表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
33/54

3-5

「え、嘘! 何でハーニーが!?」

「いや……それはこっちが聞きたいんだけど……」


 呆然としているマレーナを見ると、生きていて良かった、だとかどうしてレジスタンスを、だとかそんな想いも吹っ飛んでしまった。

 しかし吹っ飛んだとしても、生きていて良かった。そういう気持ちは後から後から湧いて止まらなかった。


「マレーナ……。生きてて良かった。本当に……」

「それはこっちの台詞だよ。泣き虫は変わらないんだね……!」

「マレーナだって、泣いてるじゃん」


 視界が滲み、マレーナの顔も良くわからない。

 それでも記憶にあった中性的な顔立ちから男らしくなっており、身長も私よりずいぶんと高くなっていた。

 気を利かせてくれた人が拘束を解いてくれてすぐにマレーナへ抱きつく。


「ホントに……ぐすっ。本当に良かった……」

「ほら。そんなに泣かないで」


 泣きじゃくる私の頭を優しく撫でてくれる。

 昔っから私が泣いている時はマレーナがこうやって慰めてくれた。その時から何一つ変わらない優しい手つき。

 昔と違うのは、マレーナも泣いていることだった。


「他には? おじ様とか……他に生きている人は居ないの?」


 マレーナが生きていたんだ。もしかしたら、という希望はあった。

 しかしその希望に対するマレーナの答えは、悲しげに首を横に振ることだった


「そっか……」

「僕も偶然助かっただけだからね。ハーニーはこれまでどうしてたんだい?」

「……何とか逃げ切ってから記憶を失くして、冒険者のお父さんに拾われてそれから私も冒険者をしてたんだ。マレーナは?」

「僕も似たような物だよ。命からがら逃げ出して、農家をしていた老夫婦に助けてもらって何とか、だよ」

「大変だったんだね」

「記憶を失くしたハーニーほどじゃないよ」


 どちらともなく笑みが溢れた。

 これまで、互いに壮絶な五年間を過ごしてきたのだろう。

 そうであっても、今こうして無事に再会できたのだ。それ以上に嬉しいことなんてない。

 しかし一つ気になるのが、


「マレーナは何でレジスタンスなんてやってるの?」


 私としては純粋な疑問で、何てことないような質問だった。

 冒険者をやるのに理由があったように、反政府活動をするのにも何か理由があるのだと。

 しかしこれを聞いた時マレーナは、一瞬驚いたような表情を浮かべ、続いて怒っているような表情。そして次第にそれが悲しげになると、決意をしたように口を真一文字に結び、他の人を部屋から出させた。


「……記憶喪失って言ってたけど、ハルメニア王国がどうなったのか知ってる?」

「そういえば地図に載ってないよね。私が記憶を取り戻したのも最近のことで、それまでは冒険者として必死だったからな……」


 他の国のことなんか調べる気もなかった。と、言うよりもハルメニア王国が故郷であったことも忘れていたのだ。

 マレーナに許可をもらってダムネシアを背負い直す。

 背中にないと落ち着かなくなっている

 私の答えを聞いたマレーナは納得をしたように息を吐き出し、私の代わりに椅子へ座り込んだ。どこか疲れているようだった。


「今居るこのハルア国が、僕達の生まれ育ったハルメニア王国なんだよ」

「ど、どういうこと?」


 何か事情があって王政から変わって、国名もその時に変えたのか。

 まったく関係のない国でマレーナがレジスタンスに所属しているのも不可解だが、自身の生まれ育った国に大してマレーナが反抗しているのはもっと不可解だった。

 マレーナは私よりもずっと貴族らしくて、国のことを思っている人だった。

 確かに今のこの国はあまり良い国とは思えない。だとしてもマレーナならもっと平和的な手段を執ったのではないか。

 それがなぜ。


「ここからはハーニーにとっても辛い話かもしれないよ?」

「大丈夫。私だってもう子供じゃないから」


 マレーナはどこか話したくなさそうな雰囲気を醸していた。

 しかしここまで来て私も見て見ぬ振りはできない。

 覚悟を決めてマレーナの言葉を待つ。


「簡単に言うと、ハーニーのあの誕生日パーティの夜。あの時に襲って来た賊の一味が国を乗っ取ったんだ」

「……え?」

「あの日の前後一週間くらいで、各地の貴族が集まるパーティが同じように襲撃されていたらしい。それからすぐに首都でクーデターが起きてしばらくゴタゴタが続いて、気づいたらあの女がいつの間にか国家元首になってたよ」

「そんな……」


 あの女とは今の国家元首のことだろう。たまに新聞等で話を聞くが、国の評判と同じようにあまり良いことは書かれていない印象だ。

 まさかその人が私にとっての仇とも言える存在だとは。

 話を聞く限りそれほど派手なことは起きなかったのだろうか。マレーナが一口に説明できるくらいだ。

 どこか他人事に思えてしまうのはなぜだろうか。私にとってこの国はもう故郷とは思えないのか。

 きっと私の感情は両親を失い、メアリーを失った時でずっと止まっているのだろう。

 そこが変わらないので、賊の正体だとか、国の行く末だとか、そういうものがすべてどうでも良く思えてしまうのだ。


「多分、長い時間をかけて練られてた計画なんだろうね。じゃないと一ヶ月とかそこらで国盗りができるはずない。だから僕は国を取り戻そうと頑張っているんだ」


 そう言うマレーナは本当に悔しそうだった。

 だからこそレジスタンスに参加して、リーダーまでやっているのか。

 なのに私はどうだろうか。そんなマレーナの姿を見ても、ならば私も、と立ち上がる気にはなれないのだ。マレーナほど義憤に燃えられない。

 私の心を占めているのは、


「マレーナは……大丈夫なの? レジスタンスなんて危ないんでしょ?」


 背も伸びた。腕も足もそれなりに太くなっている。

 しかしいくつかの傷も残っていて、尋常でない生活をしていたのはすぐにわかった。


「危ないよ。危ないけど僕は耐えられないんだ。ハーニーも話を聞いてどう? ライラさんが言っていたのがハーニーだったとは驚いたけど、協力してもらえないかな?」


 真剣な表情で手を出すマレーナ。

 このアジトだとか他のメンバーとかを見れば、レジスタンスがどういう状況に置かれているかはすぐにわかる。

 とは言え、負けそうだから協力しないとかそういう話ではない。

 私は単純に、命を懸けてまで国を取り戻そうと思えなかったのだ。


「今、マレーナに協力しようとは思えないな」

「……そっか」


 寂しそうに笑うマレーナは昔のままだった。


「一つ、お願いしても良い?」

「何かな?」

「私と戦って欲しいの。レジスタンスのリーダーでもあるマレーナがどれだけ戦えるか教えて。協力できるかどうかはそれ次第」


 マレーナ本人というより、周りの空気が変わった。

 レジスタンスのリーダーとして恨まれる覚えも多いだろう。私がそんな手先の一つかもしれないと今更ながらに警戒したのだろうか。

 しかし当のマレーナはと言うと、少し迷った末に面白そうに笑いながらうなずいた。


「いいよ。それでハーニーが協力してくれるなら」

「やっぱりマレーナは変わったね」

「どういうところが?」

「昔だったらこういうお願いは受けてくれなかったでしょ?」


 コレをする代わりにアレをして、なんてお願いは私のためにならないだとかでいつも突っぱねられていた気がする。

 ほんのいくつかしか変わらないのにお兄さん振るマレーナを少し恨めしく思ったのも何度か。

 しかし今回はこうして受けてくれた。

 私とマレーナは向き合って立つ。互いに武器は持っていない。他の人達は壁際に並んでいて、そのせいで少しだけ部屋も狭くなっている。

 しかし一歩や二歩で詰められるような距離ではない。


「もう子供じゃないしね。ハーニーも冒険者だったら怪我をさせることもないだろうし」

「昔の私のままだと思ったら痛い目見るよ?」


 拳を構えるマレーナには戦える人間の気迫という物が感じられなかった。

 強そう弱そうだとか、普段は武器を使っているから素手には慣れていないとか、そういうレベルではない。

 喧嘩の一度もしたことがない少年のような、そんな雰囲気だ。

 鍛えられ、傷ついている体。戦ったことがないなんてことはないと思える。それが故に、その立ち姿も私の油断を誘うための罠なんじゃないかと思えた。


「お先にどうぞ。先手は譲ってあげる」

「どうもありがとう」


 これすらも巧妙に仕掛けられた罠なのではないかと疑ってしまう。

 しかしマレーナは本当に先手を譲ってくれたようで、まったく仕掛ける様子が感じられない。

 このままでは埒が明かないので結局私が先に距離を詰めることにする。

 数歩で詰められない距離でも所詮は屋内。身体強化の魔法を使っていればほとんど一瞬と変わらない間で詰められる。

 余りに隙が多くて狙う場所にも困るくらいだが、あえて一番無防備に晒されている顎を狙う。

 一撃で気絶でもさせられたら儲けものだ。何かあったとしても、それこそ命を取られるようなことはないだろう。

 そう油断していて、警戒することを止めて真っ正直に拳を放つ。

 ガードされるか避けられるか。

 私の予想は簡単に覆された。


「へらっ――」

「ちょ、ちょっとマレーナ!?」


 馬鹿正直に私のパンチを受けたマレーナは、変な声を上げて白目を剥くと、ドサリと床に倒れ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ