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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第3章:守るべきもの
30/54

3-2

 キリコのその声はキーンと突き抜けるように耳から頭をつんざく。


「うぁっ!」

「っくぅ……!」


 耳から針を突き入れられて脳みそをかき回されるような感覚だった。それがずっと続いている。キリコは息継ぎも必要としないようにいつまでも続いた。

 そんな中でもダムネシアを手放さなかったのは訓練の賜物である。

 ダムネシアを握ってさえいれば、もしもの時にはダムネシアが私の体を動かしてくれる。なので何が起きてもダムネシアだけは手放さないように気をつけていたのだ。


『離れるぞ』


 耳を通して聞こえているわけではないダムネシアの声は、キリコの叫び声の中でもいつも通り明瞭に聞こえていた。

 距離を取るように後ろへ跳ぶが、キリコの声が弱まる気配はない。

 揺れるどころではない。それこそ見える世界が変わるほどに視界は歪んでいた。

 その中で周囲を見渡すと、ガイザールも同じように頭を抱えてうずくまっていた。眠っている御者二人は起きる気配がない。地竜も二匹とも、何が起こったのかわからないようにうろたえている。

 十中八九、私とガイザールだけを狙った魔法である。


「なら……!」


 キリコが声に魔力を乗せているのであれば、その魔力さえ抑えればただの不快な声だ。つまり耳を魔力で覆うなりすれば多少はマシになるはず。

 しかしこの状況でイメージに集中するのは至難の業だった。

 苦しさだけが募っていき、段々と意識がボンヤリしていく。


「ダムネシア、お願い……」

『任された』


 苦し紛れに耳を押さえていた左手も外され、ダムネシアに添えられる。考えてみれば音自体ではなく魔力に問題があったのだ。耳を押さえていても無駄だった。

 そしてすっかりダムネシアに委ねた私の体は滑るように地面をかけると、下からキリコを切り上げた。

 それは羽ばたいたことで躱される。しかし一瞬だけキリコの声は止んだ。

 その隙に耳の中を魔力で栓をする。そしてダムネシアに預けていた私の体を戻す。

 飛び上がったキリコにダムネシアは届かない。振り上げたままの体勢で飛び上がる。それでも更に高度を上げたキリコには届かない。

 しかし、


「ギャアッ!」


 こちらの動きを止めるための叫び声ではない。痛みに悶える声だ。

 地上のガイザールによって投げつけられた剣が、キリコの翼に突き刺さったのだ。

 ここ数日、何度も一緒に戦ってきたのだ。ガイザールと私はもう一心同体と言っても過言ではない。戦闘に関しては何をしたいのかが互いに理解できる。

 ガクンとキリコの高度が下がった。そこにダムネシアを叩きつける。

 空中では力を完全に加えることはできない。それでも十分な威力はあったはずで、それを受け止めたキリコの方がおかしいのだ。

 ダムネシアを掴んだままキリコは器用に体勢を入れ替え、そのまま振り回された私は地上に向けて叩きつけられた。

 予想よりも痛みが少なかったのはガイザールの上だったからだろう。

 ガイザール諸共転がり、途中で私だけが放り出された。


「ありがとう!」

「気にするな!」


 土だらけになりながらようやく起き上がる。

 ガイザールは今武器を持っていない。そんな所を襲われればひとたまりもないだろう。

 そしてその予想は当たっていた。


「ぐあああああ!」


 起き上がった私が見たのは、飛んで来たキリコを受け止めるガイザール。そしてその首に噛みつくキリコだった。

 すぐに立ち上がる。

 ピンチだが逆にチャンスでもある。

 首元をまともに噛みつかれてはガタイの大きなガイザールでもただでは済まないが、武器を持たずともちゃんと抵抗している。その傷は浅いはずだ。


「そのまま!」


 下手にガイザールが動くと、ガイザールごと切ってしまうかもしれない。

 キリコも迫る私に気づいたようだが、そこはガイザールがガッチリと逃がさないように掴んでいる。

 まずは翼を狙って飛べなくさせる。


「ギアアアア!」


 ガイザールの剣が突き刺さったキリコの左腕を切り落とす。

 キリコは最後の力を振り絞ってガイザールから離れ、私は切り落とした翼をガイザールの方に蹴り飛ばす。そしてガイザールはそこから剣を取り戻した。

 片方の翼だけではキリコも飛べないようだ。

 隣で起き上がったガイザールと目を合わせ、うなずく。


「いくぞ!」

「合わせるよ!」


 ガイザールが飛び出す。

 その剣がキリコの腹に突き刺さり、今日一番の叫び声を上げさせる。そのままガイザールは頭を下げる。

 そこをダムネシアが通り過ぎ、キリコの首を刎ねた。


「……だ、大丈夫ですか?」


 あれだけキリコが派手に暴れれば、流石に御者の二人も目を覚ます。

 落ち着いたところで馬車の陰から二人揃って顔を出した。


「何とか魔物は倒しました。でも、ガイザールが怪我をしたのでもう一度火を熾してもらえますか?」


 うなずくと、二人は協力して火を熾す。

 その明かりの下にガイザールを寝かせる。


「大丈夫?」

「意外と浅くて助かったぜ……」


 と、ガイザールは言うものの、ちゃんと血は流れている。それでも肉が抉れているほどではなく、噛みつかれているのを見た時の衝撃に比べれば浅く感じられる。

 切り落としたキリコの口元を見ると細かい歯がびっしりと並んでいる。これが少しでも長い物が混ざっていたらもっと酷かっただろう。


「コレを使ってください」

「いや、でも……」


 御者は運んでいた荷物の中から道具を取り出す。

 私もガイザールも多少は手当の道具を用意しているが、それだけでは足りない部分もあるのだ。

 しかしこの荷物は御者自身の物ではなく依頼主の物。

 勝手に使って良いはずがない。


「大丈夫ですから」


 それでもこうして押し切られれば使わないわけにもいかなかった。

 実際、明日には町に着くといってもガイザールの傷を放置して良い理由にはならない。応急処置でも万全にできるのならそれに越したことはない。

 これくらいなら後から弁償もできる。

 そう思い直して応急処置を終わらせる。


「うん。ありがとうな」

「これから町まで何もないと良いですけど」


 魔物に襲われた場合は私一人で対処しなければならないだろう。

 ガイザールも動けないほどではないが、首元の傷ということで安静にさせたい。

 町の近くなので心配はないのだろうが、そんな所にキリコが現れたせいで不安がかき立てられる。

 結局、その後の見張りでもずっとソワソワしていて、いつも以上に疲れた気がした。

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