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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
38/54

3-10

『このままで良いのか?」


 水を汲んでいると、唐突に背中のダムネシアが語りかけてきた。


「このままって、どういうこと?」

『レジスタンスのことだ。彼が大切な人だというのはわかったがレジスタンスに所属するなんて危険過ぎる。いずれ大きな戦いになるだろう。情の湧かない内に逃げた方が良いんじゃないのか?』

「いやいや。危険だとしたらなおさら背中は向けられないよ」


 ダムネシアの言っていることも理解しているつもりだ。

 ハルメニアはいったいどういう仕組みで国家元首を選んでいるかはわからない。しかし、平和的な手段でことが及ぶようであれば、マレーナだってレジスタンスとして逃げるように地下へ隠れることもしないだろう。

 こうして村々を回り、隠れるように支援者を募っている時点で平和とはほど遠い。

 そうなれば政権を奪う時に内戦みたいにならないとも言い切れない。

 あの部屋に集まっていたレジスタンスのメンバーを見る限り、争いになったら負けは明らかだ。

 マレーナを守るためにもレジスタンスに、そうでなくとも近くにいなければならない。

 情ならとっくの昔に沸いている。


『彼――マレーナだったか。マレーナを守るためにお前が危険な場所に身を置くなんて……』

「結局、ダムネシアはなにが言いたいの?」


 ダムネシアは私がこうしてレジスタンスと関わることを良しと思っていないみたいだ。

 その理由もなんとなく想像ができる。

 私はダムネシアがどうしてそんなことを言うのか予想していたが、ダムネシアは具体的な言葉を口にするのにたっぷりと時間を使った。


『ハーニーが大切な人を失いたくないように、私もハーニーを失いたくないんだ』

「やっぱり……私達って似た者同士だよね」

『茶化すな』


 私にとってマレーナが大切な存在であるように、ダムネシアにとって私は大切な存在。そしてダムネシアもまた、私にとって大切な存在である。私がマレーナを守りたいと思うのと同じように、ダムネシアも私のことを守りたいと思ってくれているのだろう。

 それは素直に嬉しい。

 しかし、だからと言ってマレーナを放って置く理由にはならない。

 マレーナがレジスタンス活動を止めるのならそれが一番なのだろうが、本人にその気はなさそうなのが辛いところだ。


「ありがとうね、ダムネシア。でも……わかってくれるよね?」


 しばらくの沈黙。


『不本意だがな。……私がそう思っていることを覚えておいてくれ』

「うん。ありがとう」


 私がマレーナのことを大切に思っているのをわからないダムネシアではない。そして、あからこそダムネシアに折れてもらう。

 本当に感謝してもし切れないが、私にできること。そして私がするべきは、マレーナを守って私も無事にいることだ。例え、国を二分する争いが起きたとしても、だ。

 僅かに剣呑な雰囲気が漂い、ダムネシアもそれ以上言葉を発することはなかった。

 話している間、水を汲む作業が止まっていたので再開させる。が、ダムネシアとマレーナのことが頭をチラついて上手く集中できない。

 マレーナがレジスタンスとして活動をしているのは、言ってしまえば復讐だろう。国を取り戻すためにあの賊の一味と向き合っている。

 対して私は、それに背を向けている。

 記憶を失っていたとか、大切な人を失いたくないなんてことは言い訳に過ぎないのだろうか。

 あまり集中せずともできる作業で助かった。戦闘中であれば目も当てられない。


「おねえちゃん」


 何度目か井戸から水を汲み上げると、背中にかわいらしい声をかけられた。

 振り返ると小さな女の子が立っていて、その手にかわいらしい花が一輪握られている。

 確か広場で遊んでいた子供達の中の一人だ。


「どうしたのかな?」


 屈んで視線の高さを合わせる。

 私がこの村に来たのは今日が初めてで、この子とも言葉を交わしていない。こうして話しかけられる心当たりはないのだが、もしも大人であれば誰でも良い、くらいに切羽詰まっていたとすれば無視するわけにはいかない。

 しかし女の子はもじもじしていて中々答えてくれず、なにか危ないことが起きているわけでないのならいくらでも待とう。

 やがて、ようやく意を決した女の子は手に持っていた花を差し出してきた。


「これ……」

「お姉ちゃんにあげる!」

「えっと、どうして?」


 受け取った花は、強く握られていたからか茎の部分が少し柔らかくなっていた。

 とりあえず受け取ったものの、私と女の子は初対面。こうして話すのも初めてなので、プレゼントをもらう理由が思いつかない。


「お姉ちゃん、暗い顔してたから。これで元気出して!」


 それだけを一息に言って、女の子は遊びの輪の中に戻って行った。


「心配かけちゃったなぁ……」

『気をつけないとな』


 見ず知らずの子供にまで心配されるほど私の表情は沈んでいたのだろうか。

 ダムネシアの言葉にも自戒の意味が込められていた。

 反省し、頬を叩いて気合いを入れる。

 悩みがすぐに晴れることはないが、小さな子供に心配をかけさせないよう、目の前の仕事はキッチリ終わらせよう。

 水を待っているマレーナもいるのだから。

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