閃光の夢 9
「遅くなって、ごめん」
ユウトはエレナの方を向かないで言う。
「ユウトさん…どうして!?」
「どうしてじゃないだろ? 俺も参加するはずだっただろ?」
「ほう、来たか。その勇気だけは褒―」
「黙れ」
ユウトは低く冷たい声でアルヴィンの言葉を遮り、睨んだ。
「エレナ。少し動かすぞ」
ユウトは振り返りエレナをお姫様抱っこした後、一瞬の内にアルヴィン達の視界から消えて、遺跡の柱の裏に連れていった。
「飲めば痛みが取れるからこれを飲んでおくといい」
ユウトは上着のポケットから液体の入った瓶をエレナに渡した。
「これはポーションですの?」
「ああ。レイシアの特製の痛み止めのポーションだ」
ユウトがそう言うとエレナは瓶の中の液体を飲んだ。
すると苦しそうだったエレナの顔は落ち着いていく。
「1つお願いしたいことがあるけどいいか?」
「いいですわ」
「じゃあ、そのレイピアを貸してくれないか?」
「いいですけど、これはわたくししか使えないですの」
「それでも構わない」
ユウトの言葉と真っ直ぐとした瞳を信じてエレナは自分の魔装具を渡すことにした。
「ユウトさん、顔を近づけてくださいな」
エレナの言葉に何の疑いを持たずユウトはエレナに顔を近づけた。
エレナは自分の魔装具を右手でユウトの左手に握らせて、左手でユウトの頬を触り、ユウトの唇に軽くキスをした。
「エレナ」
「ごめんなさい。でもわたくし」
「いや、いいよ」
ユウトは左手の甲に刻まれる痛みを感じながら、エレナから顔を離し振りかえった。
「じゃあ、行ってくる」
「頑張ってくださいな」
エレナの声を聞いたユウトはエレナの視界から消えてアルヴィンと執事の前に戻った。
「ほう、戻ってきたと思ったら、他人の魔装具を持ってくるとは、自分の魔装具をまともに使えないのか」
アルヴィンの侮蔑の籠もった声で言うがユウトは気にもしない様子でアルヴィンを睨んでいた。
「若、あやつの相手はわたくしめが」
「ああ。任せたぞ」
執事がハルバードを握り前に出て、ユウトと向き合う。
無言で睨みあったあと執事はユウトに向かって動いた。
執事の動きは普通の人間よりは速かったのだが、相手が悪かった。
ユウトは止まっていたが、姿が消えた。
「ぐふ」
ユウトは右手で執事のハルバードを砕き、そのまま執事の腹部に拳を加えた。
ユウトにしたら、執事の動きなど止まっているのと同じくらい遅かった。
執事は、くの字の形になりながら飛ばされ、遺跡の柱に何度かぶつかったあとやっと止まった。
「あいつでは、お前の相手はできなかったか。まあしょうがない、あいつも年だからな」
アルヴィンはユウトに向かって大剣の先を向ける。
「あいつの敵を討ってやるとしよう」
アルヴィンはロングソードとハルバード装備の兵士に命令を出した。
その2体はユウトに向かって走り、大きく振りかぶる。
だが、ロングソードとハルバードはユウトに振り下ろされることはなかった。
ユウトがレイピアを振って2体同時に斬り裂いて上半身と下半身に分けた。
4 つの塊となった水をユウトは踏みつぶして、アルヴィンの元に1歩ずつ近づいていく。
「ほう、2体を倒すか。これならどうだ?」
残りの兵士を一気に動かした。
ユウトは気にする様子もなく、歩み続ける。
兵士は走っているがユウトに一定距離近づくと内側から爆ぜていく。
「そういうことか。レイピアから雷を流して水を分解しているのか。だがひとつ疑問がのこる。お前は魔法が使えないくらい魔力が少ないはずだが」
最近ユウトの魔力が少し戻ってきたのだが、その量では理論的には不可能だが、
「相手がお前じゃなかったらこんなことしねえよ」
ユウトの左手の甲の刻印から流れてくる魔力と魔装具の相性、そしてユウトの感情が合わさって、理論を越えた。
強い感情は魔力の出力を増加させる。
それがどんな感情だったとしても。
レイピアから雷が放出して、レイピアの形を数まわり大きくした大きさになっていた。
「くっ、あいつ、間違った情報を掴んで来やがって」
怒りを少し含んだ声でアルヴィンは言うがすぐに余裕そうな表情になり、
「まあ、あの程度の兵士を倒したくらいでは、俺にとっては、全く問題はないのだがな」
アルヴィンはまた大剣から水を出して兵士を作りだした。
「100くらいか。余裕だな」
最初の2体でどのくらいの強さか、ユウトは調べていた。
大体Cランクくらいの強さだが、連携で1体1体の弱さをカバーし合っている。
「こいつらはさっきの奴よりも純度の高い水で作ったから、お前の雷など効かない」
アルヴィンは高らかに言うが、ユウトは無視して兵士に向かって突っ込んで行った。
「馬鹿め」
アルヴィンはユウトが兵士に潰されて自分の勝利を確信していた。
でもユウトは確実に1体ずつ仕留めていく。
兵士を壊しても、壊しても再生してユウトを囲む。
「面倒だな」
ユウトは再生する兵士を見たあと、レイピアを握り直して、動きを変えた。
高速で動くことでアルヴィンの視界から消えて、レイピアの光だけが残像の様に光っていた。
ユウトは、兵士1体ずつにマーキングするようにレイピアで軽く斬り、全ての兵士を斬ったあと、兵士から距離を離して、地面にレイピアを突きつけた。
すると、レイピアから雷が放出してユウトが通ってきた場所の地面から稲妻を天に向かって上昇する。
兵士は斬り口から稲妻が飛び出て内側から崩壊させられる。
「う、嘘だろ」
アルヴィンは目の前で起こっている現象に驚愕していた。
電気を通さない純水で兵士を作ったはずなのにユウトが消えて数秒経ったのちに地面に刺さったレイピアから雷が地面を伝い、兵士の内側から稲妻が溢れ出て貫かれる。
彼はユウトを自分の物差しで測るという過ちをした。
最強の魔王であったということ知っていても結果は変わらなかっただろうが、
常識を逸脱しているからこそ最強の魔王、それが力を失ったとしても変わらない。
「さあ、あとはお前だけだ」
ユウトはレイピアの先を向けて言い、確実に前に進む。
「く、来るな」
アルヴィンの顔からはもう余裕そうな笑いは消えて恐怖の色に染まっていた。
微かな抵抗として圧縮した水を放つがそれもユウトの右腕の横殴りで霧散した。
「そ、そうだ。か、勝たせてくれたら、お前の望む物をなんでも与えよう。あいつと結婚すればそれくらいできるからな」
「…」
ユウトは黙って冷たい目でアルヴィンを見ながら歩む。
「で、では、お前が望む女を―」
アルヴィンは最後まで言うことができなった。
「囀るな」
ユウトがアルヴィンの肩に深々とレイピアを突き刺して黙らせていた。
「ひ、ひい」
血は出ていないが、痛みで腰を抜かしているアルヴィンからレイピアを引き抜き、首元に突きつけた。
「さあ、剣を握れ」
アルヴィンはユウトの言葉に従って大剣を握るが恐怖で手が震えてまともに戦える状況ではなかった。
「最後のチャンスを与えてやる。俺が後ろに下がって仕切り直してやるから本気でこい」
ユウトはそう言い、振り返りアルヴィンから離れて行く。
その姿を見て、アルヴィンは口元を歓喜に歪ませて左手をユウトに向かって突き出した。
「馬鹿め」
圧縮した水でできた槍を作りだし、ユウトの背中に向かって投げた。
ユウトは振り返り槍を右手で握り潰して、一瞬の内に詰め寄りレイピアを胸に突き刺した。
「―!」
アルヴィンは胸を突き刺された痛みで息ができなくなって苦しそうにしていたが、ユウトは目にもくれないでレイピアを抜き去り、
「せっかく、私怨抜きで貴族の戦いをしてやろうと思っていたのに。ほんとお前は変わらず下種だな」




