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第三部【バタフライで泳ぐ蟹】


 ――岡山県南部『ソルティビーチ』――


「んーーっ! 潮の香りってるねー!」


 最寄りのポータルから、速力向上の魔法を利用して数分。

 海岸に到着して開口一番。海風を全身で受け止めるように、マリンは気持ちよく伸びをした。


 もっとも、時刻は19時過ぎ。すっかり陽は沈み、海は闇のように黒く、万物を飲み込みそうに波がうねっている。

 巨大なイカの姿を思い浮かべつつ、ルビは言う。


「香りってるってなんだよ。しかし、海といえばクラーケンか。RPGで定番のボスを連想しちまうな」


「それって、触手でぬるぬるプレイ? やー、ルビくんってエッチだね」


「迷わずその連想をしたお前に、そのままそっくり返してやる」


 海は厄介だ。


 装備に『錆』のデバフ――能力が低下する、あるいは継続的にダメージを受ける状態異常――が常時付与され、定期的に手入れをしなければ()()()()になって、性能がゼロになる。

 武器喪失(ロスト)のシステムこそないものの、修理が可能な『マネージャー』系のジョブが同伴していない以上、長期戦は難しい。


「そっくり返す? つまり私にクラーケンを押し付けるの? やー、ルビくんってエッチだね」


「帰るぞ」


「あ、すみません手伝ってください」


 辟易するルビに、マリンは軽く謝罪して懇願する。

 演技で瞳を潤ませるマリンを一瞥して溜め息を一つ、ミニマップを表示して目的地までの道順を確認した。


「暗いから、周囲の警戒を強めとけよ」


「りょー」


 僅かな外灯を頼りに、砂浜を歩く。

 砂浜に外灯とは不釣り合いだが、これがなければろくに探索できないので、少々外観を損なっていても目を瞑ろう。

 そもそも、夜間に探索などするなという話だが。


 目を凝らして歩くと、数匹のモブが目に入る。

 敵対しなければ、比較的大人しい種類だ。


「キャンサーだねー。どうする? 迂回する?」


「下手に迂回して、別のモブと鉢合わせてもめんどうだし、正面突破だな」


 言うと、ルビは騎士のスキル《挑発》を発動する。

 剣を抜き、盾を構えてマリンよりも数メートル前線へ。タンクの役割である彼は、誰よりも前線に出て戦うのが役目であり、受け入れるしかない運命だ。


 標的にした一匹のキャンサーが反応し、それに釣られて周囲のキャンサーもまとめて襲い掛かってくる。小型のモブは往々にして、それぞれがリンクしているために一匹ずつ撃破するのは不可能。対複数の戦闘になるために、盾役(タンク)が重要だ。


 敵視(ヘイト)は完全にルビが取った。これでマリンに攻撃が向かうことは、ひとまずない。

 見た目はただのカニで、性能もただのカニ。せいぜい、凶暴さがカニに毛が生えた程度の雑魚モブ。


 ――なるほど、毛ガニか。


 余計なことを考えている状況ではない。


「――《鳥居の加護》」


 背後から、マリンは玉串を胸前に構えて魔法を唱える。

 被ダメージを三十パーセントカットする防御魔法。戦闘前に使っておくのが定石。


 基本的に技名、魔法名を口に出さなくても発動は可能だが、具体的に言葉にすることにより、パーティー全体が『誰が』『何を』しているかを認識しやすくなる。

 最初は少し照れもあったが、慣れるもので。いわゆる厨二病全開でも許されるわけで。


「マリン、目を瞑れ! ――《フラッシュ》!」


 ルビが構えた盾が眩く輝き、闇夜を振り払わんばかりの光が放出される。

 敵の目眩まし効果と同時に、さらにヘイトを集めることの出来る技。

 要するに「眩しいんだよバカ野郎!」ってことである。


 魔法を唱えたことで、少しだけ上昇したマリンに対するヘイトを、再び完全にルビが引き受ける。


「攻撃入るよ!」


 マリンの役割は回復(ヒーラー)。ただ、常に回復が必要な状況が発生するわけでなく、隙あらば攻撃にも参加してより戦いを安定させる。

 無論、ルビの体力ゲージに常に気を配り、危なくないタイミングですぐに回復魔法を入れるのは忘れない。


「ちっ、やたら集まってきやがった! どこに隠れてたんだよ!」


 三匹程度を相手していたところに、わらわらとキャンサーが追加される。

 戦いの気配を察知したか。


「範囲デバフ、入れる!?」


「いや、継続ダメージでマリンにヘイトが飛んだら逆に厄介だ! 俺が狙ってる的に攻撃しつつ、回復重視で!」


 前後左右から、ぴょんぴょんと虫のように飛びついてくるキャンサー。

 鋭利なハサミを盾で受け流し、身を引いて躱し、着地の瞬間を見計らって――攻撃!

 極力ダメージを受けない動きをすることは、マリンの負担を減らすことにも繋がる。


「数が多いだけだ――この程度なら」


 キャンサーの動き、法則性はすぐに把握できた。

 単純で、短絡的。

 一体一体を討伐する速度が、どんどん上がっている。


「半永久の聖なる癒やしよ――《清水の餞別》」


 マリンの魔法効果で、ルビの全身が薄い青色の膜で覆われる。

 継続的に対象の体力を回復し続ける魔法のおかげで、ほとんどの被弾を避けているルビであれば、これだけで十分に持ちこたえられる。


「ほい、これで最後だな」


 一矢報いるとばかりに飛びついてきたキャンサーを、《ヘビィスラスト》で切り捨て、戦闘終了。

 敵の増援はあったものの、結果として苦戦するレベルではなかった。


「そう言えばなんだけどさ」


 周囲からモブの気配が消え去ったのを確認し、マリンが切り出す。


「ん?」


「ルビくんは、ここって来たことあるの?」


「あー、クエストで何回か。もう随分前のことだし、マップはちょこちょこ変わるしなぁ。けど、モブのほとんどがキャンサーで、狩り場として旨味がないのは相変わらずっぽいな」


「装備も錆びるし、いいことはなさそうだね」


 マリンは装備を見て「あー! もう三パーセントも削られてる……」と嘆く。

 せめてモブの経験値やドロップアイテムが魅力的ならば見返りになるのだが、キャンサーを狩るくらいならロックゴリラを狩っていたほうがよほど身になる。


「予備の装備は?」


「やー、インベントリの容量はいっぱいいっぱい……」


「一つくらい用意しとくのが定石だろ……ま、バタフライキャンサー討伐までは大丈夫か」


 嘆息。


 ただ、理解できないこともない。

 ヒーラー職は裏方、補助がメイン。十中八九、回復系のポーションなどの消費アイテムで圧迫されているのだろう。


 立派な心がけだが、適切な量を見極めるのも大事な能力。足りなくなるよりはマシだが、これじゃあろくにドロップアイテムも拾えない。


「や、そのドロップアイテムでインベントリがいっぱいなの」


「……は?」


 素っ頓狂な声が出る。


「ほら、荷物の整理ってめんどうだし。前回の攻略の時のアイテム、倉庫に収納し忘れちゃった」


「てへっ、って顔すんな。二次元化されてて可愛いのが腹立たしい」


「失礼ってるね。マスターアップ前から私はそこそこ可愛かった! ……はず」


「なんだその微妙な自信。ま、『私ってブスすぎて辛いわ~』とかSNSにアップしてる女共に比べたら、その方が数倍いいが」


 トラウマでもあるのか、妙な私怨を燃やしてディスるルビは、冷めた目線に気がつかない。

 ま、大方ネットで妙な影響を受けただけだろう。


「またバカ言ってるし……ま、女の世界は色々あってめんどうだし、その手のタイプは実は窮屈してると思うよ」


 辟易しているように見えるので、ルビは深い追求を避けた。

 彼女は彼女で、闇を抱えているのかもしれない。


「あ、結衣と芽衣に連絡してないな。ちょっと待ってくれ」


「遅くなりそうだもんね。二人共、久しく会ってないけど元気してる?」


「やかましいくらいだ。連絡がないと、心配して夜も寝れないはず。決して、気にも留めず夕飯にしてるなんてことはない……ないはずだ」


「あっ……うん、まぁ察したよ」


「なんてことを。大体、俺たち兄妹は相思相愛だからな」


「うん、流石にキモいかな」


「ド直球で直接攻撃やめてもらえる?」


「近寄りたくないかな」


「物理的に離れろなんて言ってねぇよ」


 愛する妹からの返事はすぐに来た。

 とりあえず生きて帰れと、端的に。


 我が身を案じてくれているなんて、やはり愛されている証拠ではないかと悦に浸る。

 再び向けられた、冷めた目線には気づかない。



 やがて二人は、洞窟前へ立つ。


「ここだな?」


「だねだねー。キャンサーの匂いがするよぉ」


「……え、匂い? 磯?」


 鼻をひくひく動かすような仕草。まさか本当に匂いがしているわけではないよな……なんて訝しげに視線を投げる。


 入り口には半透明の青い境界線。視覚されているだけで、物理判定はないので通り抜け可能だ。よくあるゲームシステムの一つで、エリアの移り変わりを示す境界線として表示されていることが多い。

 ゴールテープのように横一線に遮っているそれを通過すると、『ダンジョンに入場しました』とシステムメッセージが視界上部に表示された。


「特殊なギミックはないらしいが……情報が少なくて信用ならん。気をつけろよ?」


「心得ってるよ!」


 元気よく玉串を振って答えるマリン。

 武器の耐久度をお互いに確認すると、約六十パーセントまで削られていた。あまり余裕がなさそうだ。



 今回は……二人はいつもコンビだが、本来のダンジョンは四人前後のパーティで突入するのが大前提の仕様となっている。一人でも突入自体は可能だし、攻略も不可能ではないが、かなりの危険が伴って不利を強いられる。


 二人しかいない時点で、各自の負担は大きい上に、今回に限っては装備の耐久値の減りがより激しい。

 時間は惜しいが、かと言って焦ると死の危険性があるだけに慎重になる。


 ダンジョンの特徴として、誰かが攻略中は境界線が青から赤色に変化する。この間は無闇に突入しないのがマナーだ。得物の横取りや敵と間違えてのフレンドリーファイアなどの可能性があり、基本的にはタブー。


 逆を返せば、助けがくる可能性も薄い。


「ぬかるみが酷いな……岩も濡れてて滑る」


「足を滑らせやすいから注意、って情報はあったよ」


「滑って転んで死亡ってか? なんの冗談だ」


 鼻で笑う。


「何件か実例、あるよ」


 あっけらかんに返されてしまったルビは。


「うっそだろ!? スペラ○カーかよ!」


 タンスに小指をぶつけて死ぬ並に情けない死因に、呆れと驚きのリアクションを取る。

 昔、僅かな段差を落ちて死ぬ主人公を操るゲームをしたことはあるけれど。

 まぁでも、打ち所が悪ければ階段から落ちても死ぬ世の中だったもんな……なんて納得させる。


「先、行くよ?」


「待て待て、先行すんなって。俺、盾。お前、回復。役割分担、OK?」


「おけおーけっ。頼りにしてるよ?」


「頼られてやるから、頼られろお前も」


 互いに、互いを助けなければ死ぬ。

 一蓮托生。死なば諸共、旅は道連れ世は情け。


 生存力が高くても、回復してもらえないとタンク職でもすぐにくたばる。ヒーラーがソロプレイはそもそも、手の込んだ自殺に等しい。


 死ぬ時は、一緒だ。



 洞窟内は、しとしとと水滴が天井から垂れ落ちている。

 雨垂れ石を穿つ、か。

 元はゴツゴツしていたであろう岩肌は、長い年月をかけて穴だらけでみすぼらしくもある。


 潮風と湿気で満ちている洞窟内を、注意して進む。

 ヒカリゴケの明かりがなければ、この薄暗い空間では身動きが取れなかったところだ。

 ともすれば、まるでホタルのような幻想的な光の絵画に心奪われそうではあるものの、目的は観光ではない。


「敵がどこからくるか、全然わかんないねー」


 マリンの声が反響し、耳に届く。

 モブの奇襲がないか観察を続けているが、非常に予測がし辛い。


「敵は俺が見てるから、お前は滑って死なないようにしてろ。何も無くても転ぶ時あるだろ、お前」


「あっ! 今、そこはかとなくバカにした!? バカにしてない!?」


「してないしてない。そこはかとなくしてない」


「むぅ……ならいいけど」


「ストレートにバカにした」


「よくなかったよ!」


 ドジっ子属性と呼ぶのは、本家ドジっ子に申し訳ない。その程度にマリンはどこか抜けている。


 休みの日に制服を着て登校が二回。教科書を逆さに持って読もうとしたことが三回。

 総回数は少ないし、自分で気がつくのだけれど。非現実的なドジっ子行為は、ルビも何度か目にしたことがある。


 ――もっとも、今の現実が非現実な以上、非現実は現実的なのかもしれないが。


「あ、そうそう。なんだか新しい技術開発が進行ってるらしいよ。知ってた?」


「なっ、なんだって……!?」


「やっぱ知らなかったんだー。ルビくん、ニュース見ないもんね」


「いや、俺が驚いたのはお前が頭良さげな話題を振ってきたことにだ」


「ストレートにバカにした?」


「ストレートにバカにした」


「ちくしょー、いつか見返してやるんだから……」


 それはともかく、どんな技術か先を促す。


「なんだっけ、仮装物質具現化計画?」


「……どうしたマリン。熱か? 悪い薬でも使ったか? はたまた、誰かがマリンに擬態している可能性が……!?」


「茶化さない!」


「悪い悪い。仮装物質具現化計画な――要するに、想像を現実にする計画。マリンの非現実的なドジっ子属性が、現実になるようなもんだ」


「だから茶化さない! たまにしかやってないよ?」


 振り向くと薄暗くてもわかるくらい、マリンはぶすっと顔を不満げに膨らませた。

 可愛い。

 なんて茶化したら、また怒られるか。


「夢みたいな話だろ」


 例えば、ガラスコップが割れなければいいなと、考えたことはないだろうか。

 例えば、お湯を入れて一秒で出来上がるカップラーメンがあったらいいなと、考えたことはないだろうか。


 それを現実にする計画。


「逆転の発想だな。現実が非現実になったから、非現実な今なら現実に転換することが出来るのではないかと。人間のたくましさには恐れ入る」


「たくましさなら、ゴキブリの方が上じゃない?」


「氷河期を越えた化物と一緒にすんな」


「でも、ヒトだって乗り越えたわけじゃない? ほら、一緒だよ」


「む、マリンのくせに小癪な……」


 ちなみに、ゴキブリ並みに強い虫として、クマムシがいる。

 百度を越える高温に耐え、絶対零度でも平然としているほどだ。

 ただし、潰したら死ぬ。


「私だったら、絶対に目が覚める目覚まし時計とか欲しい。しかも、寝起きがすっきり不快じゃない! って感じのやつで」


「なんともマリンらしい……」


「ルビくんは?」


「俺? そうだな……一瞬で宿題の答えが自動記入されるボールペン、とかかな」


「なんともルビくんらしい……」


 お互いにくだらない想像を交わしつつ、奥に進む。


 宝くじが当たったら何を買おうとか。

 休みが一年間あったら何をしようとか。


 それと同レベルの、他愛もない夢物語。

 会話をすることで、お互いがはぐれていない確認も兼ねている。


「てか、バタフライキャンサーってなんで洞窟内にいるんだよ。バタフライで泳ぐんだろ?」


「データによればそうっぽいけど、あくまでデータだし。実際に泳いでるところを見たい人は少ないとかなんとか」


「都市伝説かよ。洞窟で泳ぐ時点でナンセンスだし、アイデンティティ喪失してんだろ。もうただのキャンサーじゃんそれ」


 まだ見ぬ敵、バタフライキャンサー。討伐方法を想定しておこうと思ったが、敵が明確に描けない。


 無駄な戦闘を避けるため、モブを回避していく。以外と体力を消耗しているが、二人共まだ表情に余裕があった。


「うおっ、危な!」


 死角から奇襲してきたメタルバットを一閃。

 全身が金属の如き硬さのモブだが、動きが遅く見切りやすいので倒しやすい。


「あ、てかこれ、群れだな。マリン、大量にくるぞ」


「繁殖力高いからね。ドロップは需要が高いし、後で売っちゃう?」


「売るか売らないかは確実の判断で。頭割りにしとくか」


「おっけー」


 かれこれ、約三十分。討伐したモブのほとんどがメタルバットで、またも群れに出くわす。

 難なく退け、ドロップアイテムを回収したら再び奥へと進む。


 様々な用途に使用される、メタルバットのドロップアイテム『鋼』は、大量に取れるが需要が更に上をいってて資金稼ぎにもってこいだが。


 海、とは。海岸沿いの洞窟、とは。

 もう少し、海っぽいモブが出てこいよと。なんて的はずれな期待はずれを胸に、ルビは思案する。


「ルビくん。気になってる?」


「ん? ああ、そうだな……」


 先の話題に出た、バタフライキャンサー。


「どうも情報が少なすぎて、気になるんだよな」


「確かに、動画の一つも無いのは変だよね」


「お前、どうやって『蟹座の玉串』のことを?」


「ギルドでたまたま合った人に聞いたんだよ。私の巫女装束を見て、情報提供ってくれたんだと思う」


「ふーん。ま、嘘をつく利点はないか。MPK狙いにしちゃ荒いし」


 見ず知らずの人が通りすがりにバフ魔法をかけたり、回復をしてくれたりは日常茶飯事だ。

 お互い、助け合うことの大切さを知っている。ルビも何度か、大量のモブに囲まれていたゲーマーを助けたことがある。


「MPKされる理由もないしねー。やろうとしても、まず成功しないでしょ?」


「モンスターを引き連れて他者に押し付けて、間接的に殺す。あるいは、攻撃を誘発して巻き込ませる。なんにせよ、自分自身にも危険が伴う行為だしな」


 マリンに情報を無償提供して、自分は安全圏にいながら彼女を殺す。

 ゾッとする想像。

 低い確率ではあるものの、ありえない話ではないことを、ルビは黙っていた。


「奥歯にいちごの種が引っかかってるくらいなもんだし、そんな気にすることでもないな」


「それ、結構気にならない? 私なら気になるんだけど」


「情報不足で、戦いが不利になりかねないほうが怖いな。わかってるとは思うけど、アイテムとSPは温存しとけよ?」


 アイテムはともかく、SP切れでスキルが使えなくなると、ヒーラーはただのカカシ同然と成り下がる。

 庇いながら戦うほどの実力差があればいいが、未知の敵だけに慎重にならざるを得ない。


「もしSP切れたら、この高性能カメラで動画撮影しとくよ! 珍しい生き物の動画で再生数がっぽり、副報酬でお金もウマウマ」


「俗っぽい企みしてんな……つーかなんでカメラ持ってきてんだよ」


 お気楽な様子のマリンを見ると、表情が和らぐ。


 マリンは――天谷青空はいつもこうだ。

 お気楽で、抜けてて、成績は本人曰く平均的だけど、ルビから見たら少しバカで。

 人懐っこく、サラッと乾いた性格に宿された暖かな優しさがあって。

 不思議と、接していると余計な力が抜ける。彼女がいるだけで、リラックスして戦うことが出来る。


「ま、なんとかなるか」


 だから、根拠はなくても大丈夫だと感じる。

 ルビが漏らした言葉に、マリンは笑って。


「なんとかなるなる! 晴斗くん、強いんだし!」


「名前、名前」


「あはは、ごめんごめん」


 二人しかいないし、そもそも実名を呼ばれたところで問題はないけれど。

 ハンドルネームなんて、誰かがやり始めて広まっただけの習慣だ。


「ルビくん、楽しそうだね」


「ま、ゲーマーだからな」


「命の危険は……もちろんわかってるけど。やっぱり強い敵と戦うのは、心躍るよね」


 もしかしたら、自分もお気楽思考なのかもしれない。

 なんて思った。


「分かれ道ってるね……」


「右か左か。よくあるプレイヤーに迫る選択の一つだが……」


 差し掛かった分かれ道。

 ありきたりだが、純粋に厄介だ。


「ふむ。正解を導く情報なんかない、右でいいだろ」


「ルビくんについて行くよっ!」


 違いそうなら引き返せばいい。

 二人は、右のルートを進み始めた。

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