第01節 プロローグ/神々の会話
――かつて地上の人間たちが高天原と呼んだ場所
二柱の神が地上を見下ろしながら話をしていた。
一柱は男神、もう一柱は女神、人間がその姿を見たらそう呼んで区別したに違いない。男神はキタン、女神はアキタモという名であるが、その名は殆どの人間が知らない。
「最近、どうだ、アキタモ」
男神キタンが、「職場の同僚」である女神アキタモに仕事の様子を尋ねた。
最近とは言っても、男神が女神に仕事の話をするのは人間の時間にすると20年ぶりになる。とはいっても、神々の感覚からすれば、せいぜい2、3日くらいだ。
女神アキタモは答えた。
「ああ、最近、地上では『転生』が流行っていてね。そのせいで転生祈念の数がかなりの数に膨れ上がっている」
それだけ言うと、女神アキタモは心ここにあらずといった風に地上を眺めている。
「ふーん、転生なんて人間なら遅かれ早かれ誰でもするのにな。だが転生を司る神々としては追い風にはなってきたわけだ。それなら少しは信者も増えたのか?」
「いいや、全然……」
アキタモはポツリと言った。
「……まだ。まだ地上の人間達に転生の神を祭るという概念はまだ無いみたいだ。神々の名はまだ古い書物で止まったままだよ」
男神キタンは、アキタモがまだという言葉を繰りかえし使ったことに興味を持った。
「なあ、地上の人間はかれこれ二、三千年我ら神々を祭っている。それでも『まだ』なのか?」
「ええ、まだよ」
女神アキタモの口調が強くなった。
「ここしばらくの人間たちは情報化とか人工知能とか自惚れたことを言っているけど、本質は何にも変わってない。自分たちの知識を更新する気持ちなんて全く持っちゃあいない。彼らが祭っているのは何百年も前からアマテラス様やスサノオ様のような上の方たちばかり。現場で働いている私たちのことなんて名前すら知ろうとしない。そんな人間の祈願なんて、とてもかなえてやろうという気にはなんないのよ。それに転生したいって人間の数も多すぎるし」
それを聞いて、キタンはある疑問を口にした。
「なんで、そんなに転生したい人間が多いんだ?」
「簡単よ。楽したいから」
「楽?」
「そう。転生すれば自分が一気にレベルアップできると思っているみたいでね。転生先の世界で桁違いのチート能力を手にして、そこで楽して暮らすんだってさ」
「おいおい、そりゃ、ずいぶんお気楽な話だな」
「そう正に人間って感じ、それでも、転生を司る神としては、なんとかしてあげようかなと思っているところ」
「それって……」
男神キタンは、女神アキタモの口振りで気づいた。
「……解決策を用意した、ということか?」
キタンが女神の真意を言い当てる。
「ええ、当たりよ」
「何をしたんだ?」
「人間の真似になるけど、何人か操ってアプリを作らせたの」
ようやくアキタモは笑みを浮かべた。
「アプリ?何だそれは?」
キタンは人間の言葉には疎かった。
「うーーん、解決するための道具というところかな」
「なるほど、その道具はいつから使うんだ?」
「今から試すところ」
「試すってどうするんだ?」
「ほら、そこ見てよ」
女神アキタモが、地上のある場所を指し示しながら言った。
「あそこに、自らの心得違いで寿命よりも早く死にかけている人間がいるでしょう?」
「ああ、あれか」
男神キタンの目も憐れな人間の姿をとらえた。




