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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第1章:冒険者の私
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1-6

 ウロン・オモイラル。ここいらの街を治める領主の息子で、この町に暮らす冒険者で彼の名前を知らない者は居ない。ただ、彼が有名なのは偏にその女好きのせいだ。

 領主の息子という立場を利用して、女冒険者を護衛と称して侍らせている。彼が来ると街から女が消える、という話もあながち嘘ではない。少なくとも女冒険者のほとんどは逃げ出すからだ。

 父親は真っ当な政治家、領主であり、代々の国主からの信頼も厚い。それだけに息子の行動がここら辺の地方に住む人々の悩みの種であった。

 ジリの情報も、逃げるなら逃げられる内に逃げとけ、という警告だ。


「どうしようかな……」

「アタシは受けますよ。お尻を触られるくらいなら気にしませんし」


 ニスルのように進んで受ける冒険者も居る。

 その理由は単純で、金払いが良いのだ。そして必要以上の人数を雇うので護衛自体も楽だったりする。

 依頼の楽さ。それに対する報酬の良さ。それは自分のプライドや羞恥心と秤にかけても釣り合うくらいではある。


「ジリはどうする?」

「ウチはパス。もう他の依頼も受けたしね」


 逃げる準備は万端ということか。でなければこの話をわざわざ教えてくれたりもしないだろう。


「ライラはどうするんです?」

「枠が空いてれば受けて良いんだけどな。どうせ私に手出す度胸なんてないんだし」


 魔剣は使いように因ってはそれこそ一国の軍隊に匹敵するほどの力を秘めている。今はライラがこの国を拠点にしているが、他の国に行ったらどうだろうか。

 いくらウロンが馬鹿と言っても、それを考えるくらいの頭はあるだろう。


「ハーニーがどうしても、って言うんなら一緒に受けてやっても良いぜ?」

「別にどっちでも良いんですけど。どーしよっかなぁ……」

「迷ってるんなら受けなよ。保留したら多分、受けないと思うよ」


 ジリの言った言葉で結論が出たような気がする。

 どうせ落ち着いて考えたら受けない方向に考えは向く。迷うくらいなら受けてしまえば良い。


「うん。私も受ける!」


 宣言してから、嫌な予感がビンビンに感じるが気にしないことにしよう。領主の息子だけあって報酬は良いのだ。リスクに見合うリターンはある。

 そう何とか自分を騙していたがふと、ライラが「言い忘れてたんだけど……」と前置きをして話し始めた。


「最近ここら辺で盗賊団が出るとか噂だから気をつけろよ」


 早速、嫌な予感が的中した。


「……何ですか?」

「ん? 飲み物のお礼だよ。ジリちゃんにばっか話させるのもズルいだろ?」

「そういうことじゃなくて! 何でもっと早くそれを言わないのってことですよ!」


 ウロン・オモイラルは領主の息子で金を持っている。そしてその父親が息子を見捨てるはずもない。

 盗賊団にとってはその場で身ぐるみ剥いで、更に身代金まで要求。一度で二度美味しい最高の獲物にしか見えないだろう。狙われない理由がない。

 そのための冒険者で、ウロン自体も護衛を連れているだろうから依頼の失敗は心配いらない。

 単純に、面倒なことになりそうなのが嫌だった。


「ハーニーなら大丈夫だと思って信頼してるんだぜ。もちろんニスルちゃんも」

「やだ! ライラさんにそう言ってもらえるなんて嬉しいです」

「……脳天気な」


 頭が痛い。

 しかしここでやっぱり止める、何てことは言い出せなかった。

 どうせニスルから馬鹿にされるに決まっている。そしてそれはしばらくの間続くのだ。彼女に弱みを見せてはいけない。


「まぁまぁ、そんな心配しなくても。盗賊に襲われるって決まったわけでもないんだしさ」

「確かにジリの言う通りだよね。心配し過ぎか……」


 そうは言いつつも結局不安を拭いきることはできないまま時間は過ぎた。

 ジリの情報通りウロンがこの街にやって来て、一週間後に帰る時の護衛依頼がギルドに持ち込まれた。

 もちろん、私を含めた数人を除いて、女冒険者の姿はなかった。




 護衛当日。私が向かったのはウロンの滞在する宿だった。

 魔物の襲撃から守るように、ある程度大きい規模の街は城壁に囲われている。護衛依頼の時はその出入り口に集まるのがほとんどであるが、ウロンはそうでないようだ。

 もちろん、特有の理由がある。

 この街で一番の宿屋。壁や柱にも装飾が施され、外観だけでも小洒落ているのがわかる。冒険者でここに泊まれるのはライラくらいだろう。そのライラは食べ物以外に頓着がないのでそこら辺の宿屋を転々としているのだが。


「せーんぱい。入らなくて大丈夫なんですか?」


 自分とは縁遠い宿屋で何となく入るのを躊躇していると、背中に聞きたくなかった声が投げかけられる。

 振り向くとやっぱりニスルが満面の笑みで立っていた。

 腰元にはレイピアが下げられており、準備万端といった様子。ウロン相手に考えているのか、服装はこの前会った時よりも地味だった。


「気に入られてお小遣いでもせびった方が良いんじゃないの?」

「そこまであの男にプライドを売る気はありませんから」


 めずらしくニスルとは意見が合う。ニスルに限らず、ウロンの人となりを知っている人なら意見は合うと思うが。

 流石に宿屋に入ってからは私もニスルも無駄な会話は自重している。

 いつどこにウロンの部下が居るかわからず、下手なことを言ってクビになるのも癪である。

 そして従業員に案内されたのは最上階の奥の部屋。


「入りたまえ」


 ノックをして返って来たのは、何かを心待ちにしていたような喜色満面の声。

 鳥肌が立って動きが止まるが、ニスルが後ろから「早く開けてください」とせっついて来る。

 自分で開ける気はないのか。その気持ちはわかるが。


「待っていたぞ。君達で最後だ」


 入って正面のソファにドッカリ体重を預けて葉巻を吹かしているのがウロン・オモイラル。大量に蓄えた贅肉と、不躾な視線を隠そうともしない態度の悪さ。吹き出る汗を隣の部下らしき男が逐一拭っている。

 今回集まったのは私達を含めて四人。先に来ていた二人は壁際に並んで立っていた。

 待たせてしまって申し訳ないのと、まだ椅子は余っているのにわざわざ立たせる辺り、ウロンの性格の悪さが窺える。


「さて、護衛を頼みたいのは隣街までです」


 話し始めたのは隣に立っている部下の男だ。

 ウロンはその間、舐めるような目つきで私とニスルを観察していた。


「これから出発の予定ですが、皆さん準備はよろしいですか?」


 この場の全員が大丈夫ということで、早速私達は街の出入り口に向かう。

 あの場で何も言われなかったということは四人全員がウロンのお眼鏡にかなったということだ。

 宿屋に集合したのも、ウロンが護衛をする冒険者の品定めをするため。もし気に入られなければあの場で帰らされてしまうのだ。

 道中、ニスルともう一人の冒険者がウロンから直接声をかけられていた。

 それを見ていた私と残りの冒険者は、バレないようにため息を吐いた。

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