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氷の流星 1

 剣と剣がぶつかる。

 普通の者が見たなら、両者とも真剣に斬りあっていると思うだろう。

 だけど、剣を極めた者が見たなら力の差がはっきりとわかるだろう。

「せやぁ!!」

 ショートソードを握った水色のポニーテイルの髪の凛とした印象を感じさせる可愛らしい少女が素早い剣撃を加える。

「はっ!!」

 ロングソードを握った黒髪の少年は軽く受け流し、ショートソードを弾いた。

「ッ!!」

 少女は距離を取ろうとするが、少年は少女の腕を掴み喉元にロングソードを突きつけた。

「ふう。俺の勝ちだな」

 ユウトはスティアの首から魔剣を離した。

「やはり、ユウトには敵わないな」

「いや。かなりいい線まで来ていると思うぞ」

「そうか。でも、ユウトは手加減していたのだろう?」

 確かにユウトは10分の1も出していない。

「まあ。な」

「ユウト。君に訊きたいのだが、どうして片手でロングソードを使っているのだ? 盾は使わないのか?」

 ユウトの世代はアレックスの影響で、片手でロングソードを使い、空いた手で魔法を使うというスタイルで戦うという人が多い。

 だからユウトもそういうのと同じだと思ったのだろう。

 そのスタイルだと魔法を使えないと全く意味がないので盾を持った方がいい。

「俺に剣を教えた人は二刀流だったんだよ」

「二刀流? ということは、剣を2本使うはずではないのか?」

「いや。普通の二刀流じゃないんだよ」

「普通じゃない?」

「刀と鉄扇の攻防一環の二刀流なんだ」

「カタナというのはシロン国に伝統的に伝わる曲剣か?」

 スティアが少し興奮気味になりながら言う。

「ああ」

「そうか。でも、どうしてカタナを使わないのだ?」

「俺にはこいつがあるからな」

 ユウトは魔剣に触った。

「その剣のことを訊きたいのだが、いつからその剣を持っているのだ? フレイヤに聞いた話では、それは伝説級の魔装具だったのだろ?」

「伝説級かはわからないが、この剣は物心ついた頃から一緒にいるんだよ」

「そうか」

「他には訊きたいことはないか?」

「いろいろあるが、まずは、その剣をどうしてあまり使わないのだ?」

「ああ。それはこの剣が折れたら直せないからな」

 魔装具は使い捨てにすることが多く、修理を余りしない。

 フレイヤやリュッカのように代々伝わっている魔装具を使っている物は専用の職人が定期的に検査している。

 だから専用の職人がいないユウトは魔剣を自分で整備している。

「あとは、この剣が汚染されないようにしているんだよ」

「汚染?」

「ああ。命有るものを殺すとその魂が剣の中に入る。その魂が剣に元ある魂を壊すということだな」

「ふむ」

「まあ。簡単に言うと呪いが剣にかかるということだな」

「わかったのだが、君はやけに詳しいのだな。汚染の経験があるのか?」

「まあ…な」

 過去に汚染の経験がある。

 そのことで大切な人を失ってしまい、トラウマになっている。

 スティアは歯切れの悪いユウトを見て困惑する。

「そ、それは置いておくとして、ユウトはスペルリングを使わないのか?」

 スペルリング、魔力を込めることでそこに刻んである魔法を使うことができる。

 価格は兵士が一生掛かっても買うことができないのからパン1つと同格のまである。

「あれは壊れやすいからな。価格に合わないんだよな」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「どうした?」

「スペルリングが壊れるのか?」

「そう言っているだろ」

「あれは壊れるはずがないのだが」

 パンと同じ価格のものでも、普通に使っていたなら壊れるということはない。

 高ければ高いほど性能と耐久が高くなるため、荒く使っても平気になる。

「俺としては普通に使っているんだけど、すぐに壊れるんだよな」

 ユウトがそう言うと、スティアは口元に手を当てて考えていた。

「まあ。機会が有ったら見せるから」

「うむ」

「もう、質問はないか?」

「いや。まだ、ある」

「なんだ?」

「私が強くなるためにはどうしたらいいのだ?」

「強くなるには、か」

 ユウトは困ったような表情をして、頭を掻いた。

「君が見て、私に足りないものは何かないのか?」

「足りないものか…」

 ユウトは腕を組んで考えた。

 真剣な瞳でユウトを見る。

「目じゃないかな」

「目?」

「ああ。スティアは視えていないものがある」

「視えていない? どういう―」

 スティアが話している途中で、ユウトはスティアの視界から消えた。

「ッ!!」

 スティアの首元にユウトの手の平が触れる。

 数メートル離れた位置にいたはずが一瞬の内に、距離を詰めていた。

「こういうことだ」

「何をしたのだ?」

「手品は知っているよな」

「ああ」

「じゃあ、このコインを見てくれ」

 ユウトはポケットから1枚コインを取り出した。

「このコインで手品をするからタネを見つけてくれ」

 それを指で挟み、スティアに見せびらかすようにした。

 スティアは馬鹿正直にコインを見ている。

 ユウトはコインを持っていない方の手で軽くコインを触った。

 次の瞬間、コインは指の間から消えた。

「どう?」

「コインは左腕の制服の中にある。触れた瞬間、コインが見えなくなった。ということは、コインをその瞬間に左腕の袖の中に入れたのだ」

「確認してみなよ」

 スティアはユウトの左腕の袖を調べた。

 ユウトはそのままの姿勢で固まっていた。

「ない…」

「スティア、自分の胸ポケットを見てみな」

 スティアは、言われるがまま胸ポケットを見た。

「あった!! 一体どういうことだ」

「まず1つ目、コインしか見えていない。これは、周りも見ていないということだ。周りが見えていないとなると弓使いとしては致命的だな」

「うむ」

 スティアも自覚しているようだ。

「2つ目、見えているものしか視えていない」

「?」

 スティアはよくわからないという表情をする。

 それも無理もないだろう、見えているものしか視えてないと言われても、見えないものを視るなど普通の者ではできない。

「君には何が視えているのだ?」

「正確には視えていただけどな。マナや魔力とかが視えていた」

「マナ、魔力が視える…」

「まあ。このことはしょうがないな。3つ目、これは視るということじゃなけど、固定観念に囚われないほうがいい」

「それは、気を付けているつもりなのだが」

「だろうね。最近はかなりよくなっているが、まだ、甘いよ。ほら」

 ユウトは右腕の袖からコインを出した。

「まさか」

 スティアは驚いていた。

 コインが2枚あり、その1枚を首元を触った時に入れた。

 残りの1枚を手品に使った。

 スティアは、そんなことを思いつかなかったのだろう。

「その、まさかだよ」

「私は未熟なのだな」

 スティアの声のトーンが低い。

 かなり悩んでいるのだろう。

 ユウトのチームの中で攻撃型の魔法を使うメンバーの中で1番能力が低い。

 Aクラスの中では、上位の方なのだが、他のチームメイトと比べると劣っているのがわかる。

 彼女は、こうしてユウトと稽古をすることで自分を鍛えている。

「まあ。まだ伸びしろがあるから、大丈夫だろ」

「…うむ」

 ユウトがフォローするが、スティアはあまり表情が明るくなかった。

「じゃあ、そろそろい―ッ!!」

 ユウトは何か感じたのかスティアと反対の方を見た。

「どうした?」

「誰かが、見ている」

「見られているだとっ!?」

 スティアは周りをきょろきょろ見回した。

「まあ。学生だから大丈夫だよ。最近、多いんだよな」

「多いっ!?」

「なんかファンクラブみたいなものが出来ていて、下駄箱とかクッキーが入っているだよな」

「ファンクラブ!? クッキーが下駄箱に!?」

 スティアは口をあんぐりしている。

「正直、迷惑なんだよな」

「迷惑なのか!?」

「ああ」

「そうか…」

 スティアはがっかりしていた。

 スティアもユウトにお菓子などを作って渡していた。

 だから、スティアは自分もユウトに迷惑をかけたのだと思ったのだろう。

 ユウトはわかりやすいスティアを見て、苦笑いをした。

「別に、直接渡してくれるのはいいんだよ。誰が渡したのかわかるから」

 ユウトがそう言うとみるみる内に表情が明るくなる。

「美味しいものとかあるから、貰うこと自体は嫌じゃあないから、風紀委員で下駄箱に入れるのを取り締まることはできないか?」

「うむ。一応提案しておこう」

「頼むぞ」

「わかった。ところで、君は風紀委員に入らないか?」

 この学園での風紀委員の仕事は学園の警備と風紀の乱れを整えるというのがメインだ。

 問題児であるユウトは、風紀委員とはあまりいい関係ではなかった。

「それは何度も断っているだろ」

「だが、最近風紀委員内でも君を入れてもいいという話が出ているのだよ」

「へー。でも、俺は入らないからな」

「どうして!?」

「俺は風紀を取り締まるなんて柄じゃあないよ」

「だが…」

「あと異端者って呼ばれて、罵倒されていたやつが風紀委員なんかに入ったら、他の生徒が文句言うだろ」

「そんなことは…」

 スティアは、はっきりと違うとも私が言わせないとも言えなかった。

「ほら。もうこの話は終わりにしよう」

「う、うむ。ところで、ユウト」

「どうした?」

「今日の新聞を見たか?」

「新聞? 何か事件が有ったか?」

 毎日、ユウトもスティアも新聞を読んでいるが、今日は特別変わった事件はなかったはずだ。

「アレックスが貴族の館や商人の倉庫を襲っているらしい」

「ああ。あれか」

 最近、アレックス・フェルニティと名乗る者をリーダーとした盗賊団がよく活動している。

 狙うのは王都や学園都市周辺の金が多くある場所や魔道具が置いてある店を襲っている。

 盗賊団のメンバーは十数人くらいと言われていて、全員が東方系の人間である。

「君はどう思う?」

「どうって?」

「君は本当に彼がやっていると思っているのか、訊いているのだ」

「俺としては、彼ではないと思うよ。スティアは?」

「当然だ。でも、どうして本当の彼は、名乗り出ないのだろう?」

「理由があるんだろ」

「理由?」

「例えば、怪我をして誰かわからないようになっているとか」

「ふむ」

 スティアは、何か考えるような素振りした。

 そして、ユウトを見つめて、

「君が彼なのでは? 君は彼の技を使える上に、魔法は第5階梯まで使える」

「でも、スティア。お前、自分で言っただろ。俺と彼では天と地ほどの差があるって」

 初めてスティアと戦う前に、ユウトが言われた言葉だ。

「あ、あのときは、君の凄さを知らなかったのだっ!!」

「でも、俺は、彼じゃあないよ。名前も剣も違うだろ?」

「偽名の可能性だってある」

「可能性だろ。それじゃあ、俺が彼である証拠にならないだろ」

「そう、だが…」

「ほら、そろそろ行かないと、みんなに心配されるぞ」

「う、うむ」

 スティアは不満げな表情をしていたが、ユウトは気にしないで歩き始めた。


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