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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
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3-4

「おい……大丈夫なのか?」

「し、知るかよ! 俺だって必死だったんだから……」

「ガイザールの言っていた通りならこの程度で死ぬとは思わないがな」

「し、死ぬ!?」

「冗談だよ。……お、起きた」


 目を開けると、知らない男が二人、こちらを覗き込んでいた。

 オドオドした男とひげ面で少しぶっきらぼうに見える男。どちらも普通に町を歩いている一般人のようだった。


「……何が目的?」


 手足が縛られているのにはすぐに気づいた。縛り付けられている椅子が安物で、お尻が少し痛い。

 ダムネシアを初めとして私の荷物はひとまとめに置かれていた。

 盗みが目的でないようで一安心だが、逆に物盗りでなければどうして襲われなければならないのか、それがわからなくなった。

 それこそ、一般市民に狙われる心当たりなんてない。

 この国の政府に狙われる心当たりは、ついさっきできたばかりだ。


「ちょっとあんたに頼みがあってな」

「頼み事をするような状況には思えないんだけど?」

「それはまぁ……あんたに暴れられたら俺達じゃ手も足も出ないからな」


 ランプが二つだけ点されている。

 その薄暗い灯りだけで照らせるほど部屋は狭く、窓があるであろう場所は木の板で塞がれていた。

 手段と言い場所と言い、穏やかな頼み事ではないだろう。

 その時、扉が開いて男が入って来た。

 扉の隙間から漏れた光は日光には見えず、この部屋は奥まった場所にあると想像できた。今が昼か夜かも判断できない。


「……さっきは良くもやってくれたな」

「お互い様ね」


 現れたのは、殴って気絶させた男であった。

 痛みを思い出しているのか、お腹の辺りを擦っている。

 あまり手加減したつもりはなかったのだが、この男が目を覚ます程度には時間が経っているのだろうか。

 少しでもダムネシアに触れられていれば状況も聞けたのだが、それは考えても仕方がない。


「それで、頼みっていうのは何なの?」

「リーダーが来るまでは……まぁ、良いか。この国の現状を知っているか?」

「……悪いけど私はこの国の人間じゃないの。ただの冒険者だし、反政府活動に興味はないわ」


 反応は三者三様だった。

 私が殴った男は諦めたように両手を挙げ、オドオドした男は隣に立つ男を見る。そしてその見られた男は、バツが悪そうに頭を掻いていた。

 やはりこの三人はレジスタンスだったか。

 あの話の切り出し方は政府に不満を持っていると想像したが、間違っていなかったようだ。

 しかし、


「どうして私を誘おうと思ったの? さっきも言ったけど全然関係ない人間なのに」

「強くて協力してくれそうな人だったら誰でも良かったんだよ」

「それだけ俺らの状況が逼迫してるってことだ」


 だとしてもまったくこの国と関係のない私を利用するのはどうなのだろう。

 それこそ、本当にレジスタンスを取り巻く状況が悪いということか。

 首都であるはずのメロディヌスなのに大して活気づいていないことは気になっていたが、想像していた以上にこの国は危ないのかもしれない。

 そう考えると丸っきり無視をするのも気が引けるが、だからと言って私に何ができるという話でもない。


「……とりあえず、あなた達の事情はわかったけど協力はできない。密告とかもする気はないから解放してくれる?」


 知らない体で依頼を受けたとは言え、レジスタンスの手伝いをしてしまったのだ。まさか軍に駆け込めるはずもない。

 国に対してもレジスタンスの人達に対しても薄情なようだが、今の私は早く帰りたい、というのが本音だった。


「ライラさんからの紹介だったんだがな……」

「あの人の言うこと真に受けたのが間違いだったんじゃないか?」

「ちょちょちょ、ちょっと待って」


 聞き捨てならない名前が聞こえた。


「ライラが私のことを紹介したの? 何で?」


 今回の依頼自体がライラのお節介だったが、こうしてレジスタンスに紹介することまでライラのお節介で勝手にやったことなのだろうか。

 だとしたら本当に、これまで信じてきたライラがわからなくなる。

 レジスタンスと言えば聞こえは良いが、国への反乱を起こす犯罪者予備軍である。この人達に関しては誘拐犯だ。

 そんな組織に無関係の私を推薦するなんて信じられない。ライラはいったい何を考えているのか。


「何でって言われても……」

「俺らはこの国と無関係じゃない良い奴が居るって聞いただけで……。あんたなら絶対に協力してくれる、とも言ってたぞ」

「それ、本当に私なの?」

「ガイザールと一緒に依頼を受ける人間だって聞いてたぞ……」

「ガイザールも……」


 レジスタンスの一員だったのか。

 そう思うと、積み荷の医薬品を勝手に使ったのも理解できる。元々レジスタンスに納入される物なのだから前借りしても、ということだろう。

 しかしそうなるとライラの言っていることがわからなくなる。

 私はこのハルアを訪れるのも初めてで、無関係も無関係だ。いったいライラは何を知っているのだろうか。

 これまでと別の意味で寒気がしてくる。


「とにかく、そういうわけだからすぐに解放とはできないな。せめてリーダーが帰って来るまでは待っててくれ」

「そのリーダーはいつ帰って来るの?」

「時間はかからないさ」


 そういえば今回の依頼をライラは、ある知り合いへのお節介だと言っていた。

 話の流れからするとレジスタンスのリーダーが、そのライラの知り合いの可能性はある。

 どうせならそこら辺もちゃんと問いただしてからライラに文句を言いたい。

 リーダーの帰りを待つ間、逃げない逃げないと言いつつも信じてもらえず、椅子に縛られたまま時間が過ぎていた。

 一応、男達が交代で見張りをしていたが、全員が全員やる気なさそうで、これなら解放してくれても良かったのではないか。

 そして、


「リーダーが来たぞ」


 唯一の扉が開けられ、ぞろぞろと人が入って来る。

 とは言えそれも十数人で、この程度でもいっぱいになるくらいにはこの部屋も狭い。

 この部屋がレジスタンスのアジトで、ここに居るのがレジスタンスの全員だとすれば、国への反抗は無駄としか思えない。

 そして全員で私を囲う。

 その人垣が割れて、偉そうに歩いて来る人物が一人。

 現れたその顔は忘れるはずもなかった。


「……マレーナ?」

「もしかして、ハーニー!?」


 現れたのは死んだと思っていた私の幼馴染み、マレーナ・ピープルその人であった。

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