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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第2章:泣き虫な私とダムネシア
27/54

2-11

 ライラは力強く踏み込んで来た。この前戦った時のように様子見はしない。最初から本気を出すような勢いだ。

 ライラのことだ。開始の合図なんてないだろう、と思ってはいたがいきなり来るとは思ってもいなかった。

 前回のようにまた分身を出すものだと思っていたのだがそのアテは外れた。

 しかし私だって今までの私ではない。ダムネシアとの連携もこれまで以上に練習していた。

 ライラの振り下ろした魔剣アルソンをダムネシアで受けようと構える。しかし、完全にタイミングを捕らえたそれはスルリとダムネシアを通り抜け次の瞬間、私の腕が切りつけられた。


「な!?」


 不可解な現象に後ろへ跳んで距離を取る。

 考える時間を与えてくれるかのようにライラからの追撃はなかった。

 受け止めたかと思った魔剣アルソンの刃は、打ち合うことなくダムネシアを通り抜けた。しかしその通り抜けた刃に切られたわけではない。

 瞬間は見ていなかったが、通り抜けた刃は左腕まで達していなかったように思えた。

 左腕の傷は浅いが、だからといって放置できる物ではない。


「ダムネシアは何かわかった?」

『魔剣アルソンから魔力の流れは感じた。だが、いつの間にか周りに魔力が満ちている。そのせいでハッキリとは感じられないな』

「……本当だ」


 言われてからようやく、周囲の空気に魔力が満ちているのを感じる。そういえば前回ライラと戦った時も空気中の魔力濃度が高かった気がする。

 となれば、十中八九アルソンの能力に関係していることは間違いない。

 分身。見えない斬撃。二つの共通点が見つからない。アルソンの能力にしろ、全く別の二つの能力を持つなんてことはないだろう。

 しかしただ立ち止まっていることはできなかった。

 ダムネシアと一緒にライラに向かって駆け出す。ただの身体強化でも、走りやすいようにダムネシアがバランスを取ってくれているお陰で私は他のことに集中することができた。


「――おっと危ない」


 振り下ろしたダムネシアはアルソンによって受け止められ、甲高い金属音が響いた。

 これだけの質量差のある剣で受け止められたのは驚きだが、相手がライラだと思えばそんなことで一々驚いていられない。

 押し潰すように力を込める。危なげなくダムネシアを受け止めたライラだったが、ジリジリと押し込めている。

 その間、見えない刃で攻撃されることはなかった。


「刃が増えていたわけではない……」

「さぁ、どうだろう?」


 ライラの表情から余裕は消えない。

 見えていたアルソンがすり抜けたことから、幻覚の類いだと考えていた。見えない斬撃も本物を隠していたからだと。

 つまりこうして本物のアルソンがある内は見えない斬撃は来ない。

 しかし前回戦った時の分身には触れもしたし、攻撃も受けた。単純に幻覚で分身したように見せていたわけではなさそうだ。

 どちらにしろ、まだまだ判断材料は足りなかった。

 ライラはいつだって余裕の表情で、常に切り札を何枚も持っているような不気味さがあった。

 対する私はダムネシアと協力しての力押ししか能はなく、このまま鍔迫り合いを続けていても勝てる見込みはない。

 無防備な腹を蹴る。


「うぐっ――!」


 顔をしかめるライラ。

 僅かに開いた距離を詰めるようにしながら、その勢いのままにダムネシアで切り下ろす。

 しかしその瞬間、ライラの姿が消えた。


「もう!」


 我ながらこうも搦め手に弱いとは思ってもいなかった。

 余程強い魔物でない限りは分身したり姿を消したり、そもそも頭を使わないのだ。猪突猛進。ただ私に向かって攻撃して来るだけ。

 そういう意味ではライラとのこの勝負も無駄にはならない。少なくとも、私の弱点がわかったのだから。

 目を凝らすが、ライラの姿はまったく見つからない。

 その時、


『後ろだ!』


 声に反応してその注意を飛ばしてくれたダムネシアを咄嗟に間に挟む。

 そこの衝撃が走り、一拍置いてライラの姿が浮かび上がった。


「すごいぜハーニー! どうしてわかったんだ?」

「……秘密です!」


 寸前でダムネシアが魔力を読んでくれたのだろう。お陰で助かった。

 しかし追撃は華麗に避けられる。

 縦に横に斜めに。突いたり切り上げたり薙ぎ払ったり。それらすべてをヒョイヒョイと躱していくライラ。

 ダムネシアと協力することで、身体強化の魔法の出力が上がっている自覚はある。それでもライラには届かなかった。

 その表情が余裕とは別の色に変わっていく。


「すごいなハーニー! この何日かで何が変わったんだ? 大きい口を叩くだけあるぜ」


 喜色満面の笑みで言い放つ。

 ゾクリと背筋が粟立ち、私がこれまで本気だと思っていたライラの実力でさえ本気でなかったのだと改めて気づく。

 距離を開け、あたかも騎士のように魔剣アルソンを構えているライラ。

 気圧され、そこにほんの一歩も踏み込むことはできなかった。


「話したいことがあるからさ、明日またギルドに来てよ」

「今日じゃダメなの?」


 日はまだ高い。

 ライラに負けて休憩を挟んだとしても話す時間はたっぷりあるはずだ。


「今日中には動けるようにならないんじゃないかな?」


 アルソンから煙のような物がもの凄い勢いで放出され、私達の周囲を覆っていく。

 ライラの言葉の真意がわかってしまい、思わず笑ってしまう。

 今の私ではライラには勝てない。それでもただ大人しくやられるつもりはなかった。




「ダムネシアは魔剣アルソンの能力に見当ついてる?」


 ライラの言っていた通り、目が覚めてすぐに動くこはできなかった。そして目が覚めた時にはすでに夕暮れ。

 町に入ってすぐの所に寝かされていた。

 そこから何とか家に帰るともう夜だ。


『幻だとかそういう類いだと思うがな……』


 風呂に入って寝る前にダムネシアと話す。

 ご飯を食べながらだとか、ついでに話すことも多いがこうしてダムネシアとコミュニケーションを重ねていく度に戦闘でも息が合っていくような感じがしていた。


「でもそれだと最初に戦った時の説明ができないんじゃない? ちゃんと切った感触も触った感触もあったよ」

『それすらも幻覚だったのかもしれないがな』

「いくら何でもそれはあり得ないでしょ。ただの武器がそこまで……」

『それができるから魔剣なんだよ』

「あー……」


 言葉を失うとはこのことか。

 私が普段接しているのがダムネシアだからか、魔剣に対してどこか見くびっている所はあるのだろう。

 考えてみれば、死者を蘇らす魔剣リレナートだとか、魔力を流すほど切れ味が増し、空間を裂くとも言われている魔剣ランダムード。

 それらと同じ括りで見れば幻を発生させることに特化していたとしてもおかしくはない。


「ダムネシアは他の魔剣のことは知らないんだよね?」

『ああ。と、言うよりはハーニーと出会う前の記憶がないな。持ち主が変わる毎にリセットされているのだろう。そんな感覚だ』


 前に他の魔剣のことを知らないと言っていたのもそういうことだろう。

 厳密には違うが記憶喪失仲間として良くわからない親近感が湧いてくる。


「……どちらにしろ、ライラに直接聞かないとわからないよね」


 本や人から聞いた能力は伝聞で、私が実際に体験したのも予想でしかない。持ち主本人じゃないと正確な能力はわからないだろう。

 その本人ですら、すべてを把握しているかはわからない。

 私なんかは未だにダムネシアについてわからないことの方が多いと思う。

 こうして意思を持って話すのが特徴なのか、他に隠している能力があるのか、それすらわからないのだ。

 しかしそれで良い気がする。

 ダムネシアは私の武器ではなく相棒で、友達なのだ。

 自分の能力について何も言わないということはまだその時ではないのだろう。もっと強くなったらダムネシアがタイミングを見計らって教えてくれる。そう信じていた。


「ふわぁ……。もう寝ようか」

『ああ。おやすみ』


 ダムネシアが汚れないように布で包み、壁に立てかける。

 そういえば、ダムネシアが眠っているのかどうかも私は知らなかった。

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