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揃いの服を身につけ、顔まで隠している三人はまるで軍隊のようにも見えた。
ギルドに現れた女といい、町でなおも続いている爆発音といい、この三人といい。なにかしらの組織が事を起こしているのは確実だ。
となると、まったく同じ服を着ている目の前の三人は兵隊で、ギルドに現れた女は幹部クラスだと考えられるか。肌で感じた強さもそれならうなずける。
どこの組織でも、幹部くらいになると多少の自由は許されるものだ。
それが例えば服装だったり、任務に男を連れて来たり。
女が連れていたファルグ種の男も只者でなさそうだが、それは今のウチには関係のない話。重要なのは、目の前の三人が兵隊レベルの実力なのかどうかだ。
「それもやってみればわかることか……」
懐からナイフを抜く。
すると、三人も拳を構えた。武器を使うわけではなさそうだ。
この三人が雑兵ならばウチでもなんとか切り抜けられるだろうが、精鋭だとどうしようもない。
しかし気を揉んでどうにかなるわけでもない。
先手必勝、と真ん中の奴に向かってナイフを投げつける。
ただのナイフだが、身体強化の魔法を使って投げているので離れた位置からでもゴブリンくらいは倒せる。そしてただのナイフだから外して失くしても惜しくはない。
互いに踏み込めば何歩かで詰められそうな距離。そこから投げられたナイフを、真ん中の奴は腕を前に出して防いだ。
「ぐぅ……!」
腕から血を流し、苦悶の声を上げる。
避けるでも弾くでもなく受け止めるしかなかった。その程度であれば十分戦える。
俄然、やる気が湧いて来た。
「ハーニーだったらそれくらい避けてたよ!」
ナイフの刺さった奴に向かって一気に駆け寄る。
こういう時はとりあえず頭数を減らしていくに限る。
残りの二人の実力はまだわからないが、少なくともコイツに限っては、大した実力がないのはわかった。
走った勢いそのままに蹴りを繰り出す。それは躱されたが、屈んだそいつの頭に向かってかかと落とし。顔面から地面に叩きつけた。動かなくなったそいつの腕からナイフを回収する。
その間に残った二人がウチへと迫っていたが、それほど動きは速くない。
もしかして自分で思っているほどウチは弱くないのかもしれない。
普段、面倒だからと強い魔物は避けていたが、これからはそういう依頼を受けても良いかもしれない。
と、考えた所で頭を振る。
戦いの最中に別のことを考えるなんて三流のやることだ。
しかしそれができるくらいの余裕があるのも確かで、最初は挟み撃ちするようにウチを狙っていた二人は、攻撃を避けながら移動しているうちに横並びになり、二人が代わりばんこに攻撃を繰り出してくるだけになっている。
反撃の隙はないが、躱すのに不自由はない。
「意外とライラとの修行の効果が出てるのかね。あんたらもそう思う?」
返答はない。さっきのうめき声以外にこの三人から声を聞いていない。
大食らいのライラにご飯を奢る代わりに修行をつけてもらう、なんてどんな罰だとも思っていたが、こういう時にそのありがたみを感じるものだ。
身の丈にあった依頼ばかりじゃ腕が落ちるぜ、なんてライラは説教臭く言っていたが、この修行のお陰で今、戦えているのだ。
相手がちょっと躓き、一瞬の隙ができた。
そこを見逃すはずもなく、後ろに下がりかけていたのを無理矢理踏み込み、ナイフで切り上げる。
頭巾が切れ、僅かに顔が覗く。
すかさず空いている左手をそいつの腹に当て、同時に魔力を一気に練り上げる。手の平に現れた熱は一瞬で膨張し、爆発となってそいつを吹き飛ばす。ついでにお仲間も一緒にだ。
「……ライラの言う通り、ちょっと腕が落ちてるかも」
あまり魔力に余裕のあるウチではないので、魔法はいつも奥の手に取っておいている。なので久しぶりに発動したのだが、練り上げた魔力量に比べたら少し規模が小さかった。
これはちゃんと練習し直しかもしれない。
それも、生き残ったから言えることである。
「とりあえず今は……」
さっさとこの場所、この町から離れよう。
城壁の外は魔物が彷徨いていて危険だが、どっかの組織がいる町中よりは余程安全だろう。
荷物をまとめるために自宅へ体を向けたが、後方で起きた破壊音に足を止められた。
恐る恐る振り返ると、ギルドの裏口が破壊されて埃が立ち上り、向かいの建物の壁で冒険者がグッタリ伸びていた。
「まったく……。コソコソと裏から逃げようなんて……」
そしてギルドの中から出て来た女と目が合った。ファルグ種の男を連れていたあの女である。
冷たい物が背筋を伝ったウチとは違って、女はあくまで面倒臭そうにため息を吐いた。
「見つけちゃったら殺さないわけにはいきませんね……。どうしてもっと早く逃げてくれなかったのですか?」
「そいつらが足止めしてくれちゃったからね」
地面で伸びている三人組を指す。
女はそちらを一瞥し、
「彼らも仕事をしたわけですから責められませんね」
「見逃す気は?」
「ありません」
突如、目の前の空気が破裂した。
壁に叩きつけられる寸前で身体強化の魔法を発動し、なんとか意識を保つ。しかし頭をぶつけたのか、ぐらぐらと視界は揺れるようだ。
女にやる気は感じられないが、ああ言った手前、逃げたとしても追われるのは確実だろう。しかしただでやられるウチでもない。
さっきと同じようにナイフを投げつける。それはなにか壁にでも弾かれたように、明後日の方向に飛んで行った。
「風属性……!」
空気が操ったことからもわかっていたが、ほぼ確信に変わる。
女の正面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。道を塞ぐほどの大きさで、避けるには建物の上に上がるしかない。それが罠だとわかっていても、逃げないわけにはいかない。
ジャンプした瞬間、足下を強烈な突風が吹いていった。そして、空中にいるウチへ向けて再び魔法が放たれようとする。
女の足下が燃え上がるのと、ウチへ向かって風の刃が放たれるのは同時だった。
体は切り裂かれてもまだ生きている。女の方も、服や髪の毛は焦げ付き、咳き込んでいるがまだ戦えそうである。
その時、ギルドの壁が内側から壊された。そしてそこから、ファルグ種の男が現れた。
「あぁ、サイガル。手伝ってくれますね?」
絶望であった。




