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爆発音で目が覚めた。
しばしの間ボーッとし、ギルドで寝てしまったのだと思い至る。
依頼が終わり、自分へのご褒美として酒を飲み、三回に一度はギルドでそのまま寝てしまう。ウチの悪い癖だ。
ギルドの職員にもハーニーにも注意されている。
とは言え長年染みついた癖がそう簡単に直るはずもなく、爆発音なんかでこの眠りが妨げられるはずもない。
冒険者なんて職をしていれば爆発音を聞く機会も何度もあり、今更それ一つで驚きはしない。
二度寝をしよう。
「……いやいや、流石にそれはないでしょう」
たまに冒険者同士の喧嘩はあれど、それは他の町に比べて冒険者の集まるコッティの町では仕方のないこと。
冒険者達も心得たもので――当たり前だが――喧嘩の時に魔法は使わない。
間違って他の人に被害が出てはいけないからだ。冒険者ならまだしも一般人なら以ての外。
だからこそ、爆発音に慣れてはいてもこの場所では聞き馴染みのない音であった。
「なんかあったの?」
近くの席の赤ら顔をした冒険者に声をかける。
「流石のジリも起きるか。何人か確認に行ったぞ」
若干、呂律が回っていないのは気になるが、嘘ではないだろう。
冒険者が確認しに行ったのであればすぐになにが起こったかはわかる。酔っぱらいなら信用できないが、ちょっとした異変を調べに行こうなんて真面目な冒険者が酒を飲んでいるとも思えない。
ウチにできることはなにもない。もう一眠りでもしようか。
「と、その前に……」
酒を飲み過ぎて喉が渇いた。
水を一杯飲んでそれから二度寝しよう。
すでに家に帰るなんて選択肢はない。今日はいつも以上に冷え、寒い外を通って寒い家に帰り、冷たいベッドに横になるくらいなら、暖炉の焚かれたギルドの床の方が何倍もマシである。
こういう時は冒険者で良かったと思う。
カウンターまで行きコップ一杯の水をもらい、それを飲み干した時、タイミング良くギルドの扉が開かれた。
少しざわついていた冒険者達の視線が一気に訪問者へ集まる。
「結構残ってるじゃないですか……」
それなりに広いギルドでも、シーンと静まり返っていれば女の声も届いて来る。
現れたのは普通の女だったが、大柄なファルグ種の男を連れていた。女の二倍近くの身長があり、元々大柄ファルグ種の中でも更にデカい。
女の身長が低いのもあるのだろうが、それにしても親子のような身長差であった。
「ちょっと隠れておいた方が良いよ」
コップを返しながら囁くと、カウンターの中にいた料理人は食材を取りに行くフリをして奥に引っ込んでいく。
それを見届けてからそろそろと受付カウンターの方へ。
受付カウンターは入り口とは反対の場所にあり、女から少しでも離れられる。
彼女はもちろん隣のファルグ種も、只者でないことは一目でわかった。ついでに、ウチでは相手にならないことも悟る。
二人同時はもちろん、片方だけでも手に余りそうだ。
もう一度どこかから爆発音が鳴り、現在この町でなにかが起こっているのは間違いない。
「アンタ……ここらじゃ見ない顔だな」
「名前を聞いても良いか?」
不穏な空気を感じているのはウチだけじゃないようで、入り口の近くにいた冒険者が席を立った。
他の誰もが、興味ないフリをしながら聞き耳を立てているのは間違いなく、この状況を察せられていないのは酔っぱらいくらい。
ウチの酔いはとっくに覚めている。
軽く手だけのジェスチャーで、ギルドの職員に隠れているように伝える。
荒事に慣れているだけあって、逃げたり隠れたりするのもスムーズだ。
その間、女は問いに答えていなかったようで、苛立った冒険者の声が続いていた。そしてようやく女が口を開いたかと思うと、
「サイガル」
この一言だけであった。
しかし、
「ぐふっ……!」
「なっ――」
サイガルと呼ばれたファルグ種の男が女の前に出たかと思ったら、その両手がそれぞれ冒険者の腹へ深々と刺さっていた。
一瞬の間。
その後、女と男に向けて多種多様な魔法が放たれた。そして一拍遅れ、弓を持っていた冒険者から矢が放たれる。
端からあの二人を敵だと決めつけていたようだ。実際そうで、ウチもそう思っていたのだから血気盛んな冒険者を責められない。
しかしウチはと言うと、
「……やってられないよ」
受付カウンターを跳び越え、裏口へと向かっていた。
ただの冒険者が束になったってあの二人に勝てるかはわからない。命が惜しいなら逃げ出すしかないのだ。
「なんだこい――がは!」
「ブラッターがやられた!」
「くそ、覚悟しろ!」
後ろの騒ぎからなにが起こっているのかは想像がつく。
やはり逃げるが勝ちだ。
そう思っていられたのも、裏口から外に出るまで。
「今日は厄日ね……」
ギルドの外に待ち構えていたのは、全身を揃いの衣装に身を包んだ三人の人物。そして力尽きているギルド職員の死体だった。
裏口から出たところを殺されたのだろう。
三対一は分が悪い。それでもあの二人を相手にするよりかはいくらもマシだった。




