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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
41/54

3-13

 マレーナと一緒に村長の家を訪れると、すでに話はいっていたのかなにも聞かれずに客間に通された。

 熱い紅茶が淹れられ、それぞれ二口三口飲むまで無言が続いた。

 その気まずい沈黙に耐えきれず、自分から口を開いてしまう。


「騒ぎを起こしてすいませんでした」

「むしろ私の村の住人を助けていただきありがとうございます。聞いた話では殺されかけていたと……」

「僕はなにもできませんでしたから。ハーニーがいて良かったです」


 そう、二人から慰めてもらえたが、沈痛な空気は変わらなかった。

 マレーナと村長の間ではなにか私の知らない事情があるようで、それがこの空気の原因ということは察せられたが、二人とも一向にそこへ触れようとしなかった。

 マレーナはただ黙って村長の言葉を待ち。村長は考え事をしているように厳しい表情で目を閉じていた。

 あの謝罪から話が動くかとも思ったのだが、そんなことはなかった。

 そして慰めの言葉をかけられたせいでもう私に話のキッカケはない。


「……決断する時じゃないですか? さっきの様子を見ていましたが、みんな覚悟はできていそうでしたよ」

「そう、か……」


 相槌を打っても、マレーナの言葉に明確に返したわけではない。

 それでもマレーナは辛抱強く村長の答えを待っていた。


「このまま……このまま耐えたところで税が軽くなることはないだろう。私もそれはわかっている」

「国に陳情書を出しても無駄だったんですよね。なら――」

「しかし! 住人が覚悟していたとしても、みんなを危険に晒すようなことは長として決断できん」

「真綿で首を絞められるようなものです。直接的に危険があるわけではないですが、このままだと結果は変わりませんよ」


 しばしの沈黙。

 村長は何度か口の中で言葉を転がしていたが、結局それが出てくることはなかった。


「……他の人達はなんて言っていましたか?」

「また税が上げられたら、と言っていた。戦う気のない者はいつでも村を出て行けるようにしているし、残りたい者はなにが起きても覚悟しているそうじゃ」

「あと、決断するのは村長だけですね」


 ここまでで一番の苦い顔だったかもしれない。

 二人のやり取りを聞いて、この沈痛な空気の原因がわからない私ではない。

 マレーナはこの村の人達を丸ごとレジスタンスに迎え入れられないかと画策していたのだろう。そして同じことを他の村や町でもやっているに違いない。

 頭ではわかっていたのだが、マレーナが本気で国を取り戻すつもりなのだと、改めて実感した。

 そして、そのキッカケに私がなってしまったことに身震いする。

 仕方なかったとは言え、大きな戦いがこれから始まるのだ。

 村単位、町単位でレジスタンスを集め、なにごともなく終わるはずがない。せめてマレーナが武力を盾にした話し合いで事を終わらせてくれれば良いのだが、それは相手次第でもあるだろう。

 どちらにせよ、私がこれからやるのはマレーナの身を守ること。

 どうなってもそこは変わらない。

 私が悩んでいる間にも村長は腹を括ったようで、体中すべての息を吐き出すかのようい、長く長く息を吐いた。


「わかった。私の我が儘でいつまでもみんなを引き留めるわけにもいくまい。明日には村人全員に知らせよう」

「ありがとうございます」


 マレーナは村長の決断を尊重するように深く頭を下げた。

 それを受けて村長は、


「構わんよ。誰かが兵士に虐げられた以上はもう事なかれでいられないからな」


 と、自嘲気味に笑った。

 その様子はどこか悲哀に満ち、それでも覚悟をした男の顔だった。

 最後にもう一度、私とマレーナは頭を下げて村長の家を出た。そして滞在している家に戻る。

 落ち着くためにお茶を淹れていると、マレーナがふと口を開いた。


「ハーニーは良かったの?」

「……なんのこと?」


 具体的になにを指しているのかわからない問いには答えようがない。

 我ながら美味しく淹れられたと思う紅茶を二つ運びながら、マレーナに問う。

 マレーナはカップを受け取って一口飲み「美味しい……」と呟いてから言いにくいことのように目を逸らしながら言った。


「このまま僕と一緒にいて良いの? ってこと。絶対危ないことになるんだよ? ハーニーは僕と違って国を取り戻したいわけじゃないから、今なら捕まることもないでしょ」


 危ないとわかっていて、私の身を案じてくれているのならレジスタンスなんて止めてくれ、と言いたいが今更止めてくれるマレーナではないだろう。

 そして私も、今更私だけ逃げだそうとは思わない。

 マレーナと再会し、マレーナがレジスタンスの活動をするとこの村に向かっている間に覚悟は決めている。

 そしてさっきの村長の様子を見て、改めて覚悟したのだ。

 むしろ、


「私の方が中途半端な立ち位置のままでマレーナと一緒にいて良いの?」


 私がレジスタンスに、と言うよりマレーナ個人に協力しているのは、マレーナを死なせないためである。

 命を懸けてまで国を取り戻そうとするマレーナとは正反対とも言える。

 そんな私が一緒だと、レジスタンスの士気も下がるのではないか。

 それを心配しての質問だったのだが、マレーナは笑った。


「気にしないでよ。むしろ僕の方がハーニーのその気持ちを利用しようとしているんだから」

「うん……。でも私はマレーナが第一だからね。ハルメニアとマレーナのどっちを取るか、って聞かれたら迷わないから」

「わかってる。ありがとう」


 心の中では、マレーナを守るためにもできる限り早く国を取り戻そうと思っている。

 国が取り戻されればマレーナも他に危ないことをしないだろう。

 マレーナの安全を確保するためにも、ハルメニアを取り戻すのが一番の近道だ。

 もちろん、これを言うとまた利用されそうな気がしないでもないので黙っておくが。




 この日を境にマレーナは今までよりももっと精力的にレジスタンスの活動を始めた。

 ハルメニア政府に不満を持つ人は多い。重税だったり、数年前の国盗りの時に敵対していた人達だったり。

 それでも目立った反乱がなかったのは、誰もが自分の命を大切にしたからだ。

 レジスタンスの活動が成功するはずはない。失敗して惨めに殺されるに決まっている。そんな無駄なことはできない、と。

 しかし不満の火種は燻り続け、ついに一つの村が立ち上がった。

 小さな火種ではあるが次々と燃え広がり、その大火は国を取り返さんとその時を待っていた。

 あれよあれよと言う間にレジスタンスに協力する人達が増え、部外者の私ですらこれはいけるかもしれない、と思い始めた。

 しかしこの時の私は知らなかった。

 ハルメニアの外であんなことが起こっていたとは。

この章は完結です!

次の次が最終章になるかな、なんて想定しております。

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