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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第2章:泣き虫な私とダムネシア
18/54

2-2

 店を出てライラが向かったのは町の外にある墓地だった。

 魔物に襲われないために、小さな村はお手製の木の柵で。大きな町は国が主導して石壁で囲ったりするのが常だ。

 そうなると土地も限られていて、墓地みたいに生きている人間に必要のない場所は町の外へ追いやられる。

 もちろんそれだけが理由でもなく、死んだ物の魂が集まってゴーストという魔物になったりもするので、そうなった時のために町から出している。この国は火葬だから良いが、土葬の文化がある場所ではゾンビも生まれるらしい。

 墓地の奥から三列目。その真ん中辺りには他の墓石よりも一回り大きな墓石がある。そこには誰の名前も刻まれておらず、誰の骨も埋まっていない。


「……ニスルは最期、どんな気持ちだったのかな」

「わかりません」


 この墓石は身寄りのない冒険者達の墓だ。どこの墓地にも大抵は無縁の人の墓が用意してあり、ほとんどの冒険者は死ぬとここに入れられる。

 なので冒険者の墓とも呼ばれ、好んでここに入りたがる者も居る。

 お父さんもそんな人間の一人なので、多分、私も死んだらこの墓に入ることになるだろう。それがいつ、どこのかはわからないが。

 ライラもまさかこんな話をしに来たわけではないだろう。

 その証拠に、少しだけ手を合わせると早々に墓地から立ち去った。

 目的の場所は近くの草原だった。遠くに街の壁も見え、街門もこちら側にはないので誰も来ない。

 風が吹き、草や私達の髪を揺らす。


「強くなるって、具体的にどうするんですか?」

「私はね、ハーニー。友達が死んでいくのが嫌いなんだよ」


 こちらの質問には答えてくれる様子がない。

 しかしふざけているようには見えず、口の挟めない雰囲気にただ、ライラが次の言葉を口にするのを待つしかできなかった。


「だから強くなってみんな私が守るんだ、なんて傲慢だよな。だからお願いだから強くなってくれ!」


 急に大声を出されて思わずライラの顔に目が行く。

 その目の端でライラが魔剣アルソンを手にして、何をするつもりなのかとそこを注視してしまう。

 そして次の瞬間に私は、十人を超えるライラに囲まれていた。

 周囲は霧のような物に覆われている。


「これだけの人数と一度に戦えば嫌でも強くなるだろ!」

「同時に喋らないで!」


 寸分のズレもなく、すべてのライラは同時に喋る。

 前後左右からまったく同じ声でまったく同じタイミングで話しかけられると頭がおかしくなりそうだった。

 しかし、さっきまであったライラのシリアスな雰囲気がなくなっていて一安心だ。

 やはりライラはふざけているくらいが丁度良い。ニスルが死んで元気がないのかと思って実は心配していた。


「雑だけど、確かに強くはなれそうね」


 戦闘の経験値だけは否が応でも溜まっていくだろう。普段の行いにそうは見えなくとも、ライラは私から見て圧倒的格上の存在だ。

 あの男と戦った時の感覚。それを思い出せれば私はまた一つ強くなれるそんな気がした。

 私も得物を抜く。


「ダムネシア……力を貸してよ」

『まぁ、そうだな。わかった』

「あんまり乗り気じゃないの?」

『ハーニーの修行だからな。手を貸して良いものか……』

「勘弁してよ」


 ダムネシアの力がなければライラに勝てるはずがない。

 しかしダムネシアの気分が乗るのをライラが待ってくれるはずもない。そもそもライラは私の剣に意思があるのを知らないのだ。

 前方右側に見える四人のライラが一斉に剣を構え、こちらへ向かって来る。それに合わせて私も踏みだし、四人のライラをまとめて薙ぎ払う。

 もちろんそれは、ジャンプされ、屈まれ、後ろに下がられ、そして受け止められて全員が無傷だ。ダムネシアを受け止めたライラを蹴り飛ばして距離を取り振り返る。案の定、残った六人のライラがそれぞれにこちらへ向かって来ていた。

 最初に四人だけが武器を構えたのもそうだが、その四人ですら攻撃を避ける時にバラバラの動きを見せた。

 つまり、本物の動きを真似ているわけではない。

 まずは魔剣アルソンの能力を解明しなければならない。

 この霧も分身も十中八九アルソンの能力だろう。


「ダムネシアは何か知ってる?」

『他の魔剣のことは知らないな』


 同じ魔剣だから、というわけにはいかないようだ。

 一人目の剣を屈んで躱し、二人目は体をぶつけて体勢を崩させる。その陰からチャンスを窺っていた三人目も合わせて倒れる。四人目と五人目は同時に切りかかって来たが、上下に迫る刃をまとめて跳ね上げる。そして最期の六人目をそのまま切り伏せる。

 唯一攻撃の当たった六人目のライラは、血を流すことも断末魔を上げることもなく魔力の塵となって消えた。


「やるじゃないかハーニー!」


 九つの声が完全に同期して私の耳に届く。

 その不思議で気持ち悪い感覚はもはや攻撃と言っても過言ではない。


「これはちょっと本気を出さないとな」

このバトルは映像で見たらおもしろいんだろうな・・・

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