表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第5章:レジスタンスとしての私
51/54

5-4

『伏せろ!』


 突然、ダムネシアに叫ばれてなにを考える間もなくそれに従う。

 その直後、窓を割ってなにかが飛び込んで来た。


「――!? 大丈夫ですか!」


 飛び込んで来たのは見覚えのある顔だった。別の部隊ではあるがレジスタンスの一員のはずだ。

 私の呼びかけにも応える様子はなく、視線は定まっておらず呼吸も不規則。全身血だらけで額の傷からは派手に血が流れている。まさか今の窓ガラスで切ったわけではあるまい。飛び込んだと言うよりは放り込まれたと言うのが正しいだろうか。

 背後から不穏な気配を感じ、咄嗟にその人の腕を掴んで横に避ける。

 次の瞬間、今度は窓ガラスではなく壁ごと、外側から打ち壊された。その先に立っていたのはファルグ種の男。突き出された拳にはなにも握られておらず、身体能力だけで壁を崩したのだろうか。

 レジスタンスの人を廊下の奥の方へ投げる。

 荒っぽくて申し訳ないが、丁寧に運ぶ余裕があるわけではなかった。背中を向けた瞬間に捕まえられてもおかしくなく、一度掴まったらただで済まないのはその雰囲気からもわかった。

 どこを見ているのかもわからないギョロギョロした目が私を捉える。それでも、私自身を見ていないかのような不思議な目だ。

 それが妙に恐ろしい。


「ルルゥ……エ、ルロロロ……ロロコォ……」

「なんなの……?」


 明らかに正常な状態ではない。

 口からは泡を垂れ流しながら、言葉にもならない音を並べている。


『魔力の流れがおかしい。まともな人間じゃないな』

「見た目のまんまってことね」


 身長は私より相当大きい。大柄な人の多いファルグ種とは言え、私もそれほど身長は低くない。そんな私が見上げるくらいだ。その大きさも想像できる。

 なにより、高さだけでなく幅も大きいのだ。

 丸太ほどもある腕に足。ぎっしりと筋肉が詰まっていそうで、不自然に盛り上がっている。所在なさげに開閉されている手指は、私の頭蓋くらいならぐしゃりと潰せてしまえそうだ。剥き出しの牙は鋭く尖っている。

 軽い前傾姿勢でゆらゆらと揺れながら、こちらの出方を窺っているように見える。逆に、まったくこちらを気にしていないようにも見える。


「……覚悟を決めなきゃね」


 向こうに仕掛ける気がないのならこちらから仕掛けるしかない。

 ダムネシアを握り直す。


『明らかに尋常じゃない。放っておいてもあいつはすぐに死ぬぞ? 魔力の流れからもわかる』

「でもその間にマレーナが襲われたら……。私以外にあいつの相手はできないよ」


 自慢じゃないが、レジスタンスの中では私が一番強い自負がある。他の冒険者も何人か居るが、やはりダムネシアが居る分、私の方が強さでは一歩抜きん出ている自覚はある。

 だからこそカルミール大統領を殺す役目を負っているのだ。

 ここであの男を私が止めなければ、他の所で被害が出る。

 しかし、


『ハーニーでも勝てるかどうかは微妙だぞ?』

「そうなんだよねぇ……」


 あのファルグ種の男は私よりも強い。壁をぶち壊すだけの腕力を見てもそれはわかる。ダムネシアと協力してようやくまともに戦える、その程度か。

 ダムネシアの言う通り、待っていれば勝手に自滅してくれるなら放っておくのが一番。ただ、そんなことはできなかった。マレーナはもちろん、レジスタンスの人達にもできる限り無事であって欲しい。

 いつの間にか私も甘くなっていたのかもしれない。


『ハーニーが構わないなら私からなにか言うことはない。勝つぞ』

「もちろん。手伝ってよね」


 身体強化の魔法を発動して廊下を駆ける。短い廊下でも瞬時に最高速度まで跳ね上がる。

 足の動きと足への指令が噛み合わなくなってくるが、それはダムネシアの力で補う。終盤はもうほとんど、ダムネシアの力で足を動かしていた。

 空いた私の意識はその分、攻撃へ備え、相手の様子を観察する。

 ダムネシアの射程圏内に男を捉えたその瞬間、どこを見ているかわからなかった視線が私へギョロリと向く。


「――っ!」


 ゾワリと背筋が凍ったものの、今更攻撃は止められない。

 瞬時に足へ使っていた魔力を腕に移動させ、渾身の力でダムネシアを振り抜く。


「くあっ!」


 手応えは、あった。

 しかし鋼鉄の塊でも切りつけたかのような手応えに、思わず金属音を幻聴してしまう。

 衝撃で手が痺れ、それでもダムネシアを取り落とさなかったのは執念に近い。私がここまで冒険者として戦えたのもダムネシアの協力あってのことだ。なにに置いてもダムネシアを手放してはいけない。

 しかし手が痺れた僅かな隙に、男はダムネシアを握り絞めた。無造作に、刃なんか気にせずガッシリと。


「この……離しなさいよ!」


 押しても引いてもビクともしない。だと言うのに、男の手からは血の一滴も流れていない。そして最初に切りつけた場所も、皮膚一枚切れていなかった。

 不意に、足が地面から離れるふわりとした浮遊感。続いて突風のような衝撃。


「がほっ!」


 風が吹いたのではない。私が投げ飛ばされたのだ。

 そう気がついた瞬間、背中から壁に叩きつけられ呼吸が止まる。


『堪えろ!』


 ダムネシアから注意された直後、魔力がお腹に集まっていく。

 それに合わせて呼吸を止めた次の瞬間、男の拳によって私は壁ごと撃ち崩された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ