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「レジスタンスって普段何をやってるの?」
「別に大したことはやってないよ」
マレーナが操る馬車に揺られながら、私は街道を進んでいた。
荷車には私の他に、ワイン等が入った樽に野菜や干し肉の詰められた箱。その他日用品の収められた箱が所狭しと並んでいる。
これだけを見れば、レジスタンスというよりは行商人のような雰囲気だった。
「……じゃあ今日は何をしに行くの?」
「もう少し進むと小さな村があってね。今日はそこのお手伝いだね」
「レジスタンスの活動じゃないんだ」
「他のみんなもそれぞれが普通に日常を送りながらその時に備えているんだ。僕の場合は国内の色んな町を巡りながらメンバー集めと名前を売りにね」
「ふーん……」
マレーナが大した剣の腕を持っていないとわかってから薄々想像していたが、ずいぶんと政治的な動きをしているようだ。
元々、この国の政府の評判は悪い。外で言われるくらいなのだから中では相当であろう。
その不満が燻っている中で、現政府を倒した時に民衆からの支持を得やすいように、村の手伝いと言いながら恩を売っているのだ。
打算的な行動だが、半分くらいはマレーナの優しさだろう。
しかしレジスタンスと言うからにはもっと戦ったりだとか、戦闘が起こるものだと思っていた。
これならばあまり私の出番はないかもしれない。
「ほら、見えてきたよ。あそこが今日の目的地だ」
マレーナに呼ばれて幌から顔を出す。
いつの間にか道の左右は青々とした小麦畑に挟まれていて、風に揺れてざわざわと音を立てていた。
そしてマレーナが指を差していたのはその先である。
木材で立てられた大きな柵は、町を囲う城壁の代わりだろう。それが立てられないほど貧しい村があることも思えば、それなりに大きな村なのかもしれない。
「この小麦が秋になったら全部収穫できるんだよ。お腹が減ってくるね」
「マレーナってそんなに食いしん坊だったっけ?」
私にしてみれば、小さな魔物くらいならここに隠れられるだろうな、なんて考えて少し警戒するくらいだ。
もしものことを考えてマレーナの隣に腰を下ろす。
しかし小麦畑が広がっているということはすでに村の近くであり、魔物が現れることもなく至って平和に村へ到着した。
そのままマレーナは馬車を村の広場まで進め、そばに建っていた大きな建物に向かう。
「ハーニーはここで待っていてね」
マレーナの雰囲気からすると、ここには何度か訪れていたのだろう。
村人達も、私や馬車を一瞥したっきりでそのまま気にした様子もない。これが行商人であれば、どんな商品を持って来たのか、と近寄って来るはずだ。
正体はすでにバレているのか。
しかし長閑である。
広場はそれこそ馬車が何台も並べられるくらいには広い。そこで子供達が楽しそうに遊んでいた。
御者台でボケッとしつつ、たまに馬を撫でているとやがてマレーナは戻って来た。
「村外れに空き家があるんだ。いつもそこに泊まっててまだ空いてるみたいだから行こうか」
そのままマレーナは御者台に上がらないで馬を引いた。
時折、村人達と言葉を交わしているのを見るに、ちゃんと信頼感は築けているようだ。
私の知らないところでもマレーナがちゃんとやっていたようで安心する。なんなら私よりは余程平和に過ごしていたのかもしれない。
そして半刻もかからず件の空き家に着いた。
空き家と言いながらもそれほど古いようには見えない。今日これから今すぐにでも暮らせそうな場所である。
ただ、本当に村外れで、近くを歩いている人はいない。少し寂しい場所だった。
「ここだよ、ここ」
言いながらマレーナはポケットから鍵を取り出す。
「……最後にここに来たのいつ?」
「一ヶ月くらい前かな。それがどうかした?」
「その間、使っている人がいたかってわかるかな?」
「……いや、特に何も言ってなかったけど」
雰囲気を察したのか、マレーナの表情を硬くなる。
視線で問いかけると、そのまま道を譲ってくれたので鍵を受け取る。そしてダムネシアに手をかけながら慎重に空き家に近付いて行く。
こんな小さな村の空き家に悪党が潜んでいたとしても、魔物に襲われたとかそんな野盗が逃げ込んだくらいだろう。
それでも用心するに越したことはない。
少しだけ嫌な予感がしたのだ。こういう勘は信用するべきなのが、冒険者の常である。
「ダムネシア……。中に誰かいる?」
小声で問いかける。
『扉のそばに一人。その奥にもう一人だ』
やはり何者かが潜んでいたか。
ダムネシアの力では、魔力を感知して何人いるかはわかってもそれがどんな人物かはわからない。
しかし話しながら私達が近付いて、出て来ることもなく息を潜めているのなら、ただの村人でないのは明らかである。
村人だったとしても多少の怪我は覚悟してもらおう。
鍵を開け、扉を開ける。
途端、ナイフを掲げて襲いかかって来た男を、ダムネシアを抜くことなく姿勢を低くして肩からのタックルで地面に押し倒す。
「ぎゃあああ!」
倒れ込んだ男の手を思い切り踏みつけてナイフを手放させる。
そしてそのままダムネシアを抜き、部屋の奥でナイフを抜いていたもう一人の男に突きつける。
ただのナイフですら武器として扱い慣れていないのか、私が突撃してからようやくあたふたと武器を準備する始末である。そしてそれも、取り出した頃には私が迫っている。
手前にいた男がすぐに拾えないようにナイフを遠くへ蹴り飛ばす。
ダムネシアを突きつけたまま奥の男に歩み寄ると、わかりやすく動揺してナイフを落とした。
思わずため息でも吐いてしまいそうだ。
そいつが両手を挙げて床に跪き、後ろではマレーナが男をロープで縛り上げていた。
これで一安心だ。
「流石はハーニーだね」
「これくらい当然よ。……それで、あなた達は何者? ここは空き家だって聞いてたけど」
前半はマレーナに。後半は目の前の男に向かっての言葉。
男はあたふたとしながら答えた。
「お、俺らは大したもんじゃねぇよ……」
「大したことないあなた達がどうして村の空き家にいるの、って聞いてるんだけど。ここの住人ってわけでもないんでしょ?」
背中の方で大きくため息が聞こえた。
振り返ると、縛り上げられた男は観念したように口を開いた。
「ここら辺で盗賊をやってたんだ。誰も来なくてちょうど良かったから根城にさせてもらった」
「ここは先月僕が使ってたんだけど、ここで暮らし始めたのはつい最近?」
「ほんの二、三週間前だよ」
これからこの男達は憲兵に引き渡されるだろう。それからどうなるかは知らない。
もうどうにでもなれ、とでも考えているのか、ずいぶんと素直に話してくれるものだ。
「つい最近盗賊になったのか……? なにかあったのか?」
「なんてこたねぇよ……。税金が払えなくて連れて行かれそうになったから逃げた。それだけだ。めずらしくも何ともねぇや」
「兄ちゃん……」
どうやらこの二人は兄弟らしい。
弟が武器の扱いに不慣れなことを考えても、嘘を言っているとは思えない。
しかし税金が払えないから逃げるとは
そういえば、税金を払えなかったらどうなるのかはあまり知らない。冒険者である私にとってはギルドに収める協会金が税金みたいな物だが、払えないと身分を証明する物がなくなる。
つまりはいざという時に国や町から守ってもらえず、職も制限される。スラム街で物乞いをして生活するのがほとんどなのだが、それは盗賊とそう変わらないだろう。
しかし犯罪を犯している分、盗賊の方が身分は低い。
二人はどうして盗賊になる道を選んだのだろうか。真剣に考え事をしているマレーナを見ると、私が知る以上の事情がありそうだった。
「……二人とも、レジスタンスに入る気はないか?」




