3-9
「レジスタンス?」
一拍置き、兄の方が吹き出した。
「あんたらレジスタンスか。噂だけは聞いてたがな。……だけどよ、俺らはレジスタンスって柄じゃないだろ」
「政府に対して恨みがあるなら目的はほとんど同じだろう? 盗賊よりは余程マシだとは思うけど」
「……確かに、違いねぇわな」
マレーナの言葉にうなずいたものの、兄はレジスタンスに入ることに対してはすぐにうなずかなかった。
「……良いの?」
「こうでもしないとメンバーは増えないからね」
マレーナの言う通り、彼らが政府に恨みを持っているのならその目的はレジスタンスとそれほど変わらないだろう。
そして、政府に反抗するレジスタンスに人が少なく、こういう機会に勧誘でもしないと先細っていく、というのも理解はできた。
それでも、盗賊として襲って来た人物をレジスタンスに入れるのには抵抗があった。
リーダーが入れると言うのであればメンバーでもない私にどうこう言う理由はないのだが。
モヤモヤの置き所を探している間に、弟の説得も無事に終わったようだ。
「メロディヌスのフラッツ通りに一つだけ、地下にできてるバーがある。そこをノックしたら合言葉を聞かれるからグリフィン、と答えるんだ。大丈夫?」
「ああ」
「じゃ、また会った時によろしくね」
そのまま元盗賊の兄弟は家を出て行った。
そういえば、
「冒険者ギルドに合言葉バレてたよ。変えた方が良いんじゃない?」
「気に入ってるし思い入れもあるからね……」
セイレーンは海の魔物でグリフィンは空の魔物。合言葉としてはとてもわかりやすい。
そういえばセイレーンは、ハルメニア王家の紋章に使われていた魔物だったか。
恥ずかしがり屋で人見知りの私は、王宮どころか首都に行くことすら稀で、王家の紋章もろくに見ていなかったので思い出すのに時間がかかった。
現政権に不満を持つレジスタンスが前政権の証を合言葉にするなんて、考えてみれば至極単純で少し頭を巡らせれば誰だって予想ができるだろう。
それでもこれを合言葉にするということは、バレて元々か、マレーナが言っている通りに愛着があるからだろう。
「マレーナが言うなら良いんだけどさ」
「……やっぱりハーニーはハルメニア王国に対する愛国心だとか、そういうのはないの?」
「絶対に国を取り返してやる、って燃え上がらないのかって?」
「そこまでは言わないけどさ」
手分けして家の中に修理が必要な箇所がないか確認していく。
マレーナの口調は軽く、そこに少しだけ真剣さが混じっていた。
私をレジスタンスの一員として迎え入れるのは諦めたが、心のどこかでは期待している、そんな感じだろう。
「私はさ、大人になっても国をどうこうする立場にはならなかっただろうから、マレーナとはやっぱり考え方も違うよ」
私はフィプルース家の一人娘。女に生まれた時点で当主となって政に関わる道はなく、婿をとって家を存続させるのが役割だった。
なので習い事もほとんどは家事だとかそれに類する物で、ピープル家の当主になるべく帝王学を学ばされたマレーナとはそもそもの土台が違うのだ。
私にとって守るべきは国ではなく家。
愛国心が希薄になるのも仕方ないと言えば仕方ない。
「そっか……。確かに育ってきた環境が違うもんね」
「うん。だからマレーナがいなかったらレジスタンスにだって協力してないからね? あくまでもマレーナを守るために私はここにいるんだから」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
やはりマレーナはどこか寂しそうだった。
しかしこればっかりは曲げることはできない。それほど興味のないレジスタンスの活動にかまけてマレーナに何かあったら、なんて想像したくもない。
私が冒険者をしているのは大切な人を失いたくないからであって、国を取り戻すためではないのだから。
「よし! とりあえずこのまま使えそうで良かったね」
「あの二人がいたからかな?」
家は目立って壊れた箇所もない。さっきまで人が――勝手にだが――住んでいたので埃も大して積もっていなかった。
掃除していたとすれば弟の方だろう。
その姿を想像して少し笑いそうになる。
「今日は疲れたし、水だけ汲んでもう寝ようか」
「馬車の荷物は積んだままで良いの?」
「そのまま広場に行ってそのまま売るからね」
行商人として町を巡りつつ、困っている人の手伝いをしているらしい。
私自身は行商人と直接やり取りしたことはないので良くわからないのだが、マレーナと同じように馬車でそのまま商売をするのだろうか。
どうやらやっている内にマレーナも行商人として慣れたらしく、こちらが本業と言っても差し支えないらしい。
危ないことをするよりも商売人になった方が良いのではないか。
レジスタンスとして、そして行商人としてマレーナが何をするのか。昔のマレーナからは想像もつかなくて明日が楽しみである。
「あっ、水は私が汲んで来るよ。マレーナは休んでて?」
「そう? じゃあお願いね」
この村での仕事はマレーナがメインである。私はただの護衛に過ぎず、それならばマレーナの負担は少しでも減らすのが良い。
外に放ってあった大きなバケツを持って井戸に向かう。
確か広場の辺りにあったはずだ。
チラリと見た記憶も中々当てになるもので、広場の脇にポツンと小さな井戸があった。
石造りの井戸はしっかり手入れされていて、積まれた石の隙間に所々張り付いているコケを除けば綺麗な物だった。
朝になれば村中の人がここに水を汲みに来るのだろうが、昼も過ぎた今の時間には誰一人として井戸を利用していない。
広場では相変わらず子供達が遊んでいた。




