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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第2章:泣き虫な私とダムネシア
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2-4

 剣術大会を見るのは始めてのことだった。

 簡易的に作られたステージ上で二人の男が向かい合い、木剣が金属の鎧を打つ鈍い音が何度も響いていた。

 私は、剣術も魔法もあまり好きではないのだが、そんな私に我慢ができなくなったお父様がほとんど無理矢理に連れて来たのだ。

 他の人の剣術を見せて、私にもやる気を出させよう、という魂胆なのはわかっていた。

 まぁ、大会を眺めているだけで今日の勉強がなくなると言うのなら、それぐらいはしよう。


「勝者はヘリック殿!」


 歓声が上がり、続いて呼ばれる名前。

 呼ばれた男――ヘリックは、嬉しさを隠せない真剣な表情で私達の方へ一礼する。そして、私やお父様。周辺の地域を治めてこの剣術大会の主催者でもあるボル卿がお辞儀を返すと去って行った。


「いやはや。あれだけの強者が居るのならフェルドラットも安泰ですな、ボル卿」

「ありがとうございます。しかし国境を守るフィプルース卿の兵士には敵いませんよ。どうですか? 今なら飛び入りでも間に合わせますから参加させては?」

「ご冗談を。あの者と戦わせては帰り道で使い物になりますまい」


 なんてことを言いながら大人達は笑っている。

 確かに、お父様やボル卿が言うように先ほどのヘリック殿は素晴らしい剣技を持っていた。

 一朝一夕で身につく物ではなく、日々の弛まぬ努力の成果だろう。あれを見て次は自分も、と奮起する物は少なくないはずだ。

 もちろん、私はその中に入らないが。

 ただただ興味のない試合を見ながら、退屈にため息を吐くだけの時間である。

 剣術も魔法も、どうして自分が傷つくようなことをするのだろうか。

 痛いのも怖いのも私は嫌いだ。


「しかしお嬢さんにここは退屈ではないのですか?」

「この子は剣術も魔法もサボってばかりでして……。良い刺激になれば、なんて思ったのですが……どうだハーニー。彼らは皆、素晴らしい剣士だろう?」

「はい。私も緊張してしまうほどの技ですね」


 急いで姿勢と表情を正して答える。

 奥に座っていたボル卿は「できたお嬢さんですな」なんて笑っていたが、心にもないことを言っているのはお父様にはバレているだろう。

 少し残念そうな顔だ。

 申し訳ないが、私はやっぱり剣を振るうよりも本を読んでいた方が楽しい。

 お母様の体が弱く、一人娘の私は健康で怪我なくあって欲しい、なんて気持ちもわからないでもないが、何も剣術や魔法の勉強をさせる必要はないのではないか。

 それらを息子に習わせている貴族は多い。と、言うよりも貴族の息子は全員、多少は戦う術を持っていると言っても良い。

 しかし娘にまで習わせているのはお父様くらいではないだろうか。

 お父様は私を、病気だけでなく領内の魔物とも戦わせるつもりなのか。最近はそう思えて仕方がない。


「続いてはオレンジ殿とケイン殿」


 呼ばれてステージに上がったのはどちらも私と同じくらいの子。


「見ろハーニー。お前と同じ女の子だ」


 お父様の目的はこの子か。

 私と同じ年頃の女の子が勇猛果敢に戦っているを見ればやる気を出す、とでも思っているのだろうか。

 それでも、いったい何者なのか、と気になった私は、まんまとお父様の策に乗ってしまった。




「素晴らしい大会だったな」


 帰り道でいつ切り出すかうずうずしていたお父様はようやく口を開いた。

 きっとここから、私の習い事にどれだけの意義があるのか、なんてお説教が始まるのだろう。


「そうですね……」


 隠していたお父様の意図や私の気持ちは別として、今の言葉は偽らざる本心だ。

 大人達の決勝戦の前に行われた青少年の部。そこに唯一女の子で出場していたニスル・オレンジ。優勝まではできなかったものの、誰の目にも留まるような力量を持っていた。

 だからこそ、


「何度も言ってますけど、やっぱり私には剣術は向いてません。私は……あんなに強くはなれないです……」


 彼女の剣は美しく、そして強かった。もちろん、他の出場者も同じ年頃とは思えないほどだ。

 好き好んで習っていないとは言え私だっけ剣は教えてもらっていて多少の自信もある。しかしそんな私のちっぽけな自信なんて、真面目に剣術に取り組んでいた彼らからしたら道端の小石にもならないほどでしかない。


「参ったな、逆効果だったか……」


 呟いた後、しばし考え込む。


「ハーニー……。私は何もお前に、剣術の王者になれ、だなんて言うつもりはない」

「でも、いつもいつもうるさく言ってきますよね?」


 もっと真剣に、だとかそれではそこらの野盗崩れにも負ける、だとか。

 私に強くなれ、と日々言い、たまに剣術大会への出場も勧めておきながらそれはないだろう。


「それはそうだが……。それには訳があるんだ」

「訳、ですか」


 悩ましげだったお父様は、諦めたようにため息を吐くとその表情を一変させた。


「お母様の体が弱いのは知っているよな?」

「はい」

「あまり激しい運動のできない彼女だ。もしもの時は誰かが守ってやらなけらばならない」

「だから私が守れ、と? 何のためにメアリーが居るんですか。他にも……」

「わかっている。だがもしもの時……もしもお前が一人になったら誰がお前を守るんだ! 私がそれが心配なんだ。ナニの体が弱いからこそ、ナニを守れる人間は一人でも多い方が良い」


 言葉を句切り、


「私だってハーニーを一人、危険の中に置いておこうとは思わない。お母様ももちろんそうだ。だが……もしものことを考えたらやはり、お前にも戦えるようになっていて欲しいんだ」


 いつになく真剣な表情だった。日頃、真面目に勉強しろ、と言っているお父様の表情とは違う。

 そして、初めて聞いたお父様の本心。

 私は、何も言い返すことはできなかった。

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