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4 専属ハンター、村での生活を始める

 次の日から、なし崩し的にニール村での生活が始まった。

 俺に用意された寝床は村の北側。木製の一軒家だ。


 玄関である引き戸を開けると、正面に木張りの居間。

 中央には囲炉裏が設置されており、夜間にはこれが暖房や照明代わりとなる。

 そして居間の右手には台所。

 敷居の類は一切ない実にシンプルな間取り。

 手狭だが、人一人が暮らすには充分な広さだろう。


 唯一にして最大の問題は。

 暮らすのが、俺一人じゃないってことか。



  ×  ×  ×  ×  ×



「おはようございます……」

「ああ。おはよう……」


 この家に住みついてすでに一週間が経過した。

 俺たちは目の下に濃いクマを作って、朝の爽やかな挨拶を交わす。


「シェイバさん。今日もあまり寝てないみたいですね……」

「それはクーだって同じだろ……」


 ニール村の戦巫女、クシャマリ=ヤクト=ハルフィリア。

 愛称はクー。

 早くに両親を亡くしている彼女は現在、この狭い家屋で一人暮らしをしていた。そこに俺が転がり込んだという形だ。


 一つ屋根の下、男女の共同生活。

 そんな状況で俺が彼女に手を出さずにいられたのは、べつに俺が童貞ゆえのチキンボーイだったからというわけではなく……うん、本当にそういうわけじゃなくてネ?

 この村の戦士団長であるリオンが「手ヲ 出シタラ コロス」と殺人マシーンのような座った目で釘を刺してきたからだ。

 村で暮らしてみてすぐに察したが、どうやらあのイケメンマッチョは、このクーにお熱であるらしい。

 あの野獣みたいな体格でこんな可憐な美少女にゾッコンとは、このロリコンめ!

 まあ俺も人のことは言えないけどね!


「すぐに着替えを済ませますので。そしたらすぐに朝ごはんにしましょう」


 寝具を手早く片づけながら、クーは俺にそう言った。

 まだ関わり始めて日は浅いが、彼女は年頃不相応にしっかり者で働き屋さんだった。

 今も、俺が寝不足でボーっとしているところを、テキパキと動いて俺の分の毛布まで片づけてくれている。


 そして、彼女は年齢にしてはスタイルがいい。

 普段は巫女の装束であるらしい厚手のローブを着込んでいてわかりにくいが、寝間着の彼女は麻のような繊維でできたネグリジェを着込んでおり、未発達ながらもしっかりとくびれが確認できた。

 B? いやCかッ?

 素晴らしい、その中途半端な感じが実に素晴らしいですぞ!

 できれば中途半端なまま成長しないでいただきたい!


「あの。シェイバさん?」

「ん?」

「着替えるので外に出ていてください。ジロジロ見ないでください。視線が不快です」

「……了解しました」


 あと、ちょっと辛辣なところがあったりなかったり。



  ×  ×  ×  ×  ×



「いただきます!」

「はい、いただきます」


 クーの着替えも無事に終わって、俺たちは向かい合う形で朝食を取る。

 おっと、覗きなんて野暮な真似はしてないぜ?

 たまたま戸を一センチ足らずほど閉め損ねて、たまたまその隙間から楽園が見えたり見えなかったりしただけだ。


「なんにもない。やましいことなんてなんにもないぞ?」

「シェイバさん? さっきからなにをブツブツ言いながらニヤニヤしているんですか?」


 クーにヘンなものを見る目をされてしまった。

 いかん、俺としたことが。

 ニヤニヤにブツブツとか二大変態擬音じゃないか。お巡りさんに通報されても文句が言えないレベルだ。

 この世界で公安の役割を果たしているマッチョが不在でよかった。


「こほん。ときにクー、今日のメニューは?」

「え? あ、はい。今日は山菜入りの簡単なスープです。自信はあまりないですけど、いかがでしょうか?」


 クーは不安げな上目遣いで訊ねてくる。

 俺は、お椀に盛られたおかゆみたいなものを見下ろした。

 とりあえず、一口すすってみる。


「うん。うまい」

「っ。お、お世辞はいいです! そんなにおいしくないのは自覚してますから」


 そう言いつつも、クーの口元は隠し切れないようにニヤニヤしていた。

 俺の変態ニヤニヤと違ってこっちは国宝級に可愛いニヤニヤである。

 褒められて嬉しそうなクーにほっこりしつつも、俺は用意された木製の匙でスープを口に運ぶ。

 普通においしい。お世辞抜きにしてもだ。

 味付けは塩を少々加えた程度。派手なものではないが、山菜から取れたダシがよく利いていて、温かいスープとマッチしていた。

 ただ一つ細かいことを言わせてもらえば、中には米も一緒に煮込まれており、食感もドロリとしているので、分類はスープというよりおかゆだろう。


 ニール村の食文化は、生活様式同様に日本文化とほぼほぼ近いものがある。

 他の地域がどうなっているかはわからないけど、異世界と言えば洋風のイメージが強い。

 大きな酒場で肉や酒をかっこむなんてシチュエーションに憧れる気持ちがないわけでもないが、そこは俺も日本人である。

 長い目で見るならば、素朴ながらも馴染のあるニール村の環境のほうがいいかもしれない。


 でも、たまには肉とか食べたいな。

 ここ一週間、肉類が料理として出されたのはほんのわずか。

 一度だけスープ類の中に、おまけ程度の肉らしきものが入っていただけだ。

 確認すると、村の戦士が狩りで獲ってきた動物の肉であるという話だった。


「なあ、クー。ここの村って基本は菜食主義なのか?」

「? いえ、そんなこともありませんけど」


 俺の質問に、クーは食事の手を止めて首をひねる。


「ただ、森に住む命を無暗に奪うことは避けています。生態系が崩れては、森自体が変わってしまう恐れもありますので」

「……そんなに大袈裟なことにはならないと思うんだけどなぁ」


 現代社会のように森一つを刈り取ってまで乱獲しようとするわけでもあるまいに。

 そう主張する俺に、しかしクーは首を横に振った。


「大袈裟ではありませんよ。現に、森の動物たちは常に絶滅の危機に瀕しています」

「え? 絶滅? どうして?」

「害獣が獲物として他の生命を執拗に狙うからです」


 あー。

 そういうことか。


「他の生物が本能として当たり前に持つ『生態系を維持する』という概念は、害獣にはありません。あれらは思うがままに食い散らかし、数を増やし、ほうっておけばその地の生命を根絶やしにしてしまうことさえもあります」

「そりゃ。また随分と自分勝手な生き物だな」

「生命体として強すぎるんです。だからこそわたしたちヤクトの民は、害獣と戦うことを使命としています」


 クーの目には強い決意が宿っていた。

 使命。女の子には随分と重い言葉だ。

 そう感じるのは、俺が現代日本に生きていたゆとり世代だからなのかな。


「スープのおかわり、いいかな?」

「あ、はい。もちろんですっ」


 空になったお椀を差し出すと、クーはとたんに真面目な表情を崩して嬉しそうにした。

 やっぱり、この子はこういう自然な感じのほうが似合うと思う。



  ×  ×  ×  ×  ×



「昨日はどこまでお話しましたか?」

「ヤクトの民と戦巫女の起源については聞いたな」


 朝飯を食ったあと、俺たちは家の外に出た。

 こうして村の中を散歩しながら話をするのが最近の日課だ。

 村長のガラクいわく「まずは環境に慣れなさい」だそうな。

 この世界について何も知らない俺としても、案内付きで色々と学べるのは素直にありがたい。おかげで色々と知れたことがあった。


 ここ一週間でクーから聞いた情報を整理してみる。


 まず、この世界。というか大陸。

 もっとも大きく、世界の中心にあるとされるこの大陸を【ゲイルギガオン】と言うらしい。

 俺が今いるニール村は、その南西側。

 レクト王国と呼ばれる国の、領地の一部だそうな。


 ゲイルギガオン。

 アルシーの話や、ガラクの口からも事前に聞いていたことだが、やはり俺が以前の世界で遊んでいたゲームと同じ名前だ。

 もしかしたらゲームの世界に飛ばされたのかも? とか勘ぐって、クーにいくつか質問を浴びせてみたが、明確な答えは得られなかった。


 当然のことながら、クーはゲームなんてものは知らない。

 ただし、ゲームの【ゲイルギガオン】と、この【ゲイルギガオン】には、いくつかの共通点も存在することがわかった。

 その最たるものが、人々を襲う凶暴なモンスターの存在。

 食事の場でも話に出た『害獣』というやつだ。

 クーたちの部族、ヤクトの民は、その害獣から人里や森を守る使命を帯びているらしい。


「害獣。それが、あの一メートルくらいのトカゲの名前なのか?」

「ああいえ。『害獣』はただの分類名です。あのトカゲの識別名は『ラキュロス』。穏やかな気候であれば大陸のどこにでも出没する代表的な害獣の一種ですね」


 ラキュロスか。

 ラプターではなかったらしい。

 いちおう覚えておこう。


「分類名ってことは、ああいう化け物の中で区分けみたいなものがされているのか? たとえば、ラキュロスの親玉みたいなやつは『魔獣』とか呼ばれてたし」

「はい。『害獣』や『魔獣』の分類は主に危険度のレベル。もっと具体的に言えば、体内に孕んだ魔力の量によって決定されます」

「魔力?」


 聞き覚えのあるファンタジー用語に、俺は目を見開く。

 この世界にも魔法みたいな概念が存在するということだろうか?


「魔力とは、空気中に漂う超常エネルギーのことです。視認することはできませんが、一説によれば自然災害なども魔力が引き起こすものだとされています」


 クーは丁寧に答えてくれた。

 なるほど。そこのところの認識も俺が知るファンタジーと似たようなものか。


「シェイバさんは、本当に何も知らないんですね。ラキュロスの群れに対してあんな手慣れた立ち回りを演じていたのに」


 信じられないように告げるクーは、無知な俺をバカにしているというより、純粋に驚いているみたいだった。

 俺は思わず苦笑で答える。


「何も知らないよ。あのときだって、ただ必死だっただけで」

「で、ですがっ。まるでラキュロスの動きを完全に予測しているみたいでした」

「あんなの落ち着いて予備動作さえ見切れば誰でもできるよ」

「よ、予備動作を見切る? そんな、実際にラキュロスと対峙して冷静にできるわけが……」

「とにかく、まぐれみたいなもんだ。あまり期待されても困るぞ」


 クーは俺の言い分をどこまで理解してくれたのか、呆けた様子でこちらを見つめていた。

 目が合うと、慌てたように逸らされる。


「クー?」

「な、なんでもありません! それより、他に質問はありませんか!? わたしが知っていることなら、なんでもお答えしますよっ」

「お、おう」


 すごい勢いでまくしたてられた。

 気合充分だ。もしかして人に物を教えるのが好きなのかもしれない。

 ちょうどいい。俺もこの世界のことについてもっと見識を深めておきたい。

 あの化け物を倒さなくちゃいけないというなら、なおさらな。


「ならさ。魔力についてもっと教えてほしいんだけど。魔力を使って、なにか不思議な力とか発揮できたりは……」


 さらに質問をしようとして、俺はそこで言葉を止めた。

 前方に見えてきた畑。そこで農作業をする数人の村人たちを見つける。

 彼らは俺たちに気づくと、作業の手を止めて一様に頭を下げた。


「おはようございます、クーさま」

「はい、おはようございます。変わりはありませんか?」

「ええ、大丈夫です。魔獣の出現で森の魔力は荒れているようですが、幸いにも農作物への影響はないようで」

「それはよかったです。なにかあればいつでも言ってくださいね? こちらでも出来る限りのお手伝いをしますので」


 話している村人たちは全員が成人男性だった。

 が、明らかに年齢が下のクーに対して随分な低姿勢である。

 逆に、隣にいる俺を先ほどから胡散臭そうにチラチラと見てくる。

 彼らの瞳に宿る念をアテレコするなら、きっとこうだ。


『この子に手を出したらタダじゃおかねえ』


 クーも険悪な雰囲気を感じ取ったのか、挨拶も早々にその場を離れた。

 彼らの姿が見えなくなった瞬間、申し訳なさそうに頭を下げる。


「すみません。あの人たちも悪気があるわけじゃないんです。ただちょっと、この村の人はわたしに対して過保護というか、まだ子供扱いされている節がありまして」


 そう言う彼女の顔は、ちょっと恥ずかしそうでもあった

 まるで日ごろから両親に甘やかされているいいところのお嬢さんが、彼氏の間で大人ぶろうと必死に言い訳してるみたいだ。

 温かい目で見ていると、むっとした表情で睨まれた。


「シェイバさん? もしかしてですけど、あなたもわたしを子供だと思ってます?」

「いやいやいや。思ってない思ってない。むしろ、その歳で立派だと思うよ。村人たちがクーに対してあそこまで恭しいのは、戦巫女の仕事が関係しているのか?」


 誤魔化す意味も含めて、即座に話題転換する。

 クーは少し不服そうにしていたが、俺の質問に首肯してくれた。


「そうですね。個人的に慕ってくれている部分もありますが、そこが一番大きいと思います」

「戦巫女って具体的にどんなことをしてるんだ?」

「仕事内容ですか? 簡単に言えば、一線に立って森と村を守ることです。日ごろは戦士団と協力して、森に巣食う害獣が悪さをしないか見張っています。あと、年の節目に行われる祭事に祈祷を捧げたり、森の魔力の流れを見て村長さまに知らせたり」

「魔力を見る? じゃあ、クーは魔力を使えるんだ?」


 魔力が存在する世界。

 そこに巫女とくれば、もう間違いないだろう。

 期待を込めて訊ねると、クーは不思議そうに首をひねった。


「魔力を使う? つまり魔術を使えるかということですか?」

「魔術! やっぱりあるんだな!」


 出てきた単語に思わず胸が躍った。

 まあモンスターと魔力が存在するんだから、魔術があったって不思議ではない。

 やっぱり異世界と言えば魔法とか魔術だろう。

 べつに必須ってわけじゃないが、ないと物寂しい。

 ギャルゲにおけるツンデレヒロインみたいな感じだ。

 いないとなんか足りない、あの感じ。


「いいえ、わたしは魔術を使えませんよ。というか、そもそも人間全体が魔術を使うことができません」


 だが、返ってきたクーの答えは、俺の興奮を跡形もなく粉砕した。

 人間は空を飛べませんよ? くらいのテンションだった。 


「え? つ、使えないの? 魔力や魔術は存在するのに?」

「使えませんよ。存在はしますが」


 そんな夢も希望もない。

 あからさまに落胆する俺に、クーはやれやれと肩を竦めた。


「シェイバさんは魔術に興味があるんですか?」

「興味というか。ギャルゲでツンデレというか。ありきたりだとか文句はたれつつも、ないって言われるとそれはそれでガッカリというか……」

「はぁ。意味はわからないですけど、そこまで興味があるなら見れる場所に連れて行きましょうか?」

「見れるとこあるんッスか!?」


 即座に復活を果たした俺はクーに迫る。

 クーは驚くように仰け反って顔を真っ赤にした。


「ひっ!? か、かお、近いですっ」

「あ。ご、ごめん」


 目と鼻の先まで接近してしまったことに気づき、慌てて距離を取る。

 クーは胸に手を当ててぜぃぜぃと呼吸を乱していた。

 うぐ、ショックだ。

 確かに不用意に近づきすぎたが、そこまで拒絶反応を示さんでも。


「で、では。ご案内します」



  ×  ×  ×  ×  ×



「ここは?」

「はい。村の武器庫です」


 案内されたのは、ひときわ大きな長方形の建物。

 武器庫? そんな場所になんの用が?

 そう訊ねようとしたのだが、クーは普通にその横を素通りした。


「着きました」


 武器庫の物陰になっていて気づけなかったが、その横に石造りの小屋みたいな物が建っていた。

 木製の建物が多いこの場所で、石材メインなのは珍しい。

 加えて戸のようなものが設置されておらず、入り口であると思われる場所は完全に開けっ放しの状態だった。

 クーはその入り口に迷うことなく進んでいく。


「ルミータさん。アミ。いますか?」


 クーの背中越しに小屋の中を覗くと、まずツンと鉄臭いにおいが鼻を突いた。

 奥にどっかりと置かれた炉。それに金属の台のようなものが目につく。

 壁に立て掛けられたハンマーや鉄鋏を見て、俺はすぐにこの施設がなんなのか理解した。 

 ……鍛冶屋だ。

 ファンタジーなどではよく登場するが、実際に見るのはこれが初めてである。


「あっ。クー姉さま! いらっしゃいませ!」


 中を覗いていると、すぐ横から元気な声が飛んできた。

 戸の真横、俺たちからは死角となっていた場所に、十歳くらいの幼い少女がペッタリと地べたに座り込んでいた。

 明るい茶髪をツーサイドアップに結んだ可愛らしい感じの子だ。

 着ている物は作業着のようであり、小柄な彼女にはブカブカに見える。

 その手には刃渡り五センチほどの小さなナイフと、弧状に沿った長い木の棒が握られていた。


「こんにちは、アミ。ルミータさんはいますか?」

「お師匠さまですか? それなら建物の裏手で……」


 っと、言いかけた少女が口を開いたまま動きを止めた。

 つぶらな双眸が、クーの肩越しに立つ俺をジロッと見つめてくる。


「その方は」

「あ、はい。シェイバさん。この村にしばらく滞在することになった旅の人で」

「知ってます。お師匠さまが言ってました。下品な顔をした余所者がクー姉さまのおうちにあがりこんで、毎晩ふしだらなことをしていると」


 ちょっとクーさん!?

 なにやらいたいけな幼女にあらぬ誤解を受けているみたいなんですけど!?

 すぐに誤解を解いてもらうよう視線で助けを求める。

 しかし、肝心のクーは動かなかった。

 同じ姿勢で固まったまま、完全に思考停止していた。


「ふ、ふしっ。ふふふふふふふふふしだらなことなんかしてませんっっっ!!」


 かと思いきや、急に真っ赤になって叫んだ。

 あまりの大声に、俺も、少女も、ビックリと目を見開く。

 いや、うん、誤解を解いてほしいとは思ったけどね?

 そこまで過剰に反応しなくても。


「ク、クー姉さま?」

「誤解です! 誤解と言ったら誤解なんですっ! わたしはべつにそんな邪な感情を抱いてシェイバさんを招いたわけではっ、わ、わけではないのれふっ!!」


 あ、噛んだ。

 いくらなんでもテンパりすぎだろう。

 顔を近づけたときの拒絶反応といい、俺としても非常に傷つくぞ?

 そりゃあ、たまに君のことをヤラシイ目で見ていたりはしたけども。


 クーが真っ赤な顔でグルグルと目を回し、俺は胸を押さえてガクリと膝をつく。

 その様子を見る少女は困惑のあまり泣きそうになっていた。


「ご、ごめっ、ごんなさい、クー姉さま!」

「くあぁぁぁ……。おいおい、騒がしいよアミ。ワタシが昼寝タイムのときは静かにしてほしいって、いつも言っているだろう?」


 そのとき。

 俺たちの背後から、欠伸まじりの声が響いた。

 驚いて振り返ると、そこにまたべつの少女が立っていた。


 ボサボサの髪に、顔からズレた眼鏡。

 年齢は十代中盤くらいだろうか。

 クーより少し上。ちょうど今の俺や、リオンと同じ程度かと思われる。

 顔立ちは端整で結構な美少女だったが、いかんせん見た目がだらしなく、徹夜明けの起き抜けみたいな雰囲気があった。

 彼女は、ツーサイドアップの幼い少女と同じ作業着を着ていた。

 デザインはまったく同一だが、こちらは寸法がピッタリと合っている。


「ル、ルミータさん」

「おや? 誰かと思えばクーじゃないか。ということは、そっちの黒いのは……」


 俺をジロジロと眺めた彼女は、急にニヤッと笑う。

 なんつー邪悪な笑みだ。

 クーに負けず劣らずの美少女ではあるが、こいつとは関わってはいけないと、俺の本能が危険信号を発している。


「そーかそーか。キミが例のね」

「な、なんですか?」

「むふふ。そんなに警戒しなくてもいいよ。仲良くしようじゃないか兄弟」


 彼女は握手を求めるように俺に手を伸ばした。


「ルミータ=フライレス。この村の鍛冶屋、兼『魔術師』だ」


 なんだって?


◆モンスター簡易図鑑


 名前:ラキュロス

 分類:害獣

 全高:一メートル前後

 全長:一メートル半~二メートル

 主な生息地:ヤクト大森林、その他の安定した温帯地域

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