2-12
ライラと待ち合わせをしていたが、その時間までは決めていなかった。
午前中は何となくダラダラと過ごし、お昼ご飯を食べがてらギルドでライラを待つことにしよう。
そう思っていたのだが、
「遅い! 遅いぞハーニー!」
扉を開けてすぐに呼ばれる。ガヤガヤと賑やかなギルド内でも、ライラの声は良く通った。
そちらへ目を向けると、ライラとジリが席に着いていた。ジリの方はどこか疲れているように見えた。
ライラは少し酔っているのだろうか。
「遅いよハーニー……。こっちは疲れてるのにさ」
「ゴメン。久しぶりだね」
仕事の報告に来たら朝から待っていたライラに捕まって、そのまま今までずっと付き合わされていたのだろう。
グッタリとした様子のジリはめずらしくお酒の一滴も飲んでいなかった。それほど疲れる仕事だったのだろう。
付き合わせたのは私じゃないし、明確に時間も伝えられてなかったのでこの時間になるのも仕方ないのだが、少し申し訳ない。
「とりあえず無事で良かったよ。じゃあウチは帰るから」
「うん。お疲れ様」
ジリもきっと私のことを心配してくれていたのだろう。短い言葉にもそんな気持ちが込められているように感じられ、言葉が短いところがジリらしかった。
そんなジリがギルドから出て行く背中に疲れが滲んでいるようだ。
心配だが明日には元気が戻っていることだろう。
「で、話って何?」
「ハーニーに頼みたい仕事があってさ」
そう言ってライラは懐から依頼内容の書かれた紙を取り出す。
本当であればボードに貼られた依頼を自分でキープするのは認められていないが、何か事情があって認められたのだろう。
ライラならこれくらいの我が儘も通せそうな気がする。
「隣にある国のハルアまで荷物を届ける依頼。まぁ、運び人が別で居るみたいだから実質護衛依頼だね」
「護衛依頼かぁ……」
ウロンの件から少しトラウマになっている自覚がある。
また失敗するんじゃないか。また誰かが死ぬんじゃないか。
あんなことが早々起こるはずないとわかっていても、どこか怖かった。
「今回は荷物の方が大事だから最悪それさえ無事なら依頼は成功だ。そこまで気負う必要もないぜ」
だからと言って割り切れないし、運び人を守らないわけにもいかない。
依頼書をよくよく確認する。
運ぶのは竜車で二台分。結構な量だ。雇う冒険者は二人。そして報酬は相場よりも少し高い。ちょっと不安のある道中なのか、それとも依頼人の好意なのか。
目的地が目的地なので前者の可能性が高い。
「これ……受けて大丈夫なやつなの?」
ハルア国は数年前にクーデターが起き、それから少々きな臭くなっている国である。
運ぶ物によってはろくなことにならないのは想像に難くない。
「……正直に言っちゃうと、よろしくはないやつだな」
「どういう所が?」
「届けるのは食料や医療器具、薬。あとちょっとの嗜好品。届け先はハルアでそれなりの資産家だけど実はその人が反政府組織の一員なんだ」
最後に「秘密だぜ」と周囲の目を気にする。
頭が痛くなってきた。
冒険者はギルドに属して国に属さず。
お金で雇われるからこそ常に中立の立場に居て、国と国との争いに介入しないのが原則だ。そうでなければ金に物を言わせて大量に冒険者を雇って戦争でもしかねない。
この依頼も届け先の人物が反政府活動家で、届けた物資の使い道がそうだろうと想像できれば受けることはできない。
しかし、
「何で私にこの依頼を持って来たわけ?」
ライラが何の考えもなしに私にこの話を持って来るとも思えなかった。
「ちょっとしたお節介かな」
「お節介? これが?」
「いや、ハーニーに対してのじゃなくて……ハーニーに対してのでもあるんだけど……。前に別の依頼で知り合った人が居てさ。まぁ、ハーニーにとっても悪い話じゃないのは保証するぜ」
こうして歯切れの悪い時のライラは突っ込んだとしても核心を話してはくれないだろう。
届け物がわかりやすく武器とかであればもしもギルドにバレた時が怖いが、届け物が届け物なのでしらばくれておけば大丈夫だろう。実際、こうしてライラに聞くまでは活動家ということを知らなかったのだから。
加えて、ハルアの政府については良い噂を聞かないので気持ち的には若干、反政府寄りにもなっていた。
『私は受けた方が良いと思うぞ。勘だがな』
悩んでいると、ダムネシアから声をかけられる。
こうしてダムネシアが依頼について何か意見を出してくることはめずらしい。そしてそのダムネシアが言うのなら、
「……わかった。受けてみるよ」
結局、ダムネシアの一言が後押しとなり、私はこの依頼を受けることにした。
向かう先が先なだけで、それ以外に目立つデメリットはない。隣国なので最悪どうとでも戻って来られる。
ライラの顔を立てる意味でも、受けた方が良いだろう。
「そっか。ありがとう。この埋め合わせはいつかするな」
「良いよ、そんなのは」
依頼書を受け取ってカウンターに持って行く。
「ライラさんが持ってたやつですね。不安そうな顔ですが、何か心配なことでも?」
「そのライラから紹介されたって言うのが不安かな」
受付嬢は笑いながらも、受理してくれた。
そしてライラに一言かけてからギルドを出る。
ギルドの裏手には空き地があり、冒険者達の練習場所として人気である。それが幸運にも、今は誰も居なかった。
「ダムネシアにしてはめずらしかったね。何かあったの?」
『そういうわけじゃないがな。本当に勘だ」
「そっか……」
グレーゾーンな依頼内容。普段はこういうことをしないライラからの紹介。ダムネシアの勘。
心配なことはいくつもあった。
しかし受けてしまった以上どうこうできるはずもなく、覚悟を決めるしかなかった。
ちょーっと迷いましたがここで第2章完結です!あと1つか2つくらい章を立てて完結予定でしょうか。
そして次回からようやく新しい話として投稿ができる……。
ブクマや感想をいただけますと作者は泣くほど喜びます。
厳しい意見は3日くらいかけて美味しく調理してからいただきますのでお手柔らかに。




