3-6
気絶したマレーナは、レジスタンスのメンバーの手で隣の部屋のベッドに寝かされた。
リーダーを殴り飛ばしてしまったのだからまた拘束されるのかとも思ったが、今の戦いは互いに合意の上。流石にそんな常識知らずはいなかった。
更に気を利かせて二人っきりにしてもらえた。
正確には三人なのだが。
「大丈夫かな……」
『私が見る限りはなにも問題はないな』
「ダムネシアが言うんなら心配はないね」
と、言いつつも、やはり自分の手で気絶させてしまった手前、心配にはなる。
それが死んでいたとばかり思っていて再会できた幼馴染みであれば尚更だ。
久しぶりに再会できたというのに自分の手で取り返しのつかない事態にしてしまったら悔やんでも悔やみ切れない。
掛け布団を掛けられたマレーナの胸は規則正しく上下している。少なくとも死んでいないことを何度も確認し、何度も安堵していた。
もう大切な人を失うなんてことはしたくない。
そのために私は力をつけたのであって、大切な人を傷つけるための力ではない。
「ダムネシアが言ってた勘って、このことなのかな……」
ライラから護衛依頼の話を聞き、それを受けると決めた時に背中を押したのはダムネシアの言葉だった。
その勘に従って依頼を受けたら、マレーナと再会できたのだ。
初めてのことだったが、ダムネシアの勘も中々どうして、馬鹿にはできない。
『どうだろうな。これからもっとすごいことが起こるかもしれないぞ?』
「勘弁してよ」
そのすごいことが必ずしも良いことではない、と面白がっていそうなダムネシアの声音が教えてくれた。
本当に冗談ではない。
嬉しかろうと嬉しくなかろうと、これ以上心が動かされるようなことが起これば私の身が保たない。
その時、
「う、うぅん……」
「マレーナ……。起きて良かったよ。気分はどう?」
「ああ、なんとかね」
ベッドの上で上体を起こしたマレーナは、顎をさすりながら答える。すでに痛みはないだろうに、そうしてしまう気持ちも良くわかる。
受け答えもハッキリしていて、特に問題はなさそうだ。
とりあえずは安心。
「僕、どれくらい眠ってた?」
「わかんない。ちゃんと時間も見てなかったから」
それほど長い時間ではないだろう。まだあまりお腹も減っていないし眠たくもなっていない。
ちゃんと手加減できていたようで良かった。あまり手加減をするのを考えたことがなかったので心配だったのだ。
「でも驚いたよ……」
ため息を吐き、呟くようにマレーナは言った。
「なにが?」
「ハーニーがあんなに強いだなんて想像もしてなかった」
「私こそ、戦って欲しい、ってお願いを聞いてくれたんだからちゃんと戦えると思ってたよ。レジスタンスのリーダーだしね」
「リーダーをやってるからって戦えるとは限らないよ」
それはそうなのだが、なんだか釈然としなかった。
昔は、私がほとんど剣術を習っていなかったので、やる前からマレーナに勝てないのはわかっていた。
マレーナも同じで、いくら冒険者だと聞いていても昔のイメージは拭えないだろう。
「で、どうかな。僕はハーニーのお眼鏡にかなったのかい?」
「うん。マレーナのやることには協力するよ」
「良かった……」
胸を撫で下ろしたマレーナだったが、ふとその手を止める。
やはり気づかれたのだろうか。
こんな言葉遊びで曖昧にしたかったが、流石にこれを貫き通せるほどマレーナは甘くないだろう。それともこれは、長い付き合いで培った対私専用の勘の良さか。
「……ハーニーが、レジスタンスに入るってことで良いんだよね?」
「それは違うよ」
聞かれることがわかっていたので即座に否定する。
この時のマレーナはただ、不可解そうな表情を浮かべただけだった。
「マレーナのやることには協力する。でも、それはレジスタンスに入って国を取り戻したいんじゃなくて、マレーナを守るため。だから私はレジスタンスには入らないよ」
「どういうこと? ハーニーも国を取り戻したいんじゃないの?」
ライラと話していた時は勢いのままに言っていて、しかもライラ個人に対して言っていたわけではなかったので意識していなかった。
しかし改めてこうやってちゃんと説明しようとするとなんだか気恥ずかしい。
さっきのも勢いで押し切ったようなもので、こうしてちゃんと尋ねられると恥ずかしさもぶり返す。
なので思わず、視線も逸らしてしまった。
「私はただ大切な人を失くしたくないだけ。マレーナにだってこの気持ちはわかるでしょ?」
マレーナは少し考え、
「うん。でも僕はレジスタンスを止めないよ。民の幸せのために。貴族として当然の務めだからね」
「わかってる。マレーナは頑固だからね」
互いに少しの笑みを溢す。
「マレーナはレジスタンスを続けて。私は私でマレーナの協力もする。でもそれはレジスタンスに入るってことじゃなくて、マレーナを守るためだから」
互いに譲れる所まで譲ってこの結論だ。
もうすでに私達が暮らしていた頃の国はないというのに、マレーナはまだ貴族という位に固執している。それが貴族特権に固執しているわけでなく貴族という存在の役割に固執しているのは、良いのか悪いのか、少なくとも今は判断できなかった。
正直に言えば、原因はどうであれそういうしがらみからは解放されたのだから私のように好きに生きれば良いと思う。
しかしそれができないのがマレーナ。
私と違って次期当主として様々な教育を受けてきたからだろうか。
「あまり……無茶はしないでよ?」
「ハーニーが守ってくれるんだよね?」
「そうだけどさ……」
これまでどんな活動をしていたかわからないが、マレーナならもっと無茶をしかねない。そこで守れるのは他の誰でもなく私だ。
言ったところで頑固なマレーナは無茶を止めないだろう。
結局私が折れてしまうのは、昔から変わらない私とマレーナの力関係だった。




