闇を照らす 8
ふよん
ユウトは自分の上にあるやわらかい感触によって目を覚ました。
(あれ?クッションなんか上に置いたか?)
ユウトは寝ぼけた頭で考えたが、憶えがない。
というより、クッションはレイシアが寝ているはずのベッドに1個しかなかったはずだ。
(つーか、大きくないか?)
ユウトの胸の辺りから、足の先までの大きさがある。
そんなクッションは部屋にはない。
(ということは…)
理解し始めると、意識がはっきりしてくる。
胸の辺りを見ると
「すう。すう」
レイシアが気持ちよさそうにユウトの胸を枕代わりにして寝ていた。
「やっぱりか」
「ユウト君…」
レイシアはユウトの胸に頬をくっつけて、寝言を言っていた。
「起こすわけにもいかないよな」
ユウトはそういい自分の頭を掻いた。
とりあえず今何時なのかを確認することにした。
頭を動かしてもちょうど見えない位置にあり確認することができない。
(見えないか。まあ、いいか)
トントン
ドアが叩かれる。
「ユウ君、起きていますか?」
リュッカの声が聞こえる。
ということは、もう起きなければならない時間だ。
「おい、起きろ」
ユウトはレイシアの肩を叩いて起こそうとするが、
「ん…あと10分」
そう言い起きようとしない。
「ユウト。起きてないの?」
フレイヤの声もドアの向こうから聞こえた。
2人で起こしに来るのは珍しいのだが、
(この状態を見られるのはまずいよな)
リュッカだけなら、諭して何とかなるかもしれないが、フレイヤがいるなら話は別だ。
フレイヤがこの状況を見たら、確実に誤解をして魔法を放ってくるだろう。
(結構、純粋な子だもんな)
純粋すぎるからこそ、今は脅威だ。
「ユウト、起きていないみたいね」
少しがっかりしたような声でフレイヤが言う。
(よし。そのまま行ってくれ)
「おかしいです。ユウ君が起きていないというのはありえません。何かあります」
リュッカの鋭い洞察力に脱帽する。
(くっ)
「何かって何よ」
「例えば、誰かが部屋にいて出られないとか、でしょうか」
「誰かって誰よ」
「女性とかでしょうか」
「―!!」
フレイヤが驚いているのがわかる。
「へ、へえ。お、女の子を自分の部屋に連れ込んで何しているのかしら」
ドアの方から熱気が入ってくる。
フレイヤの魔力に空気中のマナが反応して発熱しているのだろう。
流石にまずいと思ったユウトは、レイシアを起こさないようにして身体を起こしてドアの前に立った。
ドアの周辺は火山にいるかのような熱さだった。
「おい。フレイヤ、魔力を抑えろ」
ユウトがドアを開けずにそう言うと、
「ユウト、早く開けなさい」
怒気を含んだフレイヤの声が聞こえる。
「そうしたいのは山々なんだが、ドアノブが熱くなりすぎて握れないんだよ」
「あっ…」
フレイヤは理解したようだ。
「リュッカは大丈夫か?」
「…は…い…。問題…あり…ません」
掠れたような声が聞こえる。
熱でへばってしまっているのだろう。
「リュッカ、辛いなら先に行っていてもいいぞ」
「い…え。ここ…で、待って…います」
「わかった。でも、無理するなよ」
ユウトはドアから離れた。
(さて、時間は稼げたが。どうする?)
ユウトは部屋を見渡したが、今の事態を解決できるようなものはない。
「駄目よ…ユウト君…」
静かな部屋にレイシアの寝言が聞こえる。
レイシアを起こして、クローゼットに隠れてもらうのが1番なのだろう。
だが、ユウトは気持ちよく寝ている人を起こすような鬼畜ではない。
「とりあえず。着替えるか」
ユウトは部屋着から制服に着替えた。
もうこの冬用の制服も着なくなるのだと思うと少し寂しい。
(そんなことより、今はこの状態をどうにかしないとな)
「もう、諦めて話すか?」
だけどそれをしたらユウトの部屋が酸と爆炎で破壊されてしまう。
「どうするんだよ」
ユウトは頭を抱えた。
「フレイヤ、リュッカ。そこで何をしているんだ」
凛としたスティアの声が聞こえる。
「スティアにエレナ。あんた達こそ何しに来たのよ」
「あなた達がユウトさんの部屋の前に立っているから来たのですわ」
「うむ。ユウトはまだ起きていないのか?」
「いいえ。起きていますが、フレイヤがドアノブを加熱したので開けられないのです」
「ふむ。だったら、私が冷やそう」
スティアがそう言った瞬間、冷気が部屋の中に入ってくる。
「これでどうだろう?」
「いい感じじゃない」
「ユウトさん、もう大丈夫ですわ」
エレナが言う。
「おう」
ユウトは冷静な声を出したが内心焦っていた。
(どうする?)
策も時間もない。
逃げたとしても、あとでやられるのは確実だ。
もう諦めるしかない。
(傷が少なくありますように)
ユウトは祈り、ドアを開けた。
「おはよう。みんな」
「おはよう。ユウト」
「おはようございます」
「おはようございますですわ」
「うむ。おはよう」
「じゃあ、行こうか」
ユウトがそう言い、ドアを閉めようとすると、
「ユウト、シャンプー変えた?」
フレイヤが急に訊く。
「え?変えてないけど」
「うーん。でも、いつもと違う匂いよ」
「そうか」
ユウトは話を短くして、早くドアを閉めたかった。
だが、ドアは閉められなかった。
「フレイヤ、それはどんな匂いですか?」
フレイヤにリュッカが訊いた。
「ラベンダーかしら」
「ラベンダーですか」
リュッカは何か引っかかっているようだ。
「ラベンダーと言えば…」
スティアが何か思い出したようだ。
「言えばなんですの?」
「確か、女子用の風呂場にあるシャンプーの1つにラベンダー香りがあったはず」
「それね。確かにその匂いだわ」
ユウトはその言葉を聞いて焦った。
(レイシアの匂いがついたのか。油断していた)
「レイシアが使っていたのですわね」
「ユウ君。一体どういうことですか?」
リュッカが笑顔で訊く。
だけど、目が笑っていなかった。
「なあ。ちゃんと、説明するから怒らないでくれよ」
「内容によるわね」
「そうですわ」
「うむ」
「そうですね」
「じゃあ、とりあえず入ってくれ」
ユウトはフレイヤ達を部屋の中に入れた。
「「「「……」」」」
フレイヤ達は入って早々に見えたレイシアの寝ている姿を黙って見ている。
「とりあえず、どうしてレイシアがここにいるの―」
「ユウト君…もう…私…入らないわ」
ユウトの言葉を遮ったレイシアの寝言を聞いたフレイヤ達はユウトをジト目で見る。
「もう、いいわけできないわね」
フレイヤのツインテールが逆立つ。
「そうですね」
リュッカは目が笑っていない笑顔でユウトを見る。
「不潔ですわ」
蔑むような目でエレナが見る。
「不埒な」
顔を赤くしながらショートソードを抜いてユウトの首筋に突きつける。
「な、なあ。は、話しを聞いてくれ」
ユウトが慌てながら、両手を上に挙げたが、フレイヤ達は構わず魔法を放った。




