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泣き虫な私が勇者になる話  作者: グリゴリグリグリ
第1章:冒険者の私
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1-7

 元々ウロンの護衛をしていた私兵と話し合い、彼らが前方。私達が後方の警戒を担当することになった。

 ウロンの乗った豪華な馬車の後ろを付いて歩くのは、私ともう一人の冒険者。宿屋でため息を吐いていた彼女だ。

 直接ウロンに認められたニスル達は、馬車の中に乗り込んでいる。


「ちょっと止めて下さいよ……」

「まぁまぁ、そう言うな」


 馬車に近付いて耳を澄ませると、そんな声が聞こえてくる。

 流石のニスルも雇い主相手にはあまり強く出られないようだ。そもそも彼女は猫を被るタイプの女であるが。

 しかしうまく躱せているのかと、少し心配になる。

 気に入られると、自分の足で歩かなくて済むし警戒をする必要もない。仕事は楽になるが道中常に一緒だと思うと羨ましいかどうかは微妙な所だ。


「何事もなく終わりそうですね」


 隣を歩く冒険者に声をかけられる。

 目的地までの道程は半分ほどを過ぎた辺りだろうか。気を抜くには少々早い気もするが、その気持ちもわからないでもない。

 ウロンの護衛をする側から言えば、最初の面接の時に選ばれて、合格者の中からウロンのお気に入りに選ばれない。つまり私と彼女の配置につければほとんど依頼は終わったのと同じだ。


「申し遅れました。私はリツ・ルイスと申します」

「どうもご丁寧に……。ハーニー・ルースフィアです」


 返事をしつつ、周囲をグルリと見渡して怪しい影がないか確認する。

 一応、馬車から離れて声を落とす。リツも私に合わせてくれた。

 ニスル達に夢中になって外のことなんか気にしていないだろうが、サボっていると思われるのも癪である。


「いきなりで失礼ですが……ハーニーさんは剣に興味があったりしますか?」

「……この剣のことですか?」


 冒険者の中にはコレクター的な人が多い。その中でもやはり武器や防具を集める人の割合は多いように思える。

 特にライラが持つような魔剣を求める人は多いだろう。

 そういう人達から見れば、ダムネシアも外見だけで特別な一振りだとわかるのだろうか。


「そうです。私、ある魔剣を探してて……。それでハーニーさんが剣に詳しいのであれば色々聞きたいな、と……」

「ごめんなさい。私、剣とかはどうでも良いんです。これもたまたまもらっただけで……」


 どうでも良い、の部分で背中からムッとしたような気配を感じたが、無視をする。

 まさかダムネシアに感情があるとは。そしてそれを感じ取れるとは。二重で驚きである。


「そうでしたか。美しい剣なのでさぞ名のある剣だと思ったんですが……」

「銘も知らないんですよね。それしても魔剣ですか……。とんでもない物を探してるんですね」

『ちなみに、私も魔剣の一つだぞ?』

「はぁ!?」


 驚き過ぎて変な声を出してしまった。隣で心配そうなリツに問題ないと伝える。

 まさかダムネシアが世界に数本しかない魔剣の一つだとは。まったく想像もしておらず、魔法がかかっているから喋れるのかな、程度にしか考えていなかっら。

 しかし改めてちゃんと考えてみると、無機物に意思を持たせて喋らせる魔法なんて聞いたことがない。その特殊性を鑑みると、魔剣と言われても納得できてしまう。

 それより、なぜそんな大事なことを今まで黙っていたのだろうか。


『知った所で何ができるわけでもあるまい。聞かれなかったしな』


 ダムネシアはこうして人の心を読んでくる割りに、気遣いという物ができないから困る。

 私だって魔剣だと知っていれば……扱いは変わらないかもしれない。

 私が落ち着いたのを確認したリツは、


「私が探しているのは魔剣リレナートです。死者を復活させる能力があると言われる魔剣ですね。名前がわかっているだけ幸運ですが……」


 魔剣のほとんどは名前が知られていない。

 周知されているのは、そういう能力を持つ剣がある、ということだけで、歴史の表舞台に出て来ない剣は非常に多いのだ。

 今さっき知ったことだがダムネシアもその一本で、『魔剣ダムネシア』の名前が広く知られていたら流石の私でも気づいていただろう。


「死者を復活、ね……」


 そんなことができれば何だってできるだろう。死んで生き返る、悪魔のような軍隊が作れる。

 しかしリツが望んでいるのがそんなことでないことくらいわかる。きっとどうしても生き返らせたい人が居るのだろう。

 お父様。お母様。メアリー。

 みんなにもう一度会いたい。会ってみんなのお陰で私は生きてこられたんだ、と「ありがとう」を伝えたい。

 しかし死んだ人を生き返らせることはできない。魔剣リレナートの能力だって眉唾物だ。

 それに、三人が生き返ったとして何を言われるのかが怖かった。当時は嫌々だったが、数多くの習い事は私が貴族の娘として立派に生きていけるように、という両親からの愛情だということはわかっている。

 冒険者になった私を見て何を思うのだろうか。

 結局私は、色々と理由をつけても死者の復活に手を出す勇気がないのだ。

 リツのことが少し羨ましく思えた。


「見つかると良いですね。魔剣」

「はい。私が冒険者になった理由ですから」


 そう言ってリツは少し陰のある笑みを浮かべた。

 悲しそうで、復活させたい人のことが本当に大切だったのだろう。


「じゃあ仕事に戻りましょうか」


 恥ずかしそうに馬車の近くへと戻って行く。

 自分語りとはその内容を問わず、往々にして恥ずかしい物だ。リツの気持ちが何となく理解できて、それがさっきまでとのギャップでどこか面白く思えてきた。

 苦笑いをしつつ隣に並ぶと、リツが真剣な表情を浮かべて馬車を見つめている。


「どうかしましたか?」


 辺りに魔物の気配はない。馬車も速度を変えることなく順調に進んでいるし、前を行く護衛の人達にも異変はない。

 まさか急に護衛依頼に気合いを入れるわけでもあるまい。


「何だか静かすぎませんか?」


 耳を澄ます。

 カタカタと車輪が鳴らす音。馬の足音。風が揺らす木々の音に、私達の装備品が出す音。

 そしてようやく気づいた。

 話を始めるまでは、耳を澄ますと聞こえていたウロンの声がまったく聞こえなくなっている。いきなり中を覗く勇気はなかったので耳を当てるが、やはりしゃべり声どころか、身じろぎをする音も聞こえなかった。

 心配そうにこちらを見ていたリツに向かって首を横に振り、そのことを伝える。

 意図を察したリツは腰元の剣に手を添えた。


「……ウロンさん大丈夫ですか?」


 数秒待つ。が、返事はなかった。再度大きめの声で呼びかけてそれでも返事はなく、私も背中のダムネシアに手をかける。

 リツに合図をしてから幌に手をやる。


「開けますからね――」


 その時、馬車が急に止まった。


「っつあ!」

「――さん、危ない!」


 馬のいななきが聞こえる。しかし体を馬車に打ち付け、痛みを堪えていた私の耳には届いていなかった。

 それでもリツの叫び声だけは聞き取れた。

 咄嗟に横に転がると、トスッという小さな音が聞こえた。見ると、地面に小さなナイフが刺さっていた。

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