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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第2章:泣き虫な私とダムネシア
19/54

2-3

 さっきまでのが本気じゃなかったのはわかっていた。全員がライラにしては稚拙な連携だったからだ。

 そして本気の宣言をしたライラは、文字通り動きが変わった。

 九人が一斉に飛びかかって来る。しかし同時に襲って来ても攻撃まで九つ同時にとはいかない。

 弾き、避け、受け止める。

 眠っているドラゴンの横から卵を盗み出すように神経をすり減らす作業だった。

 ほんの一瞬でも気を抜けば終わるような。

 九、十八、二十七、と何度も何度も襲い来る刃をやり過ごす。ジリジリと後ろに下がってしまうのは自覚していたが、中々この連携に踏み込むタイミングが掴めないのだ。

 唐突に、下げた右足を違和感が包む。

 重みが増したような、痺れたような不思議な感覚。

 見ると、右足の先がライラの生み出した霧に突っ込まれている。この違和感の正体は霧だった。いつの間にか端まで追い詰められていたことに驚く。


「ちょ、っと待っ――!」


 霧から足を引き抜き、顔を上げた時にはすでに、すぐそこにまでライラが迫っていた。

 右に左に上に下。こちらを翻弄するように素早く位置を変えながら攻撃を仕掛けて来る。

 さっきまで何とか目で追えていたので凌げた。しかし一瞬とはいえ目を離してしまい、その隙に全員がグルグルと入れ替わるように動かれては誰が攻撃をするのかもわからない。

 これがそれぞれ別の九人なら判断もつくだろう。

 しかし丸っきり同じ九人が迫って来ると、頭の処理が追いつかない。


「これで終わりだね」


 囁くように聞こえたのはこれまでと違ってたった一つの声。

 そこにライラ本人が居るはずだ、とダムネシアを突き出した先に居たライラがまたもや魔力の塵となって消える。

 そして私には、計八つの刃が刺さる寸前で止められていた。

 頭に一つ。腹に二つ。脇に三つ。そして両の足に一つずつ。


「甘いぜハーニー。そんなんじゃ魔剣が泣くよ」


 冷や汗が流れ落ちる間にライラは武器を引き、一人に戻る。


「……魔剣って何のこと?」


 唐突にかけられたライラの言葉に、私はとぼけることしかできなかった。

 ダムネシアのことを魔剣だと知ったのはついこの間。リツにも話していないし、他の誰にも言っていない。それをなぜライラが知っているのか。

 警戒心が跳ね上がる。


「私も魔剣を持っているんだぜ? 何となく雰囲気でわかるんだ。それがどの魔剣かまではわからないけどな」


 一拍置いて、


「でも隠そうとするのは正解。魔剣を持ってると色んな人からモテるんだぜ。もしかしてそれを望んでたりする?」


 首を横に振る。

 ライラの言うモテるが、そのままの意味のはずがない。たまにギルドの中で偉そうな人と話しているのを見るが、そういうことだろう。

 今この瞬間にも実感しているが魔剣の力は凄まじい。十人に分身するのも、魔剣アルソンのまだまだ序の口だろう。

 魔剣はそれ一本で一国の軍隊に匹敵する、とまで言われているのだから。

 ダムネシアがそんな大層な物には思えないが。


『何か失礼なことを考えたな?』


 無視する。

 そんな魔剣の持ち主を自分の陣営に加えたいというのは、政治に携わる人間なら誰しもが思うことだろう。

 敵なら怖い。味方なら頼もしいのが魔剣だ。

 しかしライラはずっと冒険者として、政治に関わったことはない。担当の人は毎日美味しい物を食べさせれば協力してくれるのを知らないのだろうか。


「魔剣を持つなら魔剣に相応しい使い手じゃなければならない。ただの盗賊に遅れを取っていちゃ情けないぜ」

「……ただの盗賊じゃないのに」


 確かに、崩壊した地盤からは盗賊の死体が大量に見つかった。

 しかし私とリツが戦ったのはそういう有象無象の盗賊ではなく、もっと強い誰か。明らかに盗賊とは雰囲気の違うそいつに、私もリツも、そしてニスルも苦しめられたのだ。

 それを知らずにただ盗賊と一括りにされるのは、気分の良い話ではなかった。


「それを加味しても、だぜ? 何かあったのはちょっと調べればわかる」

「じゃあ……ライラならあいつに勝てたって言うの? ニスルを殺したあいつに!」

「勝てる」


 即答されて言葉が出て来ない。

 ライラならあるいは。

 いや、ライラでも無理だ。

 そんな相反する二つの考えがせめぎ合い、咄嗟に返すことができなかったのだ。

 あの男に対してこちらも攻撃はできたが、終始余裕があるように感じられた。そしてライラにも手も足も出ない。

 ライラなら確実に勝てる、とは言い切れない。しかし一つわかるのは、どちらも私より強いということだけだ。

 改めて自分の実力不足を指摘され、心がくじけそうになる。


「ハーニーはどうして冒険者をやっているの?」

「どうして、って……」

「正直に言って、辞めた方が良いよ。ハーニーには向いてない」

「そんな――!」


 そんなことはない。そう言おうとしたが言葉にはできなかった。

 これまで何度も何度も魔物と戦って、何人もの人を護衛して、いくつもの素材を集めて。恥ずかしながら中堅レベルにはなったかな、と思えるくらいには依頼をこなしてきた。

 それを一回の失敗だけで向いてないと言われるのか。

 反論したかった。反論したかったがしかし、私はどうして冒険者をしているのだろうか。

 そう考えてしまって言葉が出なくなったのだ。

 お父さんが冒険者だったから。違う。

 お父様やお母様、メアリーを殺した奴らに復讐するため。違う。

 冒険者しかやれる仕事がなかったから。違う。

 考えれば考えるほど、私が冒険者を続ける理由がわからなくなっていく。


「答えが出ない内はやっぱり、冒険者としてやっていけないぜ」


 ライラが剣を構えた。

 それに対して私もダムネシアを構えるが、本当に構えただけ。そこに力は入っていなかった。


「答えが出たら続きをしよう」


 ライラの姿が消えた。瞬間、腹に強い衝撃が。

 薄れていく意識の中で聞こえたのは、


『まだ思い出せないか……。ハーニー』


 ダムネシアの声だった。

自分で書いていてここから物語が動いておもしろくなるので乞うご期待です

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