2-7
オーガとは一言で言ってしまえば強いゴブリンだ。薄汚い肌に多少の知性。武器を使うこともある。
似ているのはこのくらいか。
ゴブリンの二倍から三倍はある体格で、腕力は数倍。群れで暮らすゴブリンと違って多くのオーガは一体で暮らしている。
しかしその強さはゴブリンと比べるまでもない。
一体のオーガでゴブリンの巨大な群れも壊滅させられるだろう。
そんな恐ろしい魔物が目撃された。
とは言え人の手に収まる程度の魔物であり、グリズリーとどっこいどっこいと言ったところか。なので私に御鉢が回って来た。
私は未だに、ライラの問いに答えを出せないまま冒険者を続けている。
「何か感じる?」
『強い魔力があるな。きっとオーガだろう』
「じゃあ、気合い入れなきゃね」
目の前にはどこまでも続いていそうな洞穴がある。
ここら辺で見かけない魔物が見つかった時は大抵、この洞穴がねぐらに使われ、オーガもそうしているみたいだ。
途中で折れ曲がっているのか、奥まで見通すことはできない。数歩進めばすぐに真っ暗なので、用意していたライトに灯りを点す。
上下左右に手を広げても余裕があるほどに巨大だ。ダムネシアを振るのにも支障はない。
オーガも私達と同じように、夜目が利くタイプではなかったはずだ。昼寝でもしているのならありがたいのだが。
「ウゴォォォォォォォ!」
緩みきった私の気持ちを再び引き締めるような太い叫び声。
暗い洞窟の中で灯りを持って歩いているのだから、見つかるのは当然の話だった。
しかし身構えても一向にオーガが向かって来る気配はない。
「このまま進んで大丈夫かな?」
『片手が塞がっているからな……。どうにかして外まで誘き寄せたいが……』
今この瞬間に襲って来ないのだ。そう簡単に追いかけて来るとは思えない。さっきの吠え声も、こちらを威嚇するだけの物かもしれない。
と、なると、
「怪我をして動けないのかもしれないね」
それならば千載一遇のチャンスである。
ランプで片手が塞がっていてもあるいは、なんて考えてしまう。
『甘く考えるな、と言いたいところだが……。実際に様子を見ないことには何とも言えないな』
先ほどダムネシアが言った通り、外で戦うのが一番には違いない。
しかしこちらへ近付く気配はなく、やはり奥に居る魔物がどんな状態なのかは確認せねば話にならない。
そもそも、奥に居るのが本当にオーガかどうかもまだわからないのだ。
ダムネシアを抜き、慎重に歩みを進める。
一度あった吠え声も、二度目はない。それが妙に不安をかき立てた。
「居たよ……」
角を曲がったその奥に、あぐらを組んで息を荒くしているオーガが居た。
赤黒い肌に、ゴブリンに似た醜悪な顔。しかし腕の一本、足の一本がゴブリンほどの太さがあり、舐めてかかれる相手でないのはすぐにわかった。
ただ、その全身は血に濡れている。
『手負い、か……。油断するなよ』
「わかってる」
窮鼠猫を噛むと言う。
しかし、この場で戦うということにダムネシアは反対しないようだった。
邪魔にならない位置にランプを置く。光源としては心許ないが、身体強化の魔法を使って補う。
オーガの側には簡素な石斧が置いてある。私がダムネシアを構えてもそれを手に取るような動きはない。
私程度の武器は必要ないということか。それとも武器を手に取る気力も残っていないのか。どちらにせよ、警戒はしておくべきだ。
「いくよ!」
『ああ!』
私の発動する身体強化の魔法が、ダムネシアの力を借りて更に出力を増していくのがわかる。
ライラと戦って手も足も出なかったあの日から何度も練習していた。
普通に走れば数秒かかる距離を一瞬で詰める。
『止まれ!』
ダムネシアからの注意と、私が足を止めたのは同時だった。
急停止した私の鼻先をオーガの石斧が掠める。
あのまま進んでいたら、と冷や汗が流れるが、オーガの不意打ちにも気づくことができた。注意していればそう恐れることはない。
停滞は一瞬で、すぐさま攻撃を続行。両手で握り直したダムネシアでオーガを突く。
しかしそれは簡単に躱されてしまう。
一瞬で天井近くまでジャンプしたオーガは、壁を蹴ってこちらへ突進してくる。
見た目からは想像できないほどに素早い動き。手負いとは思えないほどにアクロバティックな動きだ。
横に振るわれた石斧はダムネシアで防ぐ。
ガキン、と嫌な音を立ててオーガの石斧が砕け散った。
「ダムネシア、大丈夫?」
『問題ない』
魔剣とも呼ばれるダムネシアだ。そう簡単に傷つくことはないだろう。それでも心配になり、大事なさそうなダムネシアの言葉に一安心だ。
しかしオーガの手斧だってそんなに柔な作りではないはずだ。
それがたった一撃で壊れるとは。
オーガの腕力が恐ろしかった。




