3-11
馬車から馬を外せばそのまま荷車になる。幌を外せば品物をやり取りできる行商の屋台に早変わりだ。
それに引っ張るようの取っ手を取り付け、私が広場まで引いて行く。
大量の商品が乗っているが、身体強化の魔法を使えばこれくらい、動かすことは簡単だった。
「いやぁ、ハーニーがいてくれて助かったよ」
「手伝えて良かったよ」
冒険者一本の私が、行商の過程でなにを手伝えるかわからなかった。なので単純な荷物運びでも手伝えるのは嬉しい。
しかし嬉しいからと言って荷物が軽くなるわけではない。身体強化の魔法で運べるからと言って、荷物を軽く感じるわけもない。重い物は重い。
準備のために荷台にいるとは言え、乗っているマレーナにちょっとだけ怒りも沸く。
なんてことを言っている間にも村の広場に辿り着いた。元々狭い村で、大した距離ではない。
「じゃあ早速始めようか」
と、マレーナは言うがわざわざ呼び込みをすることもない。
なんなら宣伝は昨日村に来た時の注目で十分であり、普段手に入らない品物を求めてすでに村人が何人か集まって来ていた。
「お久しぶりね。いつものあるかしら?」
「はい。たくさん用意してますよ」
「コレもう少しお安くならない?」
「こちらと一緒に買っていただければ多少は……」
こんな具合にマレーナは見事に行商人としての姿を見せていた。
素早く料金の計算をし、奥様方との世間話もこなし、その最中でも店の在庫を把握する。
私はマレーナの指示を受けて品物を出したり料金を受け取ったりと、そんなことしかできなかった。
それも、
『頼まれたのはそれじゃないだろう』
とか、
『お釣りは二百リリンだ』
だとか、ダムネシアの助けがあってのことだった。
それほど忙しいわけではなかったが、慣れない作業にあたふたとして、簡単な計算すら覚束なくなっていた。
そんな私のミスも、マレーナはしっかりフォローしてくれていた。
マレーナを守る、なんて大口を叩いておきながらまともに手伝いもできないなんて情けない。が、今はうじうじとしている暇はない。そんなことをする暇もなく、私は動き回っていた。
「お疲れ様」
「本当に疲れたよ……」
客足も一段落し、店を閉めたわけではないが一息吐くことはできる。
残っている商品を数え、売り上げが間違っていないか確認する。そんなマレーナの姿はもう立派な行商人であった。
「もう転職したら?」
少なくともレジスタンスをするよりは安全であろう。
しかし商売が板についているからといってその道に進むようなマレーナではなく、返事はもちろん、
「するわけないよ」
だった。
時間にはまだ早いが、時間ができている内に、とマレーナは少し古くなったパンをくれた。
商品としては売りたくない、という程度であって、食べる分には十分だ。
少々固いが小麦の風味がしっかり残り、ジャムを塗ると甘味がより引き立っている気がした。
「このパンを作ったパン屋の店主もレジスタンスのメンバーなんだよ」
いくらマレーナが何度も足を運んでいた村とは言え、どこに誰の耳があるかもわからない。それだというのにマレーナはまったく気にする素振りも見せなかった。
一応、周囲を見渡して誰かが聞き耳を立てていないか確認する。
本気で聞こうと思えばいくら離れていても身体強化の魔法で聞けるのだが、それを一々気にしていては確認も終わらない。
そこまで気にしなくて良い、なんてマレーナも言っているので、緊張するのは止める。
「でも、あんまりホイホイ喋るもんじゃないと思うけどね」
「僕はまだ目を付けられてないみたいだから。わざわざこんな所まで監視とかも付けないでしょ?」
「……軍の中にも協力者がいるんだ?」
「もちろん。レジスタンス自体の規模はそんなに大きくないけど、色んな人がいるよ」
そういえば資産家がパトロンに付いているんだったか。
敵の情報をある程度仕入れられているからこそ、行商人として各地を回ってレジスタンスへの勧誘もできているのだろうか。
だとしても、まだまだ政権を奪い取るには足りないだろう。
マレーナは気づいているのだろうか。こうしてレジスタンスとして活動して政権を奪い返すのは、敵が最初にやったこととそれほど変わらないということに。
しかし私の口からそれを言う気はなかった。
マレーナさえ無事であればこの国もレジスタンスもどうなったって良いのだから。
そんなことを考えていたせいで会話が途切れ、マレーナが私の方を見たが、幸いにもなにかを尋ねられることはなかった。
すぐ近くで悲鳴が上がったのだ。
顔を見合わせ、すぐにその悲鳴の下へ向かう。
家と家が離れて建てられた、くらいの細い道。大きな道路以外は、村を走っている道は総じて細かった。
それをいくつか越えた所に、小さな人垣ができていた。掻き分け、前に出る。
そこにあったのは、二人の部下を連れている兵士。うずくまっている女性。その腕の中で頬を押さえて泣いている女の子。
昨日、私に小さな花をプレゼントしてくれた女の子だった。




