマデモの口振りからある事に気づいた。
「ということは、転生希望者への解決策を用意した、ということか?」
キタンイニが女神の真意を言い当てる。
「ええ、当たりよ」
「何をしたんだ?」
「人間の真似になるけど、アプリを作らせたの」
ようやくアキタマデモは笑みを浮かべた。
「アプリ?何だそれは?」
キタンイニは人間の言葉には疎かった。
「うーーん、解決するための道具というところかな」
「なるほど、その道具はいつから使うんだ?」
「今から試すところ」
「試すってどうするんだ?」
「ほら、そこ見てよ」
女神アキタマデモが、地上のある場所を指し示しながら言った。
「あそこに、自らの心得違いで寿命よりも早く死にかけている人間がいるでしょう?」
「ああ」
男神キタンイニにも憐れな人間の姿が窺われた。