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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
31/54

3-3

「それではありがとうございました」


 依頼人の屋敷まで竜車を送り届けて依頼は終了。

 依頼内容の書かれた紙に御者のサインをもらい、後はこれをギルドに提出して報酬を受け取れば、今回の依頼は完全に終わる。

 冒険者側とすればそれまで気は抜けないが、御者は町に着いた時点で、依頼主は自分の下に荷物が届いた時点で依頼の終了だ。

 応対に出て来たのは使用人らしき男で、反政府組織――レジスタンスに属していると言われる資産家の姿は見られなかった。

 むしろその方が良かったのかもしれない。


「じゃあガイザールさん。今回はありがとうございました」

「おう。こちらこそありがとう。俺は病院に行ってからギルドに向かうわ」


 そしてガイザールとも屋敷の前で別れる。

 ちょっと観光でもしてみようか。それよりも先にギルドで報酬を受け取ろう。

 冒険者ギルドは依頼を張り出すボードと受付のカウンター。そして各ギルドで通信ができる魔石を置くスペースさえ確保できるならどんな形をしていても良い。

 他の町のギルドには何度も行ったことはあるが、国が違えば雰囲気も変わるだろう。

 現に町並みも普段見ている物とは違う。それでもどこか見たことがあるような懐かしさがあった。

 しかしその理由を突き詰めるよりも先に、暗く陰鬱とした空気に押し潰されてしまいそうだった。

 すれ違う人全員の表情にどこか、陰があるように感じる。

 クーデターが起きてからそれほど年月が経っているわけでもない。そして反政府活動が行われているほど、今の政権に不満を持っている人物も居る。国の雰囲気が明るくないだろうというのは想像していた。しかしそれ以上だった。

 漂う空気すら灰色になっているようだ。空が晴れているだけに地上との差が激しい。

 そんな空気に辟易しつつも何とかギルドに辿り着く。

 流れ者の多い冒険者だけあって、ギルド内はそれほど空気も悪くない。そもそも冒険者は国に属しているわけでないので、極端な話、国が潰れたところでどうなるものでもない。

 いつも見ている光景に比べれば賑やかさは落ちるものの、それでも明るい表情の人ばかりだ。


「ハーニーさんですね。報酬はどうしますか?」

「今受け取ります」

「かしこまりました。用意するので少々お待ちください」


 そのまま受付嬢は奥へ引っ込む。

 その時間を使って依頼の張り出されるボードを見てみるが、これといった依頼はなかった。

 地元の方へ戻る護衛依頼でもあれば、と思っていたがそう簡単にはいかないだろう。キリコの討伐依頼も出ていないようだ。人を襲うくらいなので依頼が出される前に倒せたのは幸運だろう。冒険者として見ればどちらかと言うと不幸だが。

 そんなことをしている間に報酬の準備ができたようで名前を呼ばれる。


「……セイレーン」

「……それがどうかしたんですか?」


 報酬の入った小袋が渡される前に、受付嬢はそう一言呟いて動きを止めた。

 セイレーンと言えば海上で船乗りを惑わせる魔物だ。内陸であるこのハルア国には関係のない魔物だと思うが、それが出没したのだろうか。

 そう身構えたのだが、どこか試すような空気を一瞬で消して、受付嬢はちゃんと報酬を渡してくれた。


「今のはレジスタンスの合言葉なんですよ。一応、試してみましたが大丈夫そうですね」

「あぁ……。やっぱり居るんですね」


 それが合言葉だと知らなかったからこそ、あまり動揺せずに済んだ。冒険者を長年見続けていた受付嬢には本当に嘘が吐けない。

 そのまま軽く世間話をして話を逸らしつつ、ついでにオススメの宿屋を聞く。

 明日には出て行くつもりだ。

 レジスタンスに関わってしまったのだ。冒険者としてはいけないことで、バレない内に町を出たいというのは当然の気持ちだった。

 そうでなくとも、ただの受付嬢がレジスタンスかどうかを気にする必要はない。彼女はどっち側なのか。それがわからないのも空恐ろしい。

 しかし何かが引っかかる。


「セイレーン……セイレーン……」


 ただの魔物のはずだがそれが何か引っかかっていた。

 魔物としてのセイレーンではなく、どこかで見たような、どこかで聞いたようなそんな感覚だ。

 思い出せそうで思い出せないと何とも気持ちが悪い。


「ダムネシアが何かした?」

『するわけがないだろう。私が思い出せないように封印していた記憶は全部解いてある』


 冗談交じりに聞いてみたのだが思っていたよりも真面目に返されて少し申し訳ない。

 ギルドを出てオススメの宿に向かう道すがら、頭を捻っていたのだがそう簡単には思い出せない。

 昔、恐らく私がまだ貴族の娘だった頃に聞いたことがあると思うのだが。


「――あ!」


 不意に思い出した。

 外を歩いている時に雨の雫がポツリと頭に落ちて来たようなそんな感覚だった。

 しかしそれを言語化するよりも先に、後ろから迫る暴漢をどうにかするのが先である。

 ギルドを出た辺りからわかりやすく尾けられている気配があった。そういうのに慣れていない私でも気づけるくらいなのだからその程度が知られる。

 試しに人通りの少ない裏路地に入ったらすぐだった。

 頭に向かって振るわれた角材を屈んで躱す。


「――くそ!」


 それは壁に当たって半ばから折れる。

 悪態を吐いた男の声だったが、それ以上に文句を言いたいのはこちらだ。

 角材が折れるくらいの勢いで人を殴ってどうするつもりなのか。

 振り返るとわかりやすく狼狽える男が居た。キョロキョロと周囲を見渡し、新たな武器を探しているのか仲間を探しているのか。

 これだけで簡単に狼狽えるとは、戦闘慣れしていないのがわかりやすかった。だからこそ手加減なしで角材なんか振るえたのだろうか。

 同業者には見えず、襲って来たとは言えダムネシアは使えないだろう。

 拳を握り、無防備な腹へ叩き込む。


「ぐほぁ!」


 確かな手応え。

 そのまま白目を剥いて男は地面に倒れる。

 とりあえず手足を縛ってから襲って来た理由を聞くことにしよう。この町には訪れたばかりで、襲われる理由がないこともないが荷物を届けたのはついさっきだ。

 レジスタンスに更に反抗する者達が居たとしてもそれが理由で襲われはしないだろう。

 何か縛る物はないかと周囲を見渡した時、


『後ろだ!』


 ダムネシアの声に反応して振り返ろうとした時、腕が掴まれ、羽交い締めにされる。

 抵抗しても、一向にその手は振り解けない。


「あんたら――!」


 そのまま口も塞がれ、何か袋を被されて視界も奪われる。

 そして頭部を殴られ、私は意識を手放した。

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