対校戦(上)3
ユウトは貴族の多くいる上品な表通りから離れ、庶民が多くいる酒場などの多い通りを歩いていた。
街の住民は酒を飲みながら対校戦について話しており、魔法祭の前のような風になっていた。
「賑やかだな」
ユウトはその様子を見ながら目的の場所に向かって迷いのない歩みでいく。
「まだ、あるよな」
奥へ、奥へと路地を進んでいく。
そして、一見妖しそうな色の壁の店の前に着いた。
営業は夜からなのでまだ店の中は明りが点いていない。
「いるよな?」
ユウトは、入口を開けた。
ドアが開くとベルが鳴って、中の店員達が入口に立っているユウトを見た。
表にいる店員は10人くらいで男女の比率は同じくらいだが、男も女も同じ形のドレスを着ている。
男性店員の1人がユウトに歩み寄って来て、
「まだ、開店時間じゃないわよん?」
「知っています。あの、マ―。いえ、店長を呼んでもらえませんか?」
ユウトが言うと、男性店員はユウトを怪訝そうな目で見ていたが、ユウトの真っ直ぐとした瞳を見て、裏の方を歩いていった。
「ママー。ママにお客さんよ。黒髪のイケメンさんよ」
裏で男性店員が店長に声をかける。
「はーい」
裏から化粧をして、他の店員と同じドレスを着た男性が出てきた。
「あらあら、イケメンさんがあたしに何の用かしら?」
出てきた店長はユウトを上から下へ眺めた。
「お久しぶりです。マスター」
ユウトがそう言うと、マスターは驚いたような表情をした後、思い出したように
「その黒髪に白い魔剣、もしかして、ユウト君!?」
「はい。そうです」
「あらー。久しぶりねー。元気にしてた?」
「はい。おかげさまで元気です」
マスターはユウトの腕や身体を触る。
「筋肉がついて、しかも背もかなり大きくなっちゃって、本当に別人みたいになって」
「学園に入るちょっと前に急に背が伸びたんですよ」
「しかも、なんだか表情も温かくなって、彼女でもできた?」
マスターの言葉にユウトは驚いていた。
「か、彼女ですか!? いませんよ」
「そうみたいねぇ。ユウト君は奥手だから自分からは告白しなさそうよね」
「ははは…」
ユウトは苦笑いした。
「ほんと、明るくなってよかったわん」
「仲間のおかげですよ」
ユウトがそう言うと、マスターは母親の様に優しく微笑んだ。
「いい仲間に出会えてよかったわね」
「はい」
「マスター。お客さんと話しているのはいいですけど、裏の方を手伝ってくださいよ」
裏から元気そうな声と共に茶色の髪をしたユウトと同い年くらいの女の子が出てきた。
「シャル。いいところに来たわねん。こっちにいらっしゃい」
マスターの言葉に首を傾げながらシャルはユウトの方へ歩いてきた。
「マスター。何ですか?」
「ほら、この男の子見覚えない?」
「えーと」
シャルはユウトの顔を見ながら考える。
一目見ただけでは思い出すことはできないだろう。
ここにいたときのユウトの背は小さくて、身体はやせ細っていた。
「ほら、ユウト君よ」
「ゆ、ユウト!?」
シャルの顔が真っ赤に染まり、声は震える。
「よう」
ユウトが手を上げる。
「ど、ど、どうして、ユウトがここに」
「偶々、王都に用事が有ってきたからここに寄ったわけだよ」
「そ、その制服、ということは、対校戦にでるの?」
「ああ」
「じゃあ、店のみんなで応援しないと」
マスターは手を叩いて喜ぶ。
「そうか。でも、会場のチケットはもうないはずだろ?」
「ええ。確かに会場のチケットは売り切れだけど、広場で公開放送をするからそこに行くわよん」
魔法祭の時も同じようになっていたので、ユウトはすぐに納得した。
会場のチケットは貴族達が買い占めてしまうため、庶民は入ることができないので、王国が会場の様子を見ることができる魔道具を出してくる。
「じゃあ、応援頼むな」
「ええ。任せておいて」
「にしても、シャル。お前、可愛らしくなったな」
ユウトがこの店で働いていたのは2年前でシャルもまだ子供だったので、ユウトにしたら女性らしくなった。
「ふぇ、え!?」
ユウトの言葉に驚いてシャルは可愛らしい声をあげる。
「な、なにを言うの!?」
「事実を言っているだけだよ」
「ッー!!」
シャルはますます顔を赤くする。
そんな2人のやりとりをにやにやしながらマスターは見ている。
「さてと、あまり店にいても邪魔になると思うからそろそろいきます」
「そう、じゃあ、ユウト君。がんばって」
「はい、じゃあ、シャルも仕事がんばれよ」
「う、うん」
ユウトはドアを開けて店から出て行った。
彼女が少し寂しそうな表情をして手を伸ばそうとしているのに気がつかず…。




