刺雷の騎士6
エレナが目が覚めると学園長がベットの側に立っていた。
「ここはどこですか?」
「医務室だ」
それを聞いたエレナは飛び起きて、学園長を見た。
「学園長!!試合はどうなったのですか?」
「落ち着きたまえ。君は意識を取り戻したばかりなんだから安静にしていなさい」
「はい」
学園長はエレナの顔を見た。
「まあ、君の気持ちもよくわかる。だから教えてあげよう」
エレナは喉を鳴らした。
「君もわかっているだろうが、君は彼に負けたんだ」
「そうですか」
エレナは落ち着いていた。
「どうしたんだ?君なら『そんなのあり得ません』くらい言いそうなのに」
「そのですわ」
「本当にどうしたんだね。君らしくない」
「学園長、わたくしでも負けたときは潔いですわ」
エレナは黄昏るように窓から外を見た。
「どうだね彼は」
「正直言いますとよくわかりませんの」
学園長は予想道理の反応という顔をする。
「彼はなんのですか?魔力がないのにマナ障壁を切り裂くなんて」
エレナがそう言うと、学園長は笑い出す。
「くくく、やはり気が付いてないのか」
「何に気がついてないって言うのですか?」
「誰も彼が魔力はないとは言っていないのだよ。ただ彼は魔法が使えないって言うだけだ」
「でも魔力があれば魔法がつかえるのではないのですか?」
「君も勉強不足だな。Aクラスの担当教諭にもっと大量の課題を出すように言っておこう」
「そんなことはいいので早く教えてください」
「よくはないが、教えよう。彼の魔力はあるのだよ。しかし初級魔法すら微量な量だがな。それを魔剣に直接乗せて振ることを彼はしている」
「魔力を直接魔剣に乗せるなんてそんな技術聞いたことありません。たとえ彼が使えたとしても、彼の魔力量では私のマナ障壁を切り裂くことはできません」
「そうだな。Aクラスの君のマナ障壁を切り裂くには最低Cクラスくらいじゃないと無理だな」
「じゃあ、一体彼はどうやってやったのですか?」
「そのことは彼に直接聞くんだね」
そう言い、学園長は医務室から出て行った。
「ユウト・フィルナンス」
エレナ刺された自分の胸に手を置いた。鼓動が速い、顔もなんだか熱い。
こんな風になるのは2度目だった。
(もしかして、彼に恋してしまったの?ありえませんわ。わたくしはあの方一筋のはずですもの)
エレナは初めて胸が高鳴ったときのことを思い出した。
あれは今から5年前、魔法祭の決勝の前日。
11歳だったエレナは両親とメイドや執事達とはぐれてしまい、いつの間にかスラム街に来ていてしまった。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんみたいな貴族がこんなところにいたら危ないぜ。俺達が連れってあげるぜ」
汚らしい男がエレナに向かって言ってくる。だが11歳のエレナにでもわかるくらい野心があるように見えた。
「いやっ!!」
エレナはその男から逃げるように駆けだした。
「きゃっ」
無我夢中に走っていたから前にいた男に気がつかずにぶつかってしまった。
「いってえな」
ぶつかった男が言う。
「ごめんなさい」
そう言いエレナがまた走り出そうとしたら、ぶつかった男に腕を掴まれた。
「お嬢ちゃん。なかなかきれいな顔してるじゃねえか」
男がゲスく笑う。
「お前、そんな趣味だったのか」
ぶつかった男の隣にいる男がいう。
「というお前もそうだろ」
男達は笑う。
「おいおい。その子は俺が狙っていた子だぞ」
さっき声をかけてきた男まで来ていた。
「こういうのは早いもん勝ちだよ」
ぶつかった男が言う。
「少しは貸してくれよ」
「わかったよ」
そうしている間にもスラムの男達が10人くらい集まってきて、エレナを囲んだ。
「なあ、こいつの両親から身代金要求しねえか?」
「いいねぇ。こいつ、相当な箱入り娘ぽいから大層両親から愛されてるだろうし、たっぷり出すだろう」
「で、こいつは両親に返さず、金だけもらってとんずらってか」
「そうだ」
「「「ぐへへへへ」」」
男達は笑う。
もうすでに幼いエレナは恐怖に支配されて今にも泣きそうな状態だった。。
「い、いや……お父様とお母様のところに帰してよ……」
「無理な相談だ。お前はこれからずっと俺達のもんだからな」
エレナはかすかな声を絞り出した。
「だ、誰か助けて」
「誰も助けに来ねえよ」
男達が嘲笑っていると、空から人が降ってきた。
その人はエレナと同じくらいの背で頭まですっぽり隠れるローブを着ていた。
「大人が女の子をいじめてんじゃねぇよ」
少年の声だった。
「ガキが俺達の邪魔するんじゃねえよ」
「いいからその子を離せ」
少年は臆することなく男達に言う。
「嫌だって言ったら、お前はどうするんだ?」
「お前らを倒す」
少年が言うと男達は一斉に笑い出した。
「お前みたいなガキが俺達を倒すだと」
男達は少年を馬鹿にしたが男の子は無視した。
刹那、少年が消えたと思ったら男達の半数がすでに倒されていた。
「なんだと」
男達は驚愕の表情で染まっていた。
「た、たかがガキ1人にやられてんじゃあねえよ。魔法だ。魔法を使え!!」
火の玉や雷、風などが男の子を襲うが、少年は白いロングソード型の魔剣を腰から抜き、全て切り裂いて、消滅させてしまった。
少年の斬撃は一種の舞の様で美しかった。
少年の動きが速すぎたため、少年の頭がローブから出た。
夜のような黒髪その髪と同じ色の黒眼でまだあどけなさが残る顔ながら、まっすぐと男達をとらえていた。
エレナはその顔に見覚えがあった。
「アレックス・フェルニティ!!」
思わず彼の名前を叫んでしまった。
でもそれはしょうがなかった。エレナは彼に憧れていたからだ。いや他の人だろうとも同じことをしただろう。
彼は大陸でも今年最強と言われている少年だったからだ。
彼はエレナが叫んでいるうちに全員倒してしまった。
「君、大丈夫?」
「うん」
「1人で帰れるかい?」
エレナは首を横に振る。
「じゃあ表通りまで一緒にいく?」
エレナは「うん」と頷いた。
すると彼は自分の魔剣に話しかけはじめた。
「今日、これで人助け何回目?」
すると魔剣から少女の声が聞こえてきた。
「5回目か6回目かしら?」
「今日はやけに多いね」
「そうね」
彼が魔剣と話していると、エレナは彼に声をかけた。
「誰とお話していらっしゃるの?」
「僕の魔剣とだよ」
「えっ?お父様が魔装具はお話にならないっておっしゃっていましたわ」
「それは下級の魔装具だからよ。そんなのと私を一緒にしないで」
「ごめんなさい」
「いいのよ。わかれば」
彼はエレナの手を握った。
「そろそろ、行こうか」
「うん」
彼とエレナは歩きだした。
数分ともしないうちに表通りまで着いた。
エレナの目に灰色のジャケットを着た男性と黄色のドレスを着た女性が映った。
「お父様、お母様!!」
そうエレナが言うとその2人はエレナの方を見た。
「「エレナ!!」」
エレナの父と母はエレナを抱きしめてくれた。
「エレナ、どこにいってたんだい?心配したよ」
「あのね。お父様、お母様。私ね、スラム街にいたの」
「スラム街ですって!?」
「エレナ、大丈夫だったかい?」
「うん。彼が助けてくれたの。紹介するね」
そう言いエレナは隣を見た。
でもすでに彼はもういなくなっていた。
「あれ、いない」
「誰がいないんだい?」
「アレックス・フェルニティ」
「彼が助けてくれたのかい?」
「うん。名前もお礼も言ってないのに」
するとエレナの父はエレナの頭を優しく撫でる。
「きっと、また会えるからその時にお礼をしようか?」
「うん」
彼は次の日、圧倒的な力で魔王となった。
フィルニア王国の第3王女から魔王の証である、杖をもらい、世界樹に触れて願いを叶えたあと、彼は姿を消してしまった。
それから5年が経つが彼は見つからなかった。
「アレックス様」
エレナは小声で彼の名を口にした。
「お嬢様大丈夫ですか。お顔が真っ赤ですよ」
茶髪のボブショートのメイド服を着た少女が言う。
この子はエレナのメイドで、ミリルと言い、小さい頃から一緒にいる子で、エレナより胸が大きいので少しだけ彼女のことが羨ましく思う。
だけどエレナも普通の女の子くらいには胸があるから別に気にしないでおいている。
「大丈夫ですの。ミリル」
「そうですね。お嬢様がそんな風になるのは彼のことを考えていたからですもんね」
「ミーリールー」
「わかりましたよ。お嬢様」
今思えば彼とユウト・フィルナンスは似ているような気がするが、エレナは自信が持てなかった。なぜならフィルニア王国、ミスリティア共和国、ロメリル帝国の人々は東方の地の人間を見分けることができないからだ。2人とも東方の血が流れている。でも明らかに違うとわかるのは魔剣だ。彼の魔剣は白色だが白銀に輝き美しいものだった。それに対してユウト・フィルナンスの魔剣は白色で濁ったようなものだった。
でも、彼の太刀筋よりもユウト・フィルナンスの太刀筋の方が磨かれていたような気がした。
(気になりますわ)
「お嬢様。そんなに気になるなら明日会いにいけばいいじゃないですか」
「な、何言っているの。わたくしはあんな人なんか気になりませんわ」
「私は気になりますよ。だって、微量の魔力でお嬢様のマナ障壁を切り裂くのですもの。お嬢様だってどういうやり方なのか気になりませんか?」
「そうですわね。確かに気になりますの」
「だったら明日、彼に会いに行きませんか?」
「そうですわね。明日あの人に会いに行きますわよ」
「わかりました。お嬢様」
ミリルは恭しく頭を下げる。




