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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
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3-12

「貴様……。子供の躾もろくにできないのか? ぶつかられて怪我でもしたらどうする。俺様はこの国を守る崇高な兵士だぞ?」

「申し訳ありません! この子には良く言って聞かせますので!」


 目の魔に広がる光景だけでもなにが起こったのかおおよその推測はできたが、二人の会話によってそれは確信に変わった。

 周りの村人たちは揃って、同情するような目や非難がましい目を向けていた。もちろん、前者は母娘で、後者は兵士達にだ。それだけで村人が兵士に対してどんな感情を持っているのかわかる。

 ひそひそと、隣近所で兵士の悪口を言っているのが聞こえて来る。


「貴様ら、散れ! 見世物じゃないぞ!」


 部下の一人が剣を振り回しながら喚く。それで多少は見物の輪も広がるが、解散するまでにはならない。

 部下達は必死に、上官の醜態が少しでも人の目に晒されないように頑張っているが、今更どうしようもないだろう。向こう一週間はこの話題でひそひそされることは確定だ。

 そして当の本人はどんな目を向けられているのかも考えず、偉そうに説教を垂れていた。

 自分がどれだけ優れているか。訓練でも武勇伝。そんな物は誰も興味がない。

 これでは部下の二人の心労も窺えるものだ。


「マレーナ、あの人は知り合い?」

「いや、まったく知らない人だ。多分、見回りでこの村に来ただけじゃないかな」


 レジスタンスのメンバーでも顔見知りでもないのなら放っておいても良いだろう。下手に止めて顔を覚えられても今後、動きにくくなるだけだし、一通り説教して満足すれば解放してもらえるだろうし、ここで下手に止めようとすれば逆上してなにをするかわからない。

 母親も頭を下げていることだし、後は兵士の満足したら終わるはず。。

 レジスタンスに入っている人間なら、マレーナが一も二もなく止めるだろう。

 そう思ってその場を後にしようとしたが、再び上がった悲鳴に足を止めた。

 見ると、兵士が剣を抜いていたのだ。


「貴様みたいに躾もろくにできん奴がいると国のためにならん! せめてこうはならない、と周りの奴らに教えるためにも貴様には死んで貰おう!」


 周りの村人達が止めようとしているが、部下達もまた剣を抜き、近づけないように威嚇している。

 いくらなんでもこれは見逃せない。

 しかしマレーナは苦々しく口を真一文字に結び、逡巡しているように目が泳いでいる。

 リーダーとしての立場があるのだろう。こんな所でレジスタンスのリーダーの顔が割れるわけにはいかない。

 そしてマレーナには力もない。


「申し訳ございません! どうかお許しを!」

「ならん! 覚悟しろ!」


 兵士の振り下ろした剣が、ダムネシアに当たって甲高い音を立てた。

 勢いで手が痺れたのか、兵士は剣を取り落としてしまう。


「大丈夫ですから、もう逃げてください」


 私に守られ震えていた母親は、ギュッと固く閉じていた目を恐る恐る開けた。

 そして私の言葉を信じられないようにしばらくボウッとしてそれから、


「でも……」

「私は冒険者です。殺されるようなことはしません」

「お姉ちゃん、ありがとう!」


 娘が先にお礼を言ってしまえば、これ以上この場に留まることはできないだろう。

 ダムネシアを背負ったまま二者の間に入り、母娘を守った。そして追われないように注意を払いながら、二人ともを逃がすことができた。

 振り返ると、部下の二人は唖然として、上官の兵士は顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。


「貴様……この私を誰だと思っているんだ! ハルア国軍で――――」

『大丈夫なのか?』

「どうでも良いよ」

「どうでも良いとはなんだ貴様!」

「あっ……」


 私としてはダムネシアに対して「ここで問題を起こそうがどうでも良い」という意味で返したのだが、ダムネシアの声も聞こえず、長々と己がどんな人間かご高説していた兵士には「あんたのことなんかどうでも良い」と聞こえたのだろう。

 変な所で話しかけてきたダムネシアに一言文句を言ってやりたいが、どうせ受け流されるだろうから飲み込む。

 なにより、怒った兵士が部下を私にけしかけて来たのでその暇がなかった。

 流石は兵士ということで、さっきまで唖然としていたのにすぐに気を取り直して武器を構え、私に向かって来た。

 片方を受ければもう片方に攻撃される。

 ならば一人目は避け、二人目にはダムネシアを思い切り振り抜いた。

 単純に武器と武器とで重さに差があるので、受け止めきれずに部下の一人は吹っ飛んだ。上手く人垣が割れ、家の壁に激突してのびる。

 手加減は大してしていないが、鎧を着た軍人であれば死ぬことはないだろう。

 そのままもう一人の部下にも切りかかる。こちらも武器の重量差で押し切ってしまう。

 大量のグルフロウに囲まれた時のことを思い返せば、多少はやるにしてもたった二人の兵士は敵でなかった。

 すぐに部下の二人を倒し、残るは上官の兵士ただ一人となった。


「貴様……!」


 武器を構え、顔をプルプルと真っ赤にしながらも切りかかって来ることはない。私との実力差をちゃんと感じ取ったのだろう。私もこの兵士に負ける気はなかった。

 怒りに我を忘れていないのは流石は軍人と言ったところ。

 しかし部下を連れて逃げないのは、プライドが邪魔をしているのだろう。大人しく逃がすつもりもないが。

 こうなってしまった時点で帰してしまえば、軍に反抗する人間として私のことは報告されてしまうだろう。そしてそうなれば、私と一緒に行動していたマレーナにまで調査の目が向けられる。そこからレジスタンスの行動が明るみなれば致命的だ。

 殺す、とまではいかなくとも、逃げられないように拘束くらいはするべきだろう。


「い、今なら不問にしてやる。武器を下ろせ」


 私の雰囲気が変わったのを感じ取ったのだろう。

 引っ込みがつかなくなった以上、私から引いた、という事実が彼は欲しいのだろうが、それに付き合うわけはない。

 渾身の力で兵士を突き飛ばし、家の壁に激突させて気絶させる。

 兵士三人が全員意識を失くしているのを確認し、ようやくダムネシアを下ろすことができた。


「ふぅ……誰か、縛る物持ってないですか?」

「……ロープがある。私も手伝おう」


 わかりやすい厄介事。村人も避けるかと思えば、一人の男性がロープを持って兵士を縛り上げてくれた。


「ありがとうございます。私のことは知らない冒険者が勝手にやったことだと説明してください。実際、ただの冒険者が勝手にやったことですし」

「いや。気にすることはない。村長に相談しよう。みんなも同じ気持ちのはずだ」


 男に言われて見渡すと、村人のほとんどはその場に留まったまま。無関係を装おうともしていなかった。

 そして気になるのは、全員の瞳に覚悟の色が見えていたこと。

 これは、私が思っていた以上にこの国の問題は根深いのかもしれない。

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