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日はすっかり沈み、月明かりだけが当たりを照らす。
照らすとは言ってもほとんど暗闇と変わりなく、賢明な人間であればこんな時間に街の外を出歩くことはないだろう。
それがこんな大自然の中となれば尚更だ。
鬱蒼とした木々を抜けるとそこは、森の中にポッカリとあいたヘソのような場所だ。
ヘソという例えは、そこに木が生えてない光景を見て出た例えだったが、そこは広範囲に渡って沈み込んでいた。あたかも、例えのヘソに寄せるように。
魔力の痕跡が残っていて、ここで巨大な魔法が発動されたのは明らかだ。
「ここで良いわサイガル。下ろしてちょうだい」
そう言うとサイガルは、肩に乗せていて私を優しく掴むと地面に立たせる。そして、私が何を言う間もなく鼻をヒクつかせ、周囲をウロウロとし始めた。
ファルグ種の中でも一際獣に近いサイガルはほとんど魔物と変わらない。魔物と獣人の境目にある理性が失くなっているからだ。
口の拘束具を外したら私にも襲いかかって来るだろう。
やがてサイガルは何かを嗅ぎ当てたのか、地面を一心不乱に掘り出す。
その姿が獣に重なり、言い様のない嫌悪と愛好が心を満たす。
どれだけ掘り進めたかわからない。いつの間にかサイガルの姿は穴の中に消え、穴の底から掘り出される土だけが見えていた。
そこからサイガルが飛び出る。
「遅かったですね、ロベリア」
「あら、まずはお礼が先だと思いますが」
サイガルに続いて穴から男――コールが出て来る。
普段は汚れ一つつかない純白の服も、土に埋められては流石に泥だらけだ。
「そうでしたそうでした。助けていただいてありがとうございます、サイガル」
慇懃無礼に頭を下げられてもサイガルは無反応だ。暗闇の向こうをジッと見つめている。
「……ウロンを連れ出す準備をしている間にこんなことになって……。身代金も取れず、交渉もできず、責任は取ってくださいよ」
「わかっています。計画が動いたら人一倍働くとしましょう。あの方にもそうお伝えください」
服を叩いて土埃を落としている。
私の言葉に対して誠意は感じられないが、有言実行の人だ。そしてあの方もこの人なら仕方ない、と許してしまうのだろう。
それがどうにも腹立たしかった。
とは言え、実力的にも階級的にも私はコールに逆らえるはずがない。
「ロベリア。今の状況は?」
「デブを探しに冒険者が何人か出ているそうです。多分、明日にはここまで来るでしょう。アジトに戻るための足は準備してますのでサッサと逃げましょう」
「そうしましょう」
コールは手首や足首を回して体の調子を確かめると、何事もなかったかのように歩き出す。
土埃が服に付いていなければ埋まっていたなんて言っても信じないだろう。
やはりこの人は化け物だ。
「サイガル」
私の側までやって来て片膝を着く。それを足場にして肩に飛び乗ると、サイガルはゆっくり歩いてコールに並んだ。
「あのキャラサ種の子とは仲良くなれそうだったんですけどね……」
「つい殺してしまいました。サイガルみたいに新しく作っては? これも四人目でしたっけ?」
「サイガルは特別ですよ」
森に入る。
昼間は動き回って夜は静かに眠る生き物を狙う夜行性の生き物は多い。
しかしそんな生き物達が私の前に姿を現すことはなかった。




